天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

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天国で出会った鬼

 気がつき目を開けると、板張りの天井。さわりと触れるのは温かみを持った布団? 視界に入ってきたのは畳敷きの純和室といった感じの部屋。知らない天井、余りにもベタ過ぎるそれを口にしようとして止めた。

 意識が途切れた時に、鳥は散ったのだろう。頭痛と耳鳴りと吐き気は止まっていた。

 

「気が付きやしたかィ?」

 

 かけられた声に、布団から体を起こす。そこに居たのは黒い隊服に飴色の髪。沖田総悟……マダオでいいと思ってたのに、いきなりのご対面。ただし不穏な空気がそれをラッキーとかそんな事では片付けられない

 

「土方さーん。起きやしたぜィ」

 

 戸惑う私を置いて、呼ぶ声に襖が開き目つきの悪い、瞳孔開きっぱなしの男が登場。

 なんて思っていると、ギンッと睨まれた。はて? 何かしたっけ?

 

「テメェ、攘夷浪士か?」

 

 中井さんボイスで素敵な脅しをかけられた。

 思い当たる節はない。むしろ洋服なんて天人のものを着ている攘夷志士なんているのだろうかと思う。

 

「なんでそう思ったんですか?」

 

 アルカイックスマイルの仮面を張り付ける。数少ない私の処世術。

 とりあえず下手から。相手は腐っても公務員。長いものには巻かれろってねぇ~。

 と、寝たままだったわ。今さらだけど体を起こす。

 幸いに洋服は元のままで、乱れた様子はない。寝ている間に何かされたという事はないだろう。

 

「テメェ、なんであんなところにいた」

「あ~……なんだ結局アレは役に立た……。なんでもないです。ただ空が綺麗だなぁって寝てただけですよ?」

「やはりあの変な雰囲気は天人の道具か。おい、総悟つれてけ」

 

 意識を飛ばす寸前に張ったつもりの人避けの結界。やっぱりあの力は妄想の産物で何の効果もないのか? そう思いのまま口に出したとたん周りの空気が凍り付く。やってしまったと思ったものの後の祭り。私はそのまま沖田総悟らしき人物につれていかれた。

 

 その後の展開は思い出すのもむかつくような展開。

 攘夷浪士か、違う、どんな道具を使った、どこにから来たと怒涛の質問攻め。

 『黒島 キリ 18歳 女 生年月日不明 住所:地球 出身地:地球』と答えたら、怒鳴られて、そのままずるずると拘束が延長。ガッデム。

 

 その間の会話で分かったことは、天人の道具を使ったテロが発生。下手人の攘夷志士がちょうど私が隠れていた付近で逃走。たまたまいた沖田さんが勘の鋭さを発揮。中途半端になってしまっていた結界の隙間から私を発見、屯所に連れて帰ってきたと。天人の道具らしきものを使った人物≒テロ犯人という図式。

 お笑い、ギャグどこ~? ってぐらいの超シリアス鬱展開。睡眠時間も削られての取調べという名の尋問はSAN値直葬DEATH。

 

 そのまま力任せに逃げようかという考えが頭をよぎるが、ここで逃げると誰かが責任取らされて、切腹に……。とか考えると逃げるに逃げられない。力任せであれば逃げられるという状況も、今一歩踏み出す事ができない理由の一つ。

 漫画の中なら切腹とかギャグで考えられるけど、この雰囲気はソレで済むという確証を微塵も感じさせてくれない。

 土方さんも沖田さんも好きなんだけどなぁ~。SAN値がガリガリ削れる毎日に愛情もガリガリ削れていく。

 

 ちょうど3日目。風呂にも入らず乙女としてどうよって匂いが漂っている。

 

「どうだ、そろそろ言う気になったか?」

 

 マヨ方が、紫煙を漂わせながら睨みつけてくる

 固い椅子と狭い机。The取調室という感じの部屋からは空気の抜けが悪く、少し煙っている気すらする。

 

「そろそろ風呂入らせてくださいマヨ野郎。そーやってプカプカプカプカ煙草ふかすから私の体、超絶煙草臭いんですけど。責任取ってください」

「まだまだ余裕みてェだな」

 

 口ではそういうものの、もう煙草の匂いなんて鼻が麻痺して感じない。

 ちなみに、カツ丼土方スペシャルは尋問中に経験済み。マヨネーズを必死に取り除いてもカツはすでにマヨ塗れ、犬の餌でした。それが唯一のギャグパート。

 土方さんが今度は相手してくれるらしい。さっきまでは別の人だった。中井さんボイスでの尋問は、私にとってはごほーびですごちそうさまです。

 そうやって現実逃避をして、余裕をかましていても実際はそろそろ限界。

 気がついたら訳のわからない所に連れて来られて、見に覚えない事を根堀り葉堀り聞かれて、じゃあ論理だって説明しろって言われても、こちとら状況を把握してないんだと逆切れしそうになること数十回、実際逆ギレしたこと数回。こんな事で泣きたくなんてないから、全部怒りに変えて発散するけどそんな事あまり得意でもなく、心が挫けそうになる。

 

「土方さん、試合で勝ったら釈放してくれませんか?」

 

 滅茶苦茶な理論だろうけど、なんとか相手から出て行ってもいいという言質を取りたい。そうすれば私はきっと相手の所為にして逃げられるから。

 

「あァ? 寝言は寝てから言え」

「いえいえ本気ですってば。正直私をこれ以上拘束しても何も喋りませんよ?」

「容疑者と刀で取引なんざァきーたことねェよ」

 

 思案する姿に、これを断られたら強制脱出してもいいかなと、先ほどまでの考えを翻すような弱気な事を考える。

 何も思いつきで言ったわけじゃない。

 この三日間、殴りたそうな顔をした隊士が実は何名かいた。

 士道上の問題かなにか知らないが、暴力に訴えられる事はまだなかった。けれど相手も、何も喋らない私にそろそろ我慢の限界を迎えてる気がする。こちらからの提案で力に訴えることができるならば、嬉々として乗ってきてくれると思ったけれど……。

 

「……だが、まあ、いいだろう」

「ありがとうございます」

 

 取引成立。ほっとする。

 

 屯所の道場に連れてきて貰えば、対戦者はサディスト沖田さん。立会人に土方さん。

 正直、他の隊士とか隊長が相手してくれると思ったけど、のっけから一番隊隊長。

 しかも、当たり前の様に、防具は何も付けさせて貰えない。軽くて動きやすいなぁ、くそっ。

 真選組の本気ぐあいが感じられてとても嬉しい。残り少ないSAN値がガリッと削られる。

 お互い竹刀を構えての勝負。真剣じゃないだけましだと思うことにする。

 

「泣いて謝るなら今でせェ」

「泣いても許してくれないくせに、このドエス野郎」

 

 きらきらしたベビーフェイスに薄汚れた女。なんでこーなったんだろうなぁなんて思っていても試合は始まる。

 身体制御とでも呼ぶべき方法で動体視力と反射神経、筋力を底上げする。動きを確認するため、二、三合打ち合ってみた。ぶっつけ本番で不安しかなかったが大丈夫そうだった。

 

「……なかなかやるじゃねィか」

 

 ポーカーフェイスを浮かべた軽口には返せなかった。

 体は余裕で付いていくが心がついていかない、しびれるようなバシンバシンとした響きに、威圧感。

 立会人の鋭い視線。

 余裕をかましている場合じゃないと本気でかかる。

 ふっと消えたように見えるだろう。瞬きする時間より短く文字通り刹那の時間をついて、沖田さんの首筋に竹刀をあてる。

 何が起こったんだという顔をする。

 

「釈放してくれますよね?」

 

 けれど、その言葉に土方さんは頷く事なく、続きという言葉が道場に響き渡った。

 

「武士に二言はないんじゃないんですか」

「……誰が一試合だと言った」

 

 それから何度も続きという言葉が発せられ、ようやく、もういいというの言葉が発せられるのは、それから10試合後。

 沖田さんはポーカーフェイスを固め貼り付けた、能面の様な表情でこちらを見つめている。

 最初の一試合以外は一合も打ち合うことなく終わった。終わらせた。怖かったのだ、一試合ごとに増してくる威圧感が、殺気のような冷たい視線が、ピリピリとする空気が。

 胸に暗い影が差す、そういう顔をさせたい訳じゃなかった。ただ出してくれれば良かったここから。私は土方さんも沖田さんも嫌いじゃないんだ。

 誰も何も言わない。ようやく土方さんが瞳孔の開いた眼で此方を睨みつける。

 

「おい、誰かこいつを部屋に戻……」

「屯所の人間全部ぶっ倒して出て行ってもいいですか?」

 

 無情に響く、部屋に戻せという言葉を懸命に遮る。できるだけ威圧的に聞えるように――私にそんな覚悟がない事を悟られない様に。

 土方さんならもう気付いているだろう、本気になったらそれが可能であることを。

 

「……くそっ」

 

 その言葉にそのまま出て行ってやった。

 靴が見当たらなかったので適当なやつをぱくってやったざまーみろ。

 

 屯所を出た瞬間往来の視線が突き刺さる。

 そりゃそーだと己の格好を見て思い当たる。

 チンピラ警察とは言われているが、れっきとした警察からでてきた薄汚れてて目つきの鋭い女、履いている靴はサイズの合わない男物。

 気が付かないふりをして、舗装されてない道をザリザリ歩く。

 一匹だけ鳥を作り、道を探らせ、もと居た河川敷まで戻り、もと居た場所に体育座り。膝に顔を埋める。

 昼下がり。太陽はギンギラで、川から吹く風は涼しい。

 

「銀ちゃん酢昆布買ってヨ」

「昨日買ってやったじゃねェか。そんなお金うちにはありませ~ん」

「ふざけんな、パチンコ行ってたやつが何言うアルネ」

「ぐはっ!! タ、タップ!!!」

「神楽ちゃん! 銀さん落ちます。これ以上やったら銀さん落ちますから!!!」

 

 土手の上からそんな声が聞こえた。

 声ですらキラキラしていて、振り向いて見つめたらそれだけで汚してしまうんじゃないかと思って振り向けず、徐々に遠ざかる声を見送った。

 だけど、聞いているだけでささくれだった心が凪いでいくのを感じた。

 不安や、寂しさ、悲しさといった感情を、怒りに変えていた変換器はそこでとうとうぶっ壊れ、決壊した水が頬を濡らす。

 身に覚えのない感謝だろうけど感謝せずにはいられなくてそのまま瞼を落とす。

 

「おい、生きているか?」

 

 ゆすられて起きてみればあたりはすっかり夕暮れ、ゆすった方を見てみれば臙脂色の作務衣に、グラサン。恐らくマダオもとい、長谷川さんだろう。

 

「おはよーございます」

「ねぇちゃん新顔か? 何があったからしんね~が、これ敷くだけですこしはちげーぜ?」

 

 黒島キリはダンボールを手に入れた。Lvが1上がった。

 

「ありがとーございます」

「いや、いいってことよ」

 

 それからダンボールを敷きながら、少しだけ長谷川さんとおしゃべりをする。

 生きていりゃいいこともあるさと言いながら、どこそこだったら水が入手できるとか、寝床の場所だとか生活の知恵を教えてくれる。言葉は優しさにつつまれていた。溢れ出そうになるダムの元栓を締めながら、感謝の言葉を伝えると照れ臭そうに困ったときはお互い様だと、それ以上はなにも聞かずにいてくれた。

 

 少し離れたところで寝床を準備する長谷川さんを視界の端に収めながら、キラキラとした川を眺める。

 とてもきれいだった。

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