Aperture: Reminiscence - Short Stories 作:Gun PICK
ーー彼は、私の最初の同僚だった。
「……綺麗です」
声は一寸先の奈落に消えていく。途切れたレールの淵で、それを見つめていた。
無数の煌めく星が、不規則に、しかしどこか意図された配置のように散らばっている。
レールが、ボディの重みで軋む。
後退り、その場を後にした。
Aperture scienceの薄汚れた巨大看板に、申し訳程度の蛍光灯がスポットを当てている。
遠くではボンネットが外れた車が、ワイヤーに吊られて、不規則なカーブの形成をしていた。
レールの揺れに合わせて、宙吊りのまま置き去りにされた人気のないオフィスを抜けた。
ここでは、長い間生き物を見ていない。
瓦礫に埋もれた自動開閉式ドアの前で息を深く吸う。
「締まりが悪い……気がします」
金属の体を左右に揺らすと、塵の粒子が表面を滑り落ちた。
管理AIが"彼女"によって破壊されて数年。依然として状況は改善できていない。
1970年の見慣れたオフィス。分厚いモニターにどっしりと鎮座するコピー機が連なる。
古紙の匂いと蛍光灯の暖かい色味。失った感覚に懐かしさを覚える。
瓦礫をどかす理由を探しては、無力感に放流し、その理由すら思い出せないまま、 ただ毎晩ここに行き着く。
「どれでしたっけ」
音声再生機能を起動して、施設に流れる陽気なルイ・プリマの Just A Gigolo / Ain't Got Nobody に心を預けるように乗せた。
「これも気に入ってくれるといいんですが」
「お前今でもこんなの聞くのか。古臭いの好きなんだな」
ぶっきらぼうにはにかむ顔が目に浮かぶ。
彼は冷たい箱で眠り続けているらしい。
崩れた壁の隙間から、かすかに冷気だけが流れ込んでいる。
電子の中で記録を閉じた。ルーティンとして何気なく普段から書き記している。
ため息にノイズが混ざっており、回路にかかる長年の負荷を改めて痛感させられた。
「ガタがきてますね」
思わず声が漏れる。
人格コアの整備室は、
瓦礫の向こうで沈黙を続けている。
「あーカッコつけてるとこ悪いな。いいとこだった?」
背後で声がした。
エレベーターに影が見える。
吊り下げられた球体が、こちらを向いた。
「あんたの不手際で肉体は骨になってるぞ。まあ、もうあってないような感じだが」
「知ってます。むしろ感謝してほしいぐらいですけどね」
「この壁を越えたらハグしてやるよ。『貴方の営業成績は、上位1000名に入ります』ってな」
「ハイハイ、それはどうも」
彼は私の最初の同僚だ。
お調子者で、空気は読めた覚えがない。
腐れ縁だが、腐るモノはすでにないらしい。
しがらみを捨てた我々は、同じ記録を、少しずつ欠けながら繰り返している。