天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

14 / 55
切り捨てられたフラグ

 私の行動コマンドは

 ・にげる

 ・ぼうぎょ

 の二択だ。

 侍になれない私は、それ以外の選択肢を持っていない。

 誰にも迷惑を掛けないように一人で生きたかった。

 返せない恩を受けながら、『ぼうぎょ』しかできなかった日々とはお別れだと思っていたのに……。

 万事屋を大切にするのは、代償行為。

 壊してしまった家族の代わりに、万事屋を大切にしているだけ。

 だからもう私は……。尊い物を護るためだったら何だって出来る気がした。

 

 鳥からの映像を繋ぐ。銀さんに一匹だけ付けた。

 もし私を探すような素振りがあれば帰せるように。

 チャーター船でもこれない遠く遠くはなれた太陽の光も届かぬ場所でじつとそれを見つめる。

 暖かい物を知ると、己の孤独を否が応でも自覚する。

 握り占めるのは、捨てられてるはずだった犬語翻訳機『わんじゃこりゃあ』。

 銀さんの着物から転げ落ちたソレに表示されていたのは――シャルキーヤ星――。

 そっかあの時、定春いたもんな……。盲点だった。

 

 繋がれた映像は細かなものが少しずれた私の知る未来。

 銀さんだけが帰されたことに、銀さんを責める神楽ちゃん、宥める新八君。

 土方さんが訪ねてきて、二言三言話して帰る。

 その日銀さんは深酒をした。

 

 騒がしい毎日の隙間に私が混じる。

 きーやんへと書いた手紙を押入れに貯めこむ神楽ちゃん。

 それを切なそうに見つめる新八君。

 時々銀さんは一人で空を眺めて酒を舐める。

 

 暖かい映像と、冷たい現実は相対比で冷たく感じる。

 寂しくて辛くて、暖かさが腕の中にあったことを信じられなくなる。

 

 万事屋に赤子が捨てられた。勘七郎君だ。

 ワイワイと赤子をあやす皆。手はぷっくりしていて、目つきや髪は銀さんそっくり。

 岡田似蔵。もうすぐ銀さんは彼の人に切られてしまう。

 痛いだろうか、痛いのだろう。そんな大怪我をしたことのない私は痛みが分からない。

 手慣れた様子でオムツを変え、赤ん坊を抱きかかえ、大立ち回りをする銀さん。

 思ったよりもあっけなく切られてしまう。

 飛び散る血は赤く、膝を着く銀さんは痛そうだった。

 

 ここで私が似蔵を殺したら紅桜篇はどうなるのだろうか?

 あんな大怪我を銀さんはしないのだろうか?

 鉄矢さんは紅桜を諦めるのだろうか?

 高杉と桂さんは仲直りできるかな?

 それとも江戸は大炎上するのだろうか。

 もうすぐ始まってしまうソレに心が揺れる。

 

 勘七郎君を取り戻した銀さんはいちご牛乳で乾杯する。

 

『約束だ。侍は果たせねー約束はしないんだ』

 

 果たせなくてもいいから忘れて欲しいと願う。

 

 楽しそうな日々が過ぎていく。

 膝を抱えじつと見つめる。

 私の痕跡は薄れながら日常に紛れ込む。

 そうやってそのまま忘れて欲しい。忘れてほしくない。

 そんな感情が入り乱れる。

 

 エリザベスが万事屋を訪れた。桂さんが行方不明だと言う。

 とうとう始まった紅桜篇。

 銀さんは妖刀を探し、江戸を練り歩く。

 日がどんどん陰ってゆく。日など沈むな。

 そんな願いも虚しく、日が陰る。

 

 エリザベスと新八君が路地でやりとりしているのを、ポリバケツに入った銀さんは気だるそうに聞いている。

 御用聞きの人が切られた。

 忘れていた。すっかりとさっぱりと。モブだとそう思ってしまっていたから。

 その人は血と内臓を撒き散らし崩れていく。

 死……。私は……。何ヲ シテイルノダロウ。

 思いの外ショックを受けている。そう残った冷静な頭が分析する。

 心電図と私と無機質な部屋。一直線を示す線。フラッシュバックする。

 私は死というものを知っているはずだ、だから大丈夫。そんなもの嘘だ。

 こんな死に方を私は知らない。

 自分が死ぬことなんて頭の片隅にでもあっただろうか?

 愛しい人に別れの挨拶も出来ぬまま死んでいく。

 討ち入りで死んだ隊士もこうだったのだろうか……。

 

 白刃の刀と、洞爺湖と彫られた木刀が相対する。

 橋に大きな穴を開け、川に叩きつけられる銀さん。

『おかしいねオイ。アンタもっと強くなかったかい?』

『おかしいねオイ。アンタそれホントに刀ですか?』

 紅桜の侵食が進み、脈打つ。

『……生き物ってより、化ケ物じゃねーか』

 その言葉通り、似蔵が化け物じみた速度で迫り狂う。

 一合、二合、鍔競り、銀さんの蹴りに似蔵が水しぶきを上げて倒れる。

『喧嘩は、剣だけでやるもんじゃねーんだよ』

 倒れた似蔵に馬乗りになって刀を振り上げる。

 触手が伸び、銀さんがバランスを崩す。

『喧嘩じゃない殺し合いだろうよ』

 木刀が折られ、胸を切られ血飛沫が上がる。

 似蔵からの追撃が迫る。

 脊髄反射だった。

 

 

 

 気がつけば、月の下。バシャバシャと水が足を打ち付ける。

 冷たい鉄の塊が背中から腹に突き抜ける感覚が気持ち悪い。

 痛みは後からやってきた。気が狂いそうな痛みに反射で痛覚を絞る。

 刀の気持ち悪い感覚だけが残った。

 

「キリイイイイイ!」

「キリさん!!」

 

 咄嗟に空間を繋ぎ跳んだ。銀さんに向かい合う形で、似蔵を背に。

 向きや姿勢なんて考えている暇はなかった。

 

「殺し合いに水を指すとは無粋だねェ。それにしても、このお嬢さんはどっから現れたのかな?」

 

 背後から冷たいゾクリとする声がする。

 触れそうなほど近くにある声。

 その声が、蛇の様に心に絡みつく。

 血を流した所為なのか、心を縛られた所為なのか体が冷たく動かない。

 私も死……? 恐怖が心を支配する。

 

「離せっ!」

 

 押さえつけた銀さんが叫ぶ。銀さんの出血も不味い域に達している。

 動かないように力を込める。刀の折れた状態でどうするというのだ。

 刀が押し込まれる。そのまま刺し貫くつもりだろうか。

 届かせない。

 恐怖に震える心。手のひらから伝わる温度がそれに対抗する。

 

「固いねぇ。人間かィお前さん」

 

 心底不思議そうに蛇が舌なめずりするのが聞こえる。

 

「離せェエエエ!」

 

 必死で拘束を抜けだそうとする銀さん。血が噴き出る。

 

「動かないで……死んじゃうよ銀さん。大丈夫だから……」

 

 吐息のような声しか出ない。聞こえただろうか……。

 そんな顔やめて欲しいなぁ……。大丈夫なんだってば。

 

「後悔しているか? 以前俺とやりあった時なぜ殺しておかなかったかったと。俺を殺しておけば桂もアンタも、その嬢ちゃんもこんな目には遭わなかった。全てがアンタの甘さが招いた結果だ。白夜っ!?」

 

 何かに察知して、押し込まれてた剣が反転して引き抜く方向に動く。

 抜かせない。抉られるような不快感に悪寒が走る。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 空から降ってくるのは新八君の声。

 ビチャビチャッと暖かいモノが背中にかかり、刀から力が抜けた。

――シュル

 全身に鳥肌が立つ、咄嗟に刀を抜き投げ捨てる。

 最低の最低にいると思っていたが、更に最低があった。

 紅桜に侵食されかけた。

 刀が抜けた傷口から血が吹きでて、川面を赤く染める。

 

「腕が取れちまったよ、酷いことをするね僕」

「それ以上来てみろォォ! 次は左手を貰う!」

 

 後ろからそんな声が聞こえる。

 霞む視界、崩れ落ちる体。抱きとめる血まみれで少しだけ白さの残った着物。

 

――ピィィィー

 

 甲高い呼び笛の音がする。

 

「チッ、うるさいのが来ちまった。勝負はお預けだな。まァ また機会があったらやり合おうや」

 

 バシャバシャと掛ける水音。キリと呼ぶ声。

 遠くなる意識。気を失ってはダメだ……。

 外傷はそのままに、中身だけ治す。

 潰れた幾つかの臓器を修復、流れた血液を補充し、痛む神経は絞る。

 呼吸がしづらい。

 

「……バカヤロー」

 

 そんな声がする。バカヤローはテメェだ。

 

「銀さんの止血を早く」

 

 支えてもらった腕を逆に抱え直し、石砂利の上までパシャパシャと進む。

 抵抗する力は弱く、失った血液の量を物語る。

 

「キリさんの方が!」

「私は大丈夫」

 

 やっとたどり着いた岸辺に銀さんを下ろす。

 意識はあるようだが、体が動かないようで悔しそうな目だけがコチラを睨む。

 黒い川面に反射した明かりが近づいてくる。人が集まってきた。行かないと……。

 

「バイバイ、銀さん。これ返してもらうよ」

「新八……キリを止めろ……」

「新八君止めた方がいいよ。そんなことしたら銀さん死んじゃう」

「キリさん!」

「銀さんをお願いね?」

 

 新八君の声に笑いながら、かつて枕元に飾った絵をピラピラ振る。

 二人が見えなくなった所まで歩き、傷を修復する。

 散々おかしな現象を見せつけていながら、未だに私は力を隠したがる。

 臆病者だなぁー。

 

 奪ってきた絵を千に千切る。いつの間に抜き取ったのかは分からなかったが、所持しているのは前から知ってた。

 放っておいた結果がコレだ。

 あの時、銀さんは咄嗟に庇ったのだ。懐に仕舞ったこんなものを……。

 あの角度は本当に不味かった……。

 じゃなきゃ、ショックを受けているとはいえ、咄嗟に飛び出すなんて対応取らなかった。

 バカヤローはお前だ。銀さん。

 

 向かうは、高杉の船。

 私の血を吸った紅桜は回収しないと……。

 どんな化け物になるんだろうか。

 

 高杉の船から銃の撃ちあう音がする。

 神楽ちゃんだろうか。

 一人で戦わせるなんてことはさせたくない。

 走りだそうとしたとき、建物の陰からヌルッと抜け出す影。

 それは人影を取り、月の光に照らされ、刀を構える似蔵となった。

 紅桜のおかげか片腕の血は止まっていた。

 

「あれで生きてるとは。本当に人間ですかィ?」

「その刀こちらに寄越して下さい。そしたらお家に帰ること許してあげますから」

 

 蛇の様な声と、凍りつく様な殺気が、つま先から頭の先まで舐めるように纏わりつく。

 

「許すとはだいぶ剛気だねィ。白夜叉との続きお嬢ちゃんがやってくれるかィ?」

 

 言い終わるか終わらない内に飛び込んでくる。先ほどより速度が上がっている。

 威力も。手のひらで刀を受ける。

 触手が伸びてくる。それごと握りしめ、硬直する似蔵を殴り倒す。

 手を離れた刀を回収し、炎でドロドロに溶かし尽くす。

 意外とあっけなかった。こんなもんか……。

 

「人間辞めてたのは俺だけじゃなかったみたいですねい」

「紅桜、もっとあるでしょ? もう一回遊んであげるから持っておいでよ」

 

 むくりと起き上がった似蔵にそう言い残し、船に向かって走る。

 人間辞めた? そんなつもりはない。私は人間だ。

 

 忍び込んだ船内は既に鎮まり返っていた。遅かった!?

 慌てて鳥を飛ばし詮索する。

 独房で寝ている神楽ちゃんを見つけた。

 ここからでもまだ、元に戻せるだろうか。

 似蔵は言葉通りもう一本の紅桜を手にした。

 獲物のLvは落ちてるだろうが十分じゃないか。

 

 脳裏を過るは、臓物を散らし死んでいった御用聞き。

 ここで同じ大量の死が始まる。

 どうしたらいいんだろう私は……。

 救う覚悟も、見殺しにする覚悟もできていないまま夜が明ける。

 

 刀を奪われた似蔵は、高杉を挑発して殺された。

 紅桜のデータが足りなかったのか、拒絶反応でも出たのか、振り下ろされる刀にそのまま斬られた。

 死力を尽くせば助けれた気もする……。

 でも、迷っている間に終わってしまった。

 未来を知っているのに、何でも出来るはずなのに、無力感しか感じない。

 

 私は、似蔵も嫌いじゃない。

 似蔵の焦がれる思いを知っている。

 似蔵は銀さんに斬られる瞬間、救いを見出したんじゃないだろうか……。

 一本の剣として斬られたそこに美学を見いだせていたのではないか。

 それを私は……。

 かつて約束された未来は既に遠く彼方に行ってしまった。

 

 神楽ちゃんは拘束されたまま。

 船を揺する轟音が響き渡る。

 十字に縛られた神楽ちゃんが運びだされようとしていた。

 

 もう、いいんじゃないか。

 似蔵が死んだ今、ストーリーはもう戻り様がない。

 何も覚悟は決まってくれないまま、神楽ちゃんを取り戻す。

 

「ウチの可愛い娘。帰して貰います」

 

 運んでいた攘夷浪士を殴り倒しながら、神楽ちゃんを奪い取る。

 

「きーやん!!」

「久しぶり、神楽ちゃん助けに来たよ」

 

 神楽ちゃんの笑顔は曇りがなく、今の私には少し痛い。

 ワラワラと出てくる浪士。きりが無い。

 船が斜めになる。咄嗟に壁に走るパイプに捕まる。

 転がり落ちていく浪士達。

 

「神楽ちゃん舌噛まないようにね」

 

 ようやく水平になった船。神楽ちゃんにそう忠告し、駆け出す。

 目標は、甲板。新八君はそこにいるはず。

 甲板に出てみれば、攘夷浪士に囲まれた新八君。

 隣にはエリザベス――中身は多分桂さん――。

 

 対峙するは高杉。

 エリザベスが切り裂かれ、中から桂さんが飛び出す。

 硬直した高杉は、桂さんに斬られ、倒れこむ。

 

――ドォオン……ドォオン……

 

 似蔵が船を落とさなかった所為で砲撃はまだ止まない。

 知ってる未来と知らない未来が交差する。

 

「晋助様ァァァ!」

 

 また子の悲鳴が響き渡る。

 

「神楽ちゃん、後は大丈夫だね?」

 

 コトンと十字を下し、拘束具を外す。

 

「きーやん……。どこ行くアルか?」

「すぐ戻る」

 

 神楽ちゃんの不安な顔を消せなくて、見てられなくてクルリと踵を返す。

 船を止めないと、この船が落とされる。

 桂さんの仲間が乗る船……。どう止めるか。

 格納庫に向け走る。似蔵が乗っていた小型機があるはずだ。

 

――ドォオオンン

 

 砲撃? いやこれは、きっと武器庫が爆発した音。

 船が傾く。小型機なんて乗っていたら間に合わない。

 上空の船に跳ぶ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。