天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

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ジャンプヒーローは絶対無敵

――バリッ

 

 広範囲に電撃を打ち込む。倒れ伏す浪士たち。

 何が起きたかも分からないままだっただろう。

 砲撃が止む。

 何度か同じ方法で転移と電撃を繰り返す。

 

 ひと通り沈静化させ、急ぎ高杉の船に跳ぶ。

 戻るのは正直嫌だった。

 鳥を通して情報は常に把握している。不測の事態の為に。

 船は既に血まみれだ。そして銀さんと対峙しているのは、村田鉄矢。

 紅桜を自身に融合させた鉄矢さん。

 想定外だった。似蔵が死んだことで完全に安心しきっていた。

 唇を噛み締める。救えないのか……。

 

「兄者ァアア、もう、もう止めて!! 兄者の作りたかったモノはこんなものなの!?」

 

 鉄子さんの慟哭のような声が響く。

 

「もっとだ、もっともっていけ紅桜ァアアア! 余分な物を捨て去るんだ!」

「無駄つってんのが分かんねェのか! いい加減止まれつってんだよ!!」

 

 体の半分を侵食されながらも、紅桜に全てを渡そうとする鉄矢さん。

 素人目でも、似蔵にはるかに劣る鉄矢さんに攻めあぐねている銀さん。

 銀さんは……鉄矢さんが人として意識がある限り、斬れないだろうきっと。

 

「キリッ!!」

 

 銀さんはこちらに気付き私を呼ぶ。

 

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」

 

 そう言いながら、銀さんと、鉄矢さん――紅桜――の間に割り込む。

 

「下がってて、銀さん」

「ざけんな!」

「邪魔」

 

 こんなにも冷たい声が出るのかと思うとビックリする。

 思わず手を止める銀さん。その間に鉄矢さんの侵食は進む。

 刀を振るう腕を掴む。鉄矢さんの体からブチブチと筋が切れる音がする。

 それを力任せに抑えながら、侵食を止める。

 

「どおした紅桜ァアアアア!!」

 

 体の侵食が止まったことに気付いた鉄矢さんが、暴れ狂う。

 触手がのたうち足場が崩れる。堪らず、瓦礫諸共下の階層に落ちる。

 

「キリィイイイ!」

 

 銀さんの声が聞こえる。瓦礫が崩れ落ちた先にいた武市先輩とまた子を、ドサクサに紛れてなぎ飛ばす。

 

「きーやん」

「きりさん」

 

 神楽ちゃんと新八君の声が聞こえる。

 

 手を離した時に侵食が進み、大量にのたうつ触手。

 埋もれる様に存在する本体を抑える。侵食を止め、電流を流し込み、無力化を図る。

 だが、紅桜は止まらない。

 

「くそっ、鉄矢さん聞こえてる!? 貴方の作った刀は凄いよ、こんなに凄い刀見たこと無い。でも! 大事な人を泣かせるような刀なんてダメだ」

「そんなことはない! 斬れない刀など意味が無い! 斬れれば良いのだ! それ以外大事なものなどない!!!!」

 

 それこそが唯一無二の真実であるかのように言い切る鉄矢さんに、殴りかかりたくなる衝動を抑える。

 

「あるだろ、大事なもの! 命をかけて貴方を迎えに来た人がいるだろ! 私はもう無くしてしまった。無くしてからじゃあ遅いんだよ! 気づけこのバカヤロウ!」

 

 神楽ちゃんが、新八君が触手を切り飛ばし、跳ね飛ばし私を護ってくれる。

 その暖かさをなぜこの人は分からないのだろうか。

 手を伸ばしても届かなくなってからでは遅いのだというのに。

 

「貴方を護ろうとして打つ剣は、打った人は意味がないとっ!?」

 

――ビュッ……ドスッ

 

「ぐっ……ふっ……」

「きーやん!!」

 

 神楽ちゃんの悲鳴と共に、弾けなかった一本の触手が唸りを上げて脇腹に突き刺さる。

 侵食を止めるのと、身体制御に精一杯でこれ以上の力を使えない。

 焼けつく様な痛みが襲う。

 でも、届けないと……。

 

「聞け! 貴方……はまだ……戻れる。ちゃんと……見て」

 

 口を開けば痛みに気が遠くなる。

 

「うるぁああああ!!」

「兄者ァアアアア!!!」

 

 上から降ってくる白い着物と突き刺さるとぐろ竜を鍔に持つ刀。

 届かな……かった……?

 力が抜ける……。視界がブラックアウトした。

 

 

 

 目をさますと、見たことのある天井だった。

 途端に襲う痛みに神経を絞る。

 触ると包帯のサラリとした感覚がした。

 血が足りなくて少しフラッとする。

 

「キリ!」

「きーやん!!」

「キリさん!」

 

 起き上がると三者三様の声がして、赤いチャイナ服が突進してきた。

 倒れながら抱き止める。けが人にこれやったら普通死ぬよ!?

 

「死ぬ! キリさん死んじゃうから!!」

「ご、ごめん。大丈夫アルか?」

 

 新八君の声に慌てて温もりが遠ざかる。

 心配そうに見つめる神楽ちゃん。

 大丈夫だよと頭を撫でる。

 とても久しぶりな気がする。

 

「これ痛み止めです、あとコレは化膿止めと……」

 

 新八くんがザラザラとお薬を掌に載せる。

 全て私には不要なものだけど、その優しさを断れなくて飲み干す。

 

「お久しぶりです」

 

 視線を少し上げ、柱にもたれている家主にペコリと頭を下げてみる。

 

「久しぶりたー水くせェな。ただいまって言えよ」

「そうですよ。ここはキリさんのお家だと思っていいんです」

「こんな狭苦しいボロ家だけど、住めば都アルネ」

 

 久しぶりの万事屋はとても暖かくて、不意打ちで、取り繕うことの出来なかった私は子供の様にみっともなく泣いてしまった

 

「銀さんティッシュ」

「へいへい」

 

――ビーッ

 

 ひと通り泣き終わってスッキリした。

 

「もっと色気のあるかみ方できねェのか。おめーそれでも女だろ」

「セクハラだー。神楽ちゃん助けてー」

「オイ、クソ天パ、きーやんに色気とか、なに無理なこと言ってるアルか」

 

 呆れたように銀さんが言うけど、色気のある鼻のかみ方ってどんなだろう。本当。

 そして神楽ちゃんそれフォローになってないよ。

 

「新八君ありがと」

「どういたしまして。もう大丈夫なんですか?」

 

 気遣い大使の新八君は、冷たいお茶を渡してくれた。泣いた後って喉乾くよね。

 大丈夫なんですか? その声にドキリとする。

 似蔵に刺された傷が無いことに気が付いているだろうか……。

 

「んー。大丈夫。多分? きっと、おそらく?」

 

 恐怖を押し隠しへらっと笑って見る。

 とたん、頭を後ろから抑えられ、わしゃわしゃとかき混ぜられる。

 

「キリもこういってるんだ。お前らもう寝ろ。昨日から寝てねェだろ」

 

 万事屋社長の声は絶対で。嫌アルとか、もう少し大丈夫という声は蹴散らされ、二人は部屋から追い出された。

 

「何かあったら遠慮なく銀さんに言ってくださいね」

 

 そう新八君の言葉を残して、襖が閉じられる。

 

「本当に大丈夫なのか?」

「怪我なら大丈夫」

「そうか……なら良かった……良かった」

 

 布団の傍に胡座をかきながら、前髪をバリバリ掻く銀さん。

 その声にどれだけ心配を掛けたのかが分かった。

 

「ごめん」

 

 でも、それ以上何も言われない。

 聞かれないことが逆に怖い。

 

「……何も聞かないの?」

 

 恐怖に耐え切れず、自分から切り出す。

 

「聞きたいか、聞きたくないかつったら、聞いておきたい。でもお前が無事であれば、別にいい」

 

 『聞いておきたい』その言葉に銀さんの優しさが詰まっていた。

 こんな滅茶苦茶ばかりする私をまだ護ろうとしてくれている。

 

「銀さん。あのね……怪我治せちゃうんだ私。しかも結構簡単に。似蔵に人間辞めたのかって言われちゃった」

「人間だよ」

「そーだよね。失礼しちゃうなーもう」

 

 へらへらと笑う私に、笑うなと言うだけで、本当に何も聞く気は無いみたいだ。

 

「銀さん、私ね本当に怖いの分かったよ」

 

 顔を見ていられなくて、目線を落とし、何時もより白く見える手を握る。

 

「未来はもう諦めがついた。どう足掻いたって変わってしまうから。迷いはあるけど、護るためになら闘う事もきっとできる。でも……そのために、何もしない事を責められるのが怖い。見捨てなきゃいけないことが怖い」

 

 『いい加減にしてください! 神楽ちゃんを見殺しにする気ですか!?』

 ターミナルのえいりあん退治の時に、新八君に言われた言葉。

 内臓と血を撒き散らして死んでいった御用聞きの人。

 包帯を触る。新八君や、神楽ちゃんに責められるのが怖くて、傷を治さずに足掻いている。

 まだ大丈夫なんじゃないかと……。

 

「ねぇ、銀さん。『目前の安きをぬすむ』って知ってる? ここにいたら私は、目前の安寧の為に、本当に大事なものを見捨てちゃいそうで怖いよ」

 

 チラつかせた汚いナイフに、息を飲む音がする。

 ――目前の安きをぬすむ――吉田松陰の言葉。コチラの世界では『先生』の言葉たるだろうか。

 

「私が今この未来の為に、『先生』を『助けれた』のに『見捨ててた』としたらどうする?」

 

 アルカイックスマイルを浮かべ、銀さんを見つめる。

 大事で綺麗でだからこそ奥底に閉まっていた筈のモノに、チラつかせた汚いそれを突きつける。

 これは例え話。あまりにも酷い例え話。

 でも、それが例え話だと分かるのは私だけ。

 死んだような目は変わらない。

 私には銀さんの内面を推し量るなんて芸当は出来なくて、それだからこそ、後悔と恐怖と自己嫌悪で『ごめんなさい』そう言いたくなる口をぐっと食いしばる。

 本当に最後だ。もう私は……。暖かい尊いもののためなら、本当に大事なものも切り捨てられる。

 

「銀さん、私は行くよ」

 

 回答なんて求めてない、切り捨てるための質問。

 何かを言われる前に……。

 逃げるように立ち上がろうとした肩を捕まれ、バランスを崩し、後ろ手を付く。

 

「待てよ」

 

 視界に入ってくる顔は心なしか、怒っているようにも見え、恐怖で身が竦む。

 

「それで俺が諦めるとでも思ったのか? そんな妄言で、愛想尽かすとでも思ったか? 残念だったな、京都の女並みにしつこいんだよ銀さんは」

 

 悪い顔してにやりと笑う。傷ついていないはずは無いのに。

 動揺した私は、『京女だけじゃなくて、女はみんなしつこいんだよ銀さん』そんな軽口も思いつかなくて。

 

「妄言かどうかは……分かんないじゃん……」

 

 咄嗟に返せたのは、妄言を真実にするための戯言で。

 

「どっちだっていいんだよ」

 

 それだって銀さんには通用しない。

 

「何で……こんな、無茶苦茶なのに。こんな酷いのに」

「知らねーよ。俺だってこんな面倒臭い奴なんざほっときてーんだよ」

「だったら、もう放っとけばいいじゃん」

 

 面倒くさい……その言葉に自業自得ながら傷ついている自分がいる。

 自身を嘲笑いたくなる反面、そう思われていると思うと泣きたくなる。

 

「しゃーねーだろ。理屈じゃねーんだよこういうのは」

「わっけわかんない……もう、やめてよ」

 

 感情は突き落とされ、突き上げられ、ぐるっと回ってジェットコースター。

 

「じゃあ何であの時お前は俺を庇った。 なんで放っておかなかった?」

「それは銀さんがあんなもん庇うから……」

 

 言い訳だ。

 結果的な問題。危なくなればきっと私は放っておけない。

 きっと理屈じゃない。それはそういう事。

 分かっていても、言葉は上滑る。

 

「違うだろ」

「違うことない……。もうやめよーよ、死ぬ所だったんだよ……銀さん」

 

 全部見ぬかれている。でも、そんなこと認めるわけ行かなくて逃げ道を探す。

 咄嗟に吐いた言葉に、恐怖が蘇る。似蔵に斬られた時よりも、鉄矢さんを救えなかった時よりも強い恐怖。

 私の所為で、二度も死に掛けた。

 

「……悪かった」

 

 ボソリ呟かれた言葉は、一瞬聞き間違いかと思った。

 けれど、本当に申し訳なさそうなその表情が、聞き間違いなんかじゃない事を物語る。

 

「いいよ、もう終わったことだから。でも、二度としないで?」

「無理だ」

 

 素直に謝られるなんて思ってなかったから、居心地が悪くて、わざとおどけて見れば、否定する応えが返る。

 何かを言おうとして、言えなくて、息継ぎが上手くいかなくて、ヒュッとブサイクな音を立ててしまう。

 

「なんで……? じゃあ、さっきの悪かったは何が悪かったっていうのさ!」

「痛い思いをさせて悪かった! 怖い思いをさせて悪かった! 迎えに行けなくて悪かった!」

「違う! 私はそんな謝罪いらない! 約束して欲しいだけだ。もう私を護らないで」

「じゃあテメェも護んな。好き勝手生きろ」

「……無理だよ」

 

 銀さんを否定すれば、自己を否定することになる。

 なんという自己矛盾。

 

「だったら、お前は勝手に俺を護ってろ。俺は勝手にお前を護る」

「なんだよ……それ……」

「万事屋ってのは、そんなもんだ」

 

 私には解けない問題に、滅茶苦茶な銀さんの回答が突きつけられる。

 ぐるっと回ってたどり着いたのは最初の回答。

 大声で否定しながら、心の底から欲していたもの。

 自分の我儘を肯定する言い訳を欲してた私は、まんまと銀さんのペースに巻き込まれて、絡み取られて手繰り寄せられる。

 銀さんの手口なんてまるっと知っている筈なのに、私ごときじゃそれすらハンデにはならないらしい。

 

「お前が責められる事があれば、俺も一緒に泥被ってやる。お前が何度何かを見捨てたって代わりに俺が拾ってやる。全部拾えるとは約束できねェ。でもこの命ある限り拾い続けてやる。何かありゃあ俺も同罪だ。何も怖くない」

 

 気がつけば背負った重荷を分捕られ、逃げ道を塞がれ、降伏の白旗が上がっている。

 雁字搦めで逃げ出す術なんて見いだせない。

 

「だからもう、あんな寂しい所にいるな。ここにいろ」

 

 その大きさに、暖かさに、優しさに、嫌と言えないことがもう既にボロ負けだ。

 それでも、諦めきれなくて最後の悪あがきをする。

 

「ここにいる必要がない。ここである必要がない。だから私は……」

「一度しか言わねェからよく聞け。……好きだ」

 

 悪あがきは、予想外の言葉に切り捨てられる。

 真面目な顔でじっと見つめる目は死んでいなくて、真摯な思いを伝えてくる。

 

「だからここにいろ」

「私は銀さんのこと好きだけどそーいう好きじゃない」

「それでもいい」

 

 嘘だ。銀さんは誰も好きにならない。私は知っている。

 私のための優しい嘘。

 そんな優しい嘘までついてくれてこの人は私の居場所を作ってくれる。

 涙なんて出し尽くしたと思ったのに、またボロボロ溢れてしまう。

 

「責任……取ってよね」

「振った癖にプロポーズかそりゃ」

「違う。この……クソ天パ」

 

 憎まれ口すら、軽く返され、お決まりの言葉しか返せない。

 ジャンプヒーローは絶対無敵で、私なんて敵わない。そう思ってしまった。

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