彼方の光ー転生者は割と詰んでる世界を全力で楽しむようですー 作:柊 詩音
5話
茜色に染まる街並み。
いつものと変わらぬ日常。
たまに避難することもあるけれど。
「しっかし、政府は何も情報を開示しやがらねえ」
「いつものことだろ。今日も避難命令が出されて仕事が中途半端になっちまった」
「お前のところもかよ。全く、能力持ちは何やってんだか」
居住区へ戻る道中、二人の男とすれ違う。
彼らは確か、建築業の人だったか。
どこもかしこも、すれ違った
ここ最近、避難命令が増えた気がする。
これで…4回目だろうか、あまりにも一つ一つの間隔が近い。
何かとんでもないことが起きようとしているのかもしれない。
「よおコータ、今帰りか?」
考え事をしていると後ろから声をかけられた。
「ジンか。ああ、避難命令が出てから即帰宅だ」
「最近多いよなぁ〜だからこんなに人居るのか」
「……ジンはどう思う?」
「何が?」
「最近の政府だよ。考えすぎだと思うけど…避難命令が多いだろ?結局俺たちは何から避難してるんだろうなって」
過去に四度、避難訓練以外で出された避難命令。
その全てが“避難してください”と言うもののみ。
何から避難するのか、それすらも明かされていない。
周囲で政府の陰謀論を唱えるものも少ないが存在する。
これでは陰謀論者で無くても物事を疑ってしまうのも無理はない…のかもしれない。
「……お前、疲れてんだよきっと。なんか最近そう言う話題多いけどさ、
俺だって頭では理解できてる。
「そう…だよな。すまん、考えすぎだ」
「よし!今日は俺の家で飲もう。明日休みだろ?」
良い酒が手に入ってさぁと肩に腕を回しながら無理矢理引っ張っていく。
彼のこう言う部分に救われているのだと心底思う。
「やあやあやあ、御二方」
突如背後から声をかけられた。
振り返るとそこには、白衣を着たふくよかな男性が立っていた。
「あの…なんすか?急に」
「この国に疑問を抱いている、違うかい?」
「……はい?」
皆まで言わなくても良いよと、手で制止する男に胡散臭さを感じずにはいられなかった。
「そりゃそうだろう、この国は何かがおかしい。そう…“G型変異体とかいう化け物に世界が蹂躙された時”からね」
世界が変わったあの日。
自分たちが目を背け続けた忌々しい歴史に彼は触れようとしている。
「諸外国は後手後手の対応により全滅。日本だってそうだ、東京近郊を除くその全てが蹂躙された。…おかしいとは思わないかい?」
なにが?と、言うことは簡単だ。
思考を放棄すれば良い。
だが、矢継ぎ早に繰り出された言葉に唾を飲んだ。
「何故、“東京近郊のみが無事だったのか”。結局、ここに行き着く訳だ」
「政府が秘密裏に開発していた…なんと言ってたか。あ、そうGバリア!そのGバリアってどうやって開発できたんだろうね」
「一年、僅か一年だ。東京を覆えるほどのエネルギードームの作成…そんなことが果たして可能なのだろうか」
次の言葉に俺の意識は持っていかれた。
「これは仕組まれた滅亡だ」
頭に重い衝撃が加わったかのような情報。
自分は陰謀論者達とは違うと言い聞かせていたのに。
「日本政府は秘密裏にGエネルギーの可能性を掴んでいた。それは、生命の進化を促す作用。この技術の独占…ああいや、君たちの言いたいことはわかるよ?そんなことをして諸外国が黙認してるのかってことだよね」
「無論。全てを隠し通せば、諸外国からの圧力がかかりすぎる。ならばどうするか?Gエネルギーは人類に“のみ“新たな力を与えると公表したのさ」
「当時の総理は外交が上手かったんだね。その技術を一部公開したのさ。そうすると周りは“なんてお人好しの馬鹿なんだ”って認識する」
「そりゃ、こんな素晴らしい技術独占しない方がおかしい。だが…しなかった。真の目的のために、自国の大半を犠牲にする決断を下したのだからね」
「どうやって日本政府はGエネルギーの性質を理解したのか。簡単だ、人体実験だよ」
「勿論無辜の民を選んだわけではないよ?犯罪者を使っての実験さ」
「君たちもよく知る能力持ちが誕生した」
「実験が成功した能力の発現とともにその者を処刑した」
「そして、人々がGエネルギーの可能性を理解し始めて2年。このタイミングで日本政府による大量殺戮が行われた。動物がG変異体へ進化してしまったという形でね」
「既に完成していたGバリアの起動を一年後にすることで“今完成しました”感を出したんだ」
「さて…日本政府の真の目的とはG変異体が跋扈する新たな世界で“統率者”となる事だ」
「厄介な他国を抹殺した事で戦争の心配は無くなり、最悪の結末を回避した英雄として自国の絶対王政をとれる」
「いやはや見事だよ、本当に…。国家による私兵化とはね」
「では“皆さん”に聴きましょうか?国家の犬と成り下がった隣人に蔑まれ続ける現状を許しますか?」
いつのまにか集まっていた同類達に少し恐怖する。
いま芝居掛かった口調で演説しているこいつは俺達に何をやらせようとしてるのか。
「立ち上がれ人類よ。新人類と宣う奴らに反旗を翻すのだ!」
おおおおお!!!!と、轟く爆音。
「私こそは…プロフェッサー。悪しき日本政府に反逆するリベリオン・プロフェッサー也!!」
その日、この国に住む現人類約20万人が忽然と姿を消した。
緑生い茂る富士の基地にて。
「ふっ…イカれた女達にバレちまったわけだが」
『何を言ってるんです?』
盗んだリンゴのような果物を齧る。
俺は考えました。
なんかよく分からん超パワーで傷が癒えるメカニズムを。
やはり、肉体を作り変えられてるのではないか?
その結論に至り、それとなーく総体に振ってみたら“それが何か?効率的でしょう??”なんて返されちまった。
「つまり顔がバレた今、買い出し(窃盗)しにくい状況だ。よって、肉体改造を行う」
『結論が飛躍しすぎて、頭がおかしくなったのかと思いましたが…いや頭おかしいですね』
「かと言って、同姓で違う顔ってなると違和感が凄すぎて気が狂いそうになる筈だ」
『もうなってるじゃないですか』
さっきから失礼だな。
俺は真面目に言ってるんだぞ。
「これにより、ドキッ!美少女パイロット化計画を始動する!!」
『えぇ…』
「あの痛みを知らねえからドン引くんだぞ。二度とあれ受けたくねえから」
冷静に考えて欲しい。
バケモンロボットに乗る為に最低限肉体改造(おそらく)したであろうこの肉体だったからこそ、あのビームで貫かれずに済んだ。
元の肉体だったら貫かれるどころか上半身消し炭になるレベルのビームやぞ?
ちなみに作中最強の合体ロボ《ダイナミックDG》の主砲は、あのメスガキの異能を基に使用されている。
てか、おかしいだろ。
未来視した後に高火力ブッパは!
避けれるわけねえだろうが!!
生身の人間でやって良いレベル超えてるだろ!!
俺のロボットも強いんだぞ!!
生身でできねえだけなんだぞ!!!
「やるぞ総体!TSの準備をしろ!!」
『素直にドン引きですが……わかり、ま…したぁ』
その夜、富士の麓では奇怪な雄叫びと綺麗な緑の輝きが空に上がっていった。
「すまない…君にばかり命をかけさせてしまって」
「気にしないでくださいよレイカ先輩。あのデカいのが出てる間も、変異体は変わらず跋扈してるんですから。適材適所ってやつですよ」
腰まである長いポニーテールを靡かせる女性、レイカ・タチバナは緊急招集によりリョウと共にギルドまで足を運んでいた。
「それにしても急にギルドへ呼び出されるとは…いつもは君だけなのにな」
「うっ…まーたアスカさんに怒られるのかぁ。まあ直近2回は自分で倒せなかったしなぁ……」
「私は専門外だが、謎のロボットによる介入は君の落ち度では無いんじゃないか?」
「レイカ先輩みたいに頭が柔らかい人ばかりなら良いんですけどね」
あのプテラノドンの時、謎の光によって倒された。
自分だけで倒せなかったことから、アスカさんによる特別指導が始まってしまった。
時に座学を、時に実技を。
対人戦においてならそれなりに強くなったと自負している。
…が、相手は化け物。
こちらのフィールドだと言うのに埒外な動きのせいで苦戦してしまう。
その結果、
チーム
構成メンバーは、“リョウ”、“レイカ”、“アスカ”、そしてオペレーター3の妹、“オペレーターG”の4名である。
そして結成後の戦いでは、謎の機体による介入で一匹倒されてしまった。
嫌でも気づいてしまう。
既に
重厚な扉を開け、中から漂う“圧”に空気が重くなる。
「レイカ・タチバナ、リョウ・サカキ現着しました」
「お疲れ様です!!」
既に四人のSランクが揃っていた。
いつかのような緩い雰囲気を微塵も感じさせ無いところから、今回の件が如何に重要な物であるかを認識させる。
「来たか…座れ。緊急会議を始めるぞ」
緊急会議…?あれ?俺へのお小言では無いのかな。
「まずは、謎の機体による戦闘介入の件についてだが…通信の内容から現時点での敵対意識は無いものして扱う。それにより、次に現れた際にはその機体とのコンタクトを最優先目標とする」
まあ悪い奴じゃなさそうだったし戦力にできるならした方が良いよな。
「次にアヤとフタバが交戦した謎の男についてだ」
「報告によると“現存している人類”では無いと挙げられていた」
…え?
「つまりこれはこの国以外で人類の生き残りがいるのか、それとも“変異体による擬態”の可能性が出てきたってわけだ」
擬態って…そんなことができるのか?
変異体は動物から進化したとされているってのはレイカ先輩から聞いた事あるけど。
いや、現存しない恐竜の変異体がいるんだからおかしい話では無いのか。
「その男はフタバの収束砲撃を受けても腕が消し飛ばされなかったそうだ」
「あ、リョウ君は見た事なかったよね〜。私のはチャージする時間で決まるんだけど、ノータイムで撃ったとしても高層ビルくらいなら一瞬だよぉ〜」
ピースを作りながら得意げに笑う彼女だが、つまりそんな馬鹿火力を持ってしても腕一つ消し飛ばされなかった
「どうするんすかそんな奴…ダイナミックGの火力で倒せるか不安なんですけど」
「お前がそんな弱気でどうする。これは、人類が生存する為に避けて通れない道だ。変異体の進化を止め、徹底的に潰す」
「それは、総理の思想ですか?それともあなた自身ですか?」
瞬間、空気が凍る。
サヤカさんの目が鋭く射抜く。
その目の奥には、ドス黒い何かが渦巻いているように見える。
呼吸をするのも忘れてしまいそうな静寂の中に溜息一つ。
「
以上だ。と、部屋を出て行ったその背中は俺の想像できない『何か』に押し潰されているように見えた。
「……では、私達も戻りましょうか。リョウさん、貴方が希望です。最強などと持て囃されている癖に何もできない私の分までよろしくお願いします」
「ちょっ、サヤカどうしたのさ」
震える声で彼女は絞り出すように言い、部屋を出て行った。
「あーごめんねぇ〜。サヤカちゃんもあんなだし今日はお開きって事で」
二人だけになったこの部屋で、何も知らない新人には最強を取り巻く深い闇を理解できていなかった。
だけどこの感覚は理解できる気がする。
自身の無力さに嘆く姿。
それは、ベッドの上で寝たきりだったあの時に似ている。
変わらない光景。
白い天井、窓から見える建物の壁面、そして鏡に映る痩せ細った
これは二度目の生が充実しているからこそフラッシュバックするのであろう。
もう二度とあんな惨めな思いはしたくないから。
そんな負の記憶に思考を縛られていると、レイカ先輩が口を開く。
「リョウ、私達はまだ何も知らない。だが、知らなければならない。この世界で選ばれた側なら」
「先輩…そうですね。特に俺が頑張らないと!」
まだまだ未熟の身。
空元気でもなんでもだして自分は頼もしい仲間なんだと実感してもらわねば。
決意と覚悟と不安を抱えた最強集団は、今夜も平穏無事に乗り切った。
漆黒の夜。
夜空に浮かぶ月がモニターに映る。
日本…いや、世界の最後の主要都市“東京”。
その中心に聳える高さ500mを超える赤い電波塔“TOKYOタワー”。
その地下に鎮座する一室に地球の主導者とも呼べる存在が一人。
現日本首相“轟 甚兵衛”。
「私ももう年か」
一見すると40〜50代くらいの見た目だが、実年齢は80を超えている。
Gエネルギーの副作用により、老化を抑えている為だ。
「私の最期に見る光景にしては、あまりにも残酷すぎる」
彼は長く生きたのだと心底思う。
彼の直感は8割当たると自負している。
「あと一年あるかないか…私の任期で地球が滅亡するのだけは勘弁していただきたいものだ」
ため息混じりに呟いた言葉は闇夜に消え去っていった。
闇夜に浮かぶ三日月は大きく裂けるように赤く赤く染まっていた。
次回もお付き合いくださると嬉しいです