『神楽ちゃんのお父さんと一緒に宇宙に行くことになりました』
そう聞いた時、やっぱりと思った。
きーやんと私達は、かつてのパピーと私。
パピーが私の何かに怯えてたみたいに、きーやんは私達と一緒にいる時は常に何かに怯えている。
だから、いつか行ってしまうことは分かっていた。
でも、やっぱり寂しい物は寂しいな。
「銀さん! キリさん止めてくださいってば」
「ぱっつぁん。んなこと言ったって本人が出て行きたいつってるんだ好きにさせてやれよ」
「出て行きたい訳無いでしょう! なんか理由があるはずなんです」
「それを本人が言わねェんだ。俺達がしてやれる事は何もねェよ」
新八は分かっていないね。銀ちゃんは分かってるみたいだけどな。
騒がしい。酢昆布を齧りながらそんな事を思う。
きーやんは新八が来る前に万事屋を出て、夜遅く帰ってくる。
どこで何をしているかは言わない。けど、きっと私達を避けてるんだと思う。
「それにな……あいつはここに縛り付けても出て行っちまうよ一人で。あのハゲと一緒なだけまだ安心だろ」
そうネ、銀ちゃん。心の中で呟く。きーやんはすぐ独りになりたがる。
パピーと一緒ならまだ安心ヨ。
その言葉で新八もこれ以上何も言わなくなった。
なんだ、新八も分かってたけど、止めたかっただけか。
今日の酢昆布はちょっと酸っぱいアルね。
「神楽。お前もハゲについて行けよ」
銀ちゃんにそう言われたのは新八が帰った後。
死んだ魚の眼をして、社長席でジャンプ片手に言う銀ちゃんの真意は分からないかった。
「なんで今更そんな事をいうアルか?」
銀ちゃんの本当の気持ち知ったから、今はもうその言葉に傷つきはしない。
だから、本当に今更なんでそんな事を言い出したのか、気になっただけ。
「迷ってんだろ」
「……ゴメンネ……銀ちゃん」
銀ちゃんの顔を見てられなくて、俯いてしまった。
パピーも銀ちゃんもどっちも大事ネ。パピーが『元気でやれよ』と言ってくれた時、パピーと一緒に居たいと思った。でも、今更、銀ちゃんにもパピーにも言えなくて……。
「また、戻ってくんだろここに。待ってるから今はハゲと一緒に行けよ」
「……うん。また、戻ってくるネ。絶対。待っててネ、銀ちゃん」
寂しくなって抱きついたら銀ちゃんは、あやすように背中を撫でてくれた。
出発の日、銀ちゃんは見送りに来てくれなかった。
捻くれ者だからしょうがないと思ってもやっぱり少し寂しいアルな。
そう思っていたら、トントンときーやんに肩を叩かれた。
振り向くと、しって一本指を口にあてて、掌に包まれた小さな鏡を見るよう促された。
何アルか? そう思って覗き込むとそこには銀色の髪をしたサラリーマン。
笑いながら、素直じゃないねというきーやんの言葉に頷いた。
でも、そんな風にきーやんが笑ってるから、気づけなかった。
地球が見えなくなって、キラキラとした星も見飽きた頃。
「ねぇ、パピー。そう言えば、なんできーやんと私のチケット違うアルか? 地球人用と天人用アルか?」
「目的地が違うからな」
暇つぶしがてら、思いつきで聞いた答は予想外で、何を言っているのかが最初分からなかった。
「きーやん! 騙したアルか!」
びっくりした私は、パピーを乗り越えてきーやんに掴みかかる。
「落ち着いて神楽ちゃん。騙すって何?」
ゆっくりと手が外され、落ち着くように諭される。
勝手に勘違いしてたのは私達だったアルか? 最初からきーやんはそのつもりで……?
「きーやんが、パピーと一緒に行くっていうから。ずっと一緒だと思ってたアル」
私達の勘違いに気づいたきーやんは、何も悪くないのに、ごめんねって言って抱きしめてくれた。
「きーやん。きーやんの目的地はどこアルか?」
「さぁどこだろう?」
そう笑うきーやん。教えてくれるつもりはない、そう思った私はパピーを振り返る。
「パピー!」
「俺からは教えられないな」
「なんで! パピーは独りで行かせる気アルか!?」
「神楽ちゃん、私が決めたことだよ。酢昆布食べる?」
パピーに噛み付く私にきーやんは、そう言って酢昆布を渡してくれた。
その目は、優しく、でも絶対にそれ以上踏み込ませないような目だった。
「そこにきーやんを思ってくれる人はいるアルか?」
「んー。人類皆兄弟って言うしね、大丈夫だよ」
嘘アル。でも、何度問い詰めてもパピーもきーやんも何も教えてくれなかった。
中継ステーションでお別れだよと言われた。
パピーを脅したときーやんに言われて、本当にきーやんは独りで行ってしまうんだと、胸が痛くなった。
「気を付けてね。神楽ちゃんバイバイ」
「バイバイ、きーやん」
でも、きーやんが笑って手を振るから、私も笑って手を降った。
「今は行かせとけ。あいつには必要な事だ」
キリが見えなくなってパピーがそんな事を言った。
繋いだ手の先を見上げると、――いつか迎えに行ってやれ――そう言われ、頷いた。
それからパピーと二人でリゾートを満喫して地球に戻ると、銀ちゃんの股間が腫れたり、ヒロインの座を奪い合って、姉御やさっちゃん、キャサリンが喧嘩したりしてた。
だけど、やっぱりヒロインは私アル。そう言うと銀ちゃんも新八もお帰りと言ってくれた。
「ただいまアル」
ガラガラと万事屋の戸を開け、背負っていた銀ちゃんを玄関に下ろす。
「う゛ー。気持ち悪い……。流石に飲み過ぎた。銀さんもうダメだー」
「帰ってきてそうそう、酔っ払いの介抱させるとか、最悪アルな」
崩れ落ちる銀ちゃん。本当にダメ天パアルな。
コップに水道水を入れて銀ちゃんに渡す。
「飲むヨロシ」
――コクコク
コップから水を飲む音が響く。
「あんがとさん」
そう言った銀ちゃんは、空になったコップを握り締めたまま、開けっ放しになった玄関を見つめる。
「銀ちゃん……きーやんは独りで行っちゃったアル」
「やっぱりか、あの野良娘……」
それだけ言うとそのまま寝てしまった。
空のコップを取ると戸を閉め、毛布を掛ける。
銀ちゃんいつか迎えに行くネ。