天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

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えいりあんを倒したその後(閑話)

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待っている間の話

 

「キリさんって不思議な人ですね」

 

 遠目にボウスさんに頭を下げながら何かを話しているキリさんを見る。

 

「あ? 不思議ちゃんだよ確かに、電波少し入ってるし」

「あ、銀さんもそう思います? って真面目な話をしてるんです! 僕は!」

 

 分かってる癖に、まったく銀さんは……。

 

「女の人なのに僕を片手で放り投げたんですよ。そんなこと出来るのは姉上ぐらいかと思ってました」

 

 付き合った時間はそんなにないけど、それでもわかる事はある。

 遠慮深いと思いきや、下品な事や辛辣な事も結構平気で口にする。それに加え不安定な梯子の上で片手で掴まりながら、もう片方の手で僕を放り投げたり……なんて無茶苦茶な人なんだろうと思った。

 姉上も大概だけど、それに二重に輪をかけて酷い。

 そんな人がホームレス生活を送るなんていったいどんな事があったんだろう。

 

「たしかになー。実はゴリラの生き別れの妹なんじゃねーの?」

「そんな人いませんよ!」

「じゃあ、姉とか」

「年が合わないでしょ!」

 

 一瞬父上の隠し子か? という考えも浮かんだがあの真面目な父上に隠し子なんているはずがない。

 

「ねぇ銀ちゃん、キリはどうして私たちの事嫌うアルか?」

「やっぱり嫌われてたのあれ!」

 

 少し不思議そうに言う神楽ちゃんに、気のせいじゃなかったのかと胸が痛む。

 何気ない雰囲気なのに、言動の端々に拒絶するようなものが垣間見える。

 特に気に障る事をした覚えもない、というかそこまで深い時間を過ごしていないのにも関わらずだ。

 人見知りするタイプなのかな? とも思っていたんだけど……。

 

「前にちらっときーたら、ヤマアラシがどーとかとか訳の分かんない事言ってたぞ」

 

 空を見上げながら、鼻をほじってる銀さん。

 珍しいな、基本、誰かに嫌われようが好かれようが気にしない人なのに。

 

「10:0のツンツンってことですかね」

「さあな、たんに野良ヤマアラシって意味なんじゃねーの」

「野良ヤマアラシって何ですか! 普通に野生のヤマアラシだろそれ!」

 

 でもまあ、肝心のところは結局良くわからないのか……。

 

「そういえば、何で連れてきちゃったんですかキリさん。確かに腕っぷしは強いですけど、女の子なんですよ銀さん」

「帰れつったのに勝手についてきたんだよ」

「やっぱりツンツンアルネ」

「……あの凄い砲撃から僕等を守るように立ってくれてましたね、手とか足とか震えてるのに……」

「ツンツンだな」

「ツンツンアルネ」

 

 言葉に出さずにも伝わることはあるって事かな?

 

 

―――――――――――――――

ある日の別れ挨拶話

 

 総悟の野郎これもか……。山の様に積まれた始末書の山に眉間が寄る。

 

「すみませーん」

「あァ?」

「客です、副長」

 

 この声はザキか……。

 

「入れ」

「おじゃましまーす」

「あ゛ァ?」

 

 眉間の皺が深くなる。ザキと一緒に入ってきたのは元ホームレス。現在、万事屋居候、黒島キリ。

 

「チッ、なんでてめーが……」

「近藤さんが今度遊びに来いって」

「近藤さんなら留守だ」

「だから土方さんのところに遊びにきました」

「帰れ!」

 

 このくそ忙しー時にこいつの相手なんざしてらんねーぞ。

 煙草……くそっ切れてやがる。

 

「マヨボロですかね?」

「……話ぐらいきーてやろう」

 

 差し出されたタバコを受け取り、火をつける。

 なかなかわかってんじゃねーかよ。

 

「この度、江戸から出ることになりました。お世話になりました」

 

 何やってんだこいつは、三つ指なんかつきやがって。

 オイ、いつまでやってんだ。あーくそ、面倒くさい。

 

「いーから頭を上げろ。どういうつもりだ」

「愛しの土方様に置けましてはかねがねお世話になりましたので、最後のご挨拶に。端的に言えば愛ゆえに?」

「気持ち悪りィこと言ってんじゃねーよ! 見ろ、サブいぼたってんじゃねーか!」

 

 本気でぞわっとした、サブいぼが全身に立った。

 酷いな~ヨヨッとか、本気でやめろ。あれこれ何、デジャブ? って。

 

「江戸を出るのか?」

「はい。色々手を回して頂いたみたいなのに済みません」

「……万事屋は……いや、てめェが決めたならいい」

「万事屋さんは居心地が良すぎるぐらいでした。理由は別にあります」

 

 またあの顔だ。なに笑ってんだよ。イライラする。

 

「あてはあんのか」

「人類皆穴兄弟なので何とかなります」

「穴つけんじゃねーよ! なに恐ろしいことサラッと言ってんだよ! つーか女がそんな事口にすんじゃねーよ」

「あれそーでしたっけ?」

 

 笑いながらすっとぼけるこいつにイライラが増す。

 

「誤魔化すんじゃねーよ。……ないんだろ。出てくにしても、あてが見つかるまで万事屋にいりゃーいいじゃねーか」

 

 適当なこと言いやがって。

 

「そーいう訳にも行かないんですよね、これが」

「止めろ」

「えっ?」

 

 誰か万事屋呼んで来いよ。こーいうのはあいつの役目だろうが。

 保護者怠慢だと毒吐くも、来るわけねぇし……柄じゃねーんだがこんな事。

 

「その顔。笑いたくもねーときに笑うんじゃねーよ」

 

 頭の後ろが痒くなる。ガリガリと掻き毟る。

 

「逆ですよ、笑いたくない時でも笑ってれば笑えるようになるんですよ」

「見ているこっちは煙草が不味くなるんだがな」

「済みません……」

 

 本気で済まなさそうな顔をするあたり、分かってねぇなこいつ。

 

「ちげーよ……テメェは少し誰かに頼る事を覚えた方がいい。万事屋なら喜んで手を貸してくれんだろう」

「無理です」

「頑固者が」

 

 こいつはなんでこうも他人と距離を置きたがる。独りが好きって訳でもなさそうなのに。

 次の煙草に火をつける。

 

「土方さんはなんで私を万事屋さんに……? 性別とか年齢とか考えるとあそこは適切じゃない気がしたんですよね」

「不満か?」

「違います、ただ、なんでかなーと」

「そこ以外に預けても逃げ出しそうな気がした。万事屋なら……万事屋が随分お気に入りだったみたいだからな」

「なんっ!」

 

 こーいう顔もできるのか。なんでばれたのかって顔をしてやがる。

 さっきのよりは随分ましだな。

 

「……なんでそんな事を思ったんですか?」

「なんでばれたんですか? って聞くかと思ったんだがな」

「土方さん、実は今、中に沖田さん入ってません?」

「入ってねーよ、気味の悪い事言ってんじゃねーよ」

「はぁ~。で、なんででしょうか?」

 

 いつもはスカした顔をしているこいつのこーいう顔を見れただけでも、仕事を中断した甲斐がある。

 総悟じゃないが、苛めたくなる。

 

――脳裏を巡るのはあいつを追いかけていた時のザキからの報告書。テロとは無関係とはいえ、一応不審人物として、最初の頃は観察扱いとなっていた。

 

『ザキ、てめぇ仕事やる気あんのか、この報告書別人だろうが』

 

 性格、人間性を記載した部分。俺等と対峙した奴とまったく一致しない分析結果に、追う人間を間違えてるんじゃないのかとザキを問い詰める。

 

『え、そんなはずは……。いえ合ってますって。ほら洋服を着ていて年恰好一緒の女なんて江戸中探しても、キリちゃんしかいないですよ』

『キリちゃんとかいってんじゃねーよ、気持ち悪い。ならこれはどういうことだ? 感情的で、人見知り、最後の寂しがりやってなんだ、そんな人間じゃねーよ奴は』

『真選組(こっち)での顔は、大嘘のまがい物だったって事でさァ。随分下手糞な嘘だったもんで言わなかったんですがねェ。土方さんは気づいてなかったんですかィ? 副長辞めた方がいいんじゃねェんですか? ってか死ね』

『どっから湧いてきた、テメェが死ね!』

 

 いつの間にか背後に立っていた総悟が、報告書を覗き込んでくる。

 何を考えているか分からない、全然ビビりもしねぇ可愛くない女。

 あれが嘘だってことか?

 

『それにしても、おかしな奴ですねェ。毎日ねぐらを変えるホームレスなんて聞いたこともねェ。こいつ何かに追われてるんですかィ?』

『あ、それはないです、昼間は普通に観光してたりしてますし』

『観光だ!? 総悟もいつまでも覗くんじゃねぇ!』

『副長! 苦しいですっ! 俺の所為じゃないですって! た、助けて~』

 

 金に困っている訳でもないのに普通のホテルや、宿にすら泊まらず人から離れて暮らす女。

 人間が嫌いかと思えばそうでもない。

 唯一長くとどまったのが万事屋の屋根の上。

 万事屋に聞けば、何を考えているか分からない不器用な笑顔を浮かべてた女だったと言う。

 こいつの道順を意識して辿ってみれば、定期的に万事屋連中がよく立ち寄る場所が何か所か含まれていた。

 結局万事屋にも懐かなかったか……。ため息の代わりに煙を吐き出す。

 

「テメェがもう少し素直になったら答えてやるよ。 ほらもう行け仕事の邪魔だ」

 

 ニヤリと笑って書類に向かい始めれば、不満そうにしばらく文句を言っていたが、何も答えずにいると諦めたのか立ち上がり、部屋を出ていく。

 

「土方さん、色々ありがと。……そして、ごめんなさい」

 

 去り際に残された言葉で俺は仕事を再開する。

 謝罪の意味を取り違えたまま、流離う先で、こいつが懐く人が見つかればいいと柄にも無いことを考える。

 

 

 

―――――――――――――――

ある日の酒の肴

 

 行きつけの居酒屋で珍しくヅラに会った。

 格安で飲めてツケもきく、少し寂れた感じも結構好きなんだが……。

 指名手配犯が堂々と飲んでていいのかよ、オイコラ。

 ふと、こいつなら知ってるかもしんねーと思って聞いてみる。

 

「なぁヅラ、ヤマアラシのジレンマって知ってるか?」

 

 さっぱり意味の分からなかった言葉、なんとなく忘れられなかった。

 

「銀時の癖に難しい言葉を知っているな」

「銀時の癖にとはどういう意味だ。まぁ、意味は知んねーんだけど」

 

 心底びっくりしたような顔でこちらを見るヅラがムカつく。

 たく、人の事馬鹿にしやがって……。

 まあ、知んねーもんは知んねーので、ここは素直になっておく。

 

「ヤマアラシは互いに好きに思っていても、近づくと自分のトゲで相手を傷つけてしまい苦しめてしまう、けれど近づきたい。そう言うもどかしい事を言うのだが……誰かに言われたのか?」

 

 脳裏をよぎるいつかの会話。

 

『俺らの事も嫌いな訳? 少なくとも新八や神楽はなんもしてねーだろ』

『坂田さん。ヤマアラシのジレンマって知ってる?』

 

『誰が寂しがりやのうさぎちゃんだ、コノヤロー。うさぎはてめーだろ』

『ふふふっ! うさぎは神楽ちゃんで、私はヤマアラシでしたー。おりゃっ!』

 

「あいつ……」

 

 どんな顔をしてそんなことを言っていたんだ。

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