Aperture: Reminiscence - Short Stories 作:Gun PICK
『こんにちは。そして改めて、ようこそ。アパチャーサイエンスへ』
音割れした車内アナウンスが響く。
セントラルセクター行きの通勤列車。
上はチェリー缶、下はサンドイッチ。
ーー中身は想像するまでもないだろう。
科学者たちはブリーフケースを抱え込み、存在感を消すように息を殺す。
我々は、つり革と共に上部のレールに吊り下げられている。
車両は全部で4両、この1両だけでも、搭乗限界数の250人をすでに大きく越えている。
私は Chief Core 。そこで立ったまま寝ている新人の管理を任されている。
将来を担うはずの卵であるが、この様子では孵化の前に廃棄処理が妥当だろう。
『まもなく、セントラルセクター前です』
新たな管理AIの声。
社長の秘書がベースらしい。
機械に違いはない。
「おい、そろそろだぞ。新人」
カクンと首を一振り、新人が目覚めた。
「起動していいんですか?」
「寝ぼけるな。センターに到着だ」
電車から弾き出されて、彼女が抱えていたファイルの束が広がる。
よれた白衣に伸び過ぎた髪。そして、大きな隈の跡。
風貌だけなら、さながらアパチャー社の1級研究員だ。
ファイルには彼女の論文があった。
【分岐軸における選択率の平均】
ーーなるほど。連れてこられたのは当然だ。
・複数分岐点の再接続および分岐軸再遠離化プロセス
ーー偶然と断定できない。タイミングが良すぎる。
「防げてた事象でしたが、ことごとくうまくいかないですね。すみません」
「問題ない。科学者は……いや、人間は常に不安定だ」
足元のファイルを熱心にかき集めながら、
左腕の装置の表示を確認している。
「ところで、君はなぜここにきた」
「えっと、所長が呼ばれたんですよね?」
「……質問が悪かった。君が、この会社に来た理由を問いたい」
彼女は、拾い上げた書類らを両手で抱え込む。
「生き延びるためです。結果を残したいので」
悲しみでも怒りでもない。
トーンは冷静で、妙に落ち着きがある。
「生き延びるって、だいぶアバウトだな」
彼女は出かけた言葉を飲み込むように、表情を緩ませてニコッと笑った。
セントラルセクターは、増設に増設を重ねた結果、塔を中心に“箱詰めの迷宮”と化している。
セクターの受付横に立つ、背の高い人影が近づく。ライトの影で、表情は一切読み取れない。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「ーー Cave Johnson がお待ちです」
「ケイヴ? まだ寝たきりのはずだが」
新人の表情が曇り、人影に視線が刺さる。
彼女は私に接近すると、声を最小限にした。
「……ここにいるケイヴは違います」
「違うって何だ。影武者がいるとは聞くが」
彼女は答えなかった。
左腕の装置の針が、左右にユラユラと振れる。
装置の文字表示が一瞬、エラー画面を吐いた。
「時間が過ぎてる。……まただ」
彼女は、崩れたサンドイッチを見ていた。
戻らないものを見るように
ーーすでに知っているかのように。