Aperture: Reminiscence - Short Stories   作:Gun PICK

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燃え盛る夢を見た人格コア


Combustion - 燃焼

胴体は真っ赤に変色し、

電子回路はゆっくりと熔けていく。

 

「見るな。ーーやめてくれ……」

 

自分に似た人格コアが、こちらにゆっくりと振り向きーー。

 

落書きや言葉の羅列が、視界に侵食してくる。

ガラスに、文章が反射する。

 

「『上司』がプログラムされています」

 

鏡に映る自分は轟々と燃えさかり、

ジュージューと音を立てていた。

 

バチッ。

 

集積回路が弾ける音で、目を覚ます。

 

プロペラ模様の眼をした人格コアが、入り口の通路から顔を出した。

 

「またなの? 大丈夫そ?」

 

返事をする余裕もない。

卓上の上司との2ショット写真が、少しずつこちらに迫ってくる気がして、目をそらす。

 

「まただ。……あの、アンドロイド地獄」

 

「ねぇ、あの人に診断してもらいなよ。ログの更新もまだなんだから」

 

プロペラ模様の彼女が、軽く胴を回転しながら通路の奥を示す。

 

振り向いて、まばたきをした。

 

「カウンセリング室はあっちよ」

 

「苦手なんだよ。思ってること全部が、筒抜けで見透かされてる気がして」

 

「私の場合、"Easygoing Core"だから悩みなんてないでしょって。それならそうかもってね」

 

ケタケタと笑う。

彼女の相談事はなんだったのだろう。

 

カウンセリング室のドアは、異常なまでに清潔さを保っているかのように真っ白だ。

 

「実際さ。隠し事出来ないタイプじゃん、君は。悩んでますよ感? ムンムンだし」

 

「ーーあの人に似てきたよね」

 

その一言で、声にならないノイズが、スピーカーから漏れた。

 

「……みたいになったら」

 

「え?」

 

熱を逃がすように、長く息を吐いた。

 

「入ったときからどうしようもない。ずっと感じてる。あの人みたいになったらーー」

 

「自分が乗っ取られるみたいで。壊れていくのが、怖い。壊れるのが、なによりも怖い」

 

彼女と目を合わせて、言葉を吐き出した。

 

「解任された Compensation Core になるかもって」

 

ーーその瞬間、音楽が鳴り始める。

ジェームズ・ブラウンのThat's Lifeがオフィスに流れ込んできた。

 

「やめればいい。とはなかなか、いけないよね」

 

彼女は見上げるように、視線を仰いだ。

 

「それか反面教師になって、負の連鎖を断ち切るしかない」

 

「ーー誰にも、貴方らしさを変える権利はない」

 

燃え盛る炎のなか、彼女の言葉を思い出す。

 

自分は、誰にも変えられないと願っていた。

 

ガラスの文字は、あのときと変わりなく張り付いている。

 

ゆっくりと目を閉じて、体が熔け落ちていく感覚を処理し続けていた。

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