夜中目が覚めた。
何の夢を見ていたかはわからないけど、血の匂いがまだするような気がする。
目を閉じるとはっきりと思い出す。
桂さんが斬り殺した高杉の仲間達。
逆に斬り殺された桂さんの仲間達。
寝ていたソファーの上で、静かに体を起こす。
「銀さん。死は……怖いね」
音には出さずに、そう口を動かす。
銀さんならなんと答えるだろうか。
視線を和室に繋がる襖に向ける。
その向こうにはきっとこの恐怖を取り除いてくれるヒーローがいる。
でも、そんなこと頼りたくなくて。
背負ってくれるだろうから。
背負ってしまうから。
似蔵を思い出す。
私の所為で救われなかった人。
嫌いじゃなかった。
これを一つづつ拾って私は背負っていかなくちゃいけないと思うと、とても胸が重くて抱えきれないと思った。
襖の向こうのヒーローはきっとこんな重さをいくつも抱えて生きているのだろう。
『それまで仲間を皆を護ってあげてくださいね。約束……ですよ』
それ以上の痛みを背負って、微笑んでいるのだろう。
敵わないな……。
それ以上寝れる気はしなくて、窓の外を眺める。
生憎の曇り空で星も、月も見えない。代わりに下品なネオンサインと、赤提灯が通りを明るく照らす。
酔っぱらい共の喧騒の音と、遠くに聞えるパトカーのサイレン音。変わらないかぶき町の夜。
似蔵は……もし助けていたらどうなったのだろうか? 殺すために生かす……あの時に迷った思い。生かす為に生かした所で、きっともう刀など握れなくなる体。
高杉は使えなくなった道具は捨てるだろう。
捨てた業を引きずって暗闇の中をフラフラと、抜身の刀を肩に担いで歩いて行く、そんなイメージを思い浮かべる。きっと彼も、銀さんと同じで捨てるのが苦手な人だろうから。
まぁ、それ以前に似蔵自身がそんな己を許しはしないか……。
じゃあそれを癒してまた戦わせる? そして誰かを殺させて、誰かに殺されるまでそれを続ける。
途切れる事のない死の螺旋。この世界でFF好きはきっとマイノリティー。だから異界送りはしなくてもきっと大丈夫。
生きていればきっと良い事があるさなんて、楽観的な事に浸れる人間になりたかった。そうすれば迷わずに済んだし、こんな思いなど抱えずに済んだ。
薄くなった雲の間から朧月が顔を出す。
怒鳴りつける声がする、喧嘩だろうか? パトカーが近くで止まる。いい加減にしろとか、この酔っぱらいがとかそんな声が聞こえてきた。
この世界は暴力に溢れているなんて、ポエミーな事を考えた所で自虐思考を止める。
ネオンサインが一つづつ消えていく、それを見ながら息を殺して朝になるのを待つ。
朝になればきっとまた頑張れる。そんな気がした。