天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

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お代は缶コーヒーで

「きーやん、何見てるアルか?」

「求人雑誌だよ」

 

 ソファーに座りながら求人雑誌を広げていると、酢昆布を加えながら、神楽ちゃんが覗きこんできた。

 可愛いなぁもう。腕の中に閉じ込めてぎゅっとしたくなるが、意外と神楽ちゃんは大きい。

 身長155cm。私とほぼ同じだ。小さく見えるのは銀さんとの相対的な問題で、包容力(しんちょう)が欲しいと思う今日このごろ。

 

 良い求人はないかなぁーとパラパラめくって見るが、出来そうな仕事といえば、工事現場作業員とか、忍者(見習い)とか体を使うものばかり。って、忍者求人で募集するんだ?

 

「何かボロい仕事見つかったアルか?」

「ボロい仕事はリスクが高いから長く続けるには向かないんですよ、神楽ちゃん」

 

 ページが後方に進むにつれ、怪しい仕事が増えてくる。攘夷浪士手伝い、必殺掃除人手伝いって求人雑誌で募集するなよ。

 ふと目に止まったページは、真選組の文字。学歴不問。女性不可。あちゃー女性不可か。

 男女雇用機会均等法何処行ったー。

 むーん。

 

 なんで仕事を探しているかというと、万事屋の経済状況はお世辞にも良いとは言えなく、無駄飯喰らいなんて飼ってる余裕はない。

 だがしかし! 今まで三人でやってた所に私が入っても、四人分の仕事がなかったりもする。

 仕事量なんてものはそうそう増えるものでもなく、銀さんの了承を得て、バイトの休みの日に万事屋を手伝うということで了承を得た。

 

 最初は、万事屋の仕事もそのうち増えてくるだろうから、それまでは不足分の生活費を出せば大丈夫かな? 銀さんは受け取らなさそうだから新八君に……なんて考えた。

 そこで、新八君にお金を渡そうとしたのだが、万事屋に来る前のお金は絶対受け取るなと、銀さんに既に釘を刺されているとのこと。

 なんで、万事屋に来る前後で区切られているのかは分からなかったが、一員になってからの稼いだお金は万事屋のものという意味かな?

 まあ、そう言われてしまえば、誤魔化したり、チートを使って稼ぐのもなんか違う気がして、求職活動に勤しんでいるわけです。

 

「うわーん…ないよー」

 

 バタンと手足を投げ出して、求人雑誌をほっぽり出してみる。

 長谷川さんにでも相談してみようかな。なんか仕事のプロって感じだし。

 マダオと呼ばれてるけど、あれは周り――万事屋が悪いのであって本人は結構普通の大人、常識人なんだよな。

 あ、でも異様にグラサンに拘るあたりは普通とは言えないか。

 

 ま、思い立ったが吉日。その日以降は全て凶日! さっそくマダオを探しまわってみる。

 鳥は使わない。そーいうのもいいんじゃないかって思った。

 

「こんにちわー、マダオさん」

 

 見つけたのは歌舞伎町にある公園。ベンチで日向ぼっこしてました。

 手を上げて声を掛けると上半身をおこして、座り直してくれた。

 

「おー、キリちゃんってマダオって呼ぶの止めてくんない? キリちゃんに言われるとぐさっって来るんだけど!」

「まぁまぁ、私もまるで駄目な女、略してマダオなんで仲良くしましょうや」

 

 空いたスペースに座りながら、途中で買った授業料代わりの缶珈琲を渡す。

 

「どうしたの、キリちゃん。マダオなんて自分でいっちゃってさァ。あ、ありがとね」

「お仕事が見つからなくて、少し相談乗ってくれます?」

「いいよ、キリちゃんの頼みだったらおじさん頑張っちゃう」

「なんか嫌らしー」

「ちょっ! やめてそんな目でみるの止めて!!」

 

 蔑んだ目でみてやれば、顔を手で覆う長谷川さん。

 思わず、吹いてしまう。

 

「クスクスクス」

「まだ笑ってるの? 酷いなーキリちゃん」

「いえ、済みまえん、つ、ツボに……」

「済みまえんって、噛んだし! そんなに!?」

「ちょっ……まって……く、苦しい」

 

 ひとしきり笑いが収まった頃、喉乾いたでしょと、結局渡したはずの缶珈琲を私にくれた長谷川さん。

 いい人だなぁー。

 それからオススメのお仕事をあーでもない、こーでもないと教えてもらった。

 得意なものが何もない、学歴がない、社会経験がないという、本当にまるで駄目な女である私にでも出来る仕事を。

 

「キリちゃんなんか変わったね」

 

 別れ際にそんな事を言われた。

 

「え? そうですか?」

「うん、前より明るくなった」

「悩みが解決したからかな?」

 

 先日土方さんにも言われた。

 顔に私には見えない文字でも書いてあるのだろうか?

 

「それとね、柔らかくなったね」

「二の腕とかお腹ですか? 太ったってこと? やらしー長谷川さん」

「違うから! わかってるでしょ!?」

「ごめんごめん、自分では良くわからないけど、長谷川さんが言うならそうかな?」

 

 涙目でこちらを見る長谷川さん。

 柔らかくなったかどうかは正直分からない。

 けれど、もしそうならそれはきっと万事屋のお陰。

 お餅が暖められてとろとろになるように、暖かさでとろとろに溶かしてくれた。

 ありがとうと伝えて別れた帰り道は、なんだか走りたくなって、駆け足で帰った。

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