「うがーっ! なんで毛筆で書けとかなってんの、馬鹿じゃないの阿呆じゃないの死ねばいいのに!」
何枚目かの紙をを破り捨ててとうとう発狂する。
今書いてるのはバイト先のポップに使用する予定の紙。
毎週バイトが代わる代わる交代で書くそれは、お店のオススメメニューの紹介。物自体は一枚の便箋程度。文章量自体もそんなに多くない。
バイト先で書くこともできたが、こうなることが見えていた為、無難に持ち帰ったんだけどこの有り様。
「お前……壊滅的に字下手クソだな」
破いた紙を拾いまじまじと見ながら酷評を下す銀さん。
「ちがうって! 筆が悪いんだって、ペンだったらまだまともに書けるんだから!」
もうやだーと筆を置く、手を墨で汚してしまったので転がるわけにも行かず、肩を落とす。念のため、周りも新聞で覆ってあるので、はねた墨が畳や、机を汚すこともない。
「万事屋さん……依頼です」
こうなれば外部委託するしかない。
「なんでボールペンで書いた文字が、筆で書くとこうなるんだ」
「何ででしょうね……この筆先がうにょんとなるのが悪いと思うんですよ」
いちご牛乳一本で手を売ってくれた銀さんに、書いて欲しい文章を渡す。
「意外と文字綺麗だね」
「代筆頼まれることもあっからな、ほらよ」
私の苦労がなんだったんだという程、さらさらと書かれたそれ。
お手本の様な文字が並んでいる。
落ち込まずにはいられない。
「それにしても酷いな、オイ」
新聞紙の上にはね散らかした墨を見ながら呆れるように言われた。
習字なんて小学校以来ですよ。
「人間だれしも得意不得意があるもんなんだよ、銀さん」
「不得意ってレベルじゃねーだろ」
苦し紛れの言い訳をする。
これが4週に一回くる計算になるのか……良いバイト先だったけど変えるしかないかな。
深い溜息をつく。
「お前もしかして天人だったりすんの?」
とうとう言われてしまったその一言。
どっちかというとそっちの方が都合がいいんだけど。
「違うよ」
嘘ってのはいつかバレてしまうもんで、そんな嘘で将来的な信頼をぶち壊したくはない。
そして私は嘘が壊滅的に下手だ。筆で書く文字みたいなもんだ。
だから正直に答える。
「着物の時といい、これといい……本当お前どんな生活してたんだよ……」
疑問形ではなく、呆れたような独り言。
「銀さん私ね、滅んだ国のお姫様だったんだ。特殊な血筋でね、私の力もその所為。余りにも強すぎる力の所為で迫害をうけてね、追手から逃げてる途中」
笑わず、真面目な顔を作って真剣にそう銀さんの顔を見つめる。
「なにその中二みたいな設定……どこぞの忍者漫画じゃあるめーし」
口ではそういうものの、死んだ目が本当か? と訴えかけている。
「そうそう、血継限界って奴ですよ。ま、嘘みたいな嘘なんですけどね」
「テメー!!!」
「アハハハ」
へらりと笑うと、拳を振り上げて怒りを露わにする。
私の嘘も時々は銀さんに通じる様だ……本当だろうか? 騙されてくれただけ? 私には銀さんの嘘は見抜けない。本当の事を言って、そういう疑念を私が抱いてしまったら、私はここには居られない傷を負う気がする。
「本当はね。結構なお嬢様だったんだよ。料理や、着付け、物書きなんてしなくてもいいね」
だから疑問形にしない優しさに甘えて、嘯いて誤魔化す。私の怯えを見抜いているのかいないのか、それ以上聞かない銀さん。この人はそれを許してくれる。
「帰らなくていいのか」
それでも、いつものやる気の無い目と態度でそれだけを確認する。それもまた優しさなのだろう。
でも、帰らないといけない。そんな正しい答えは口にできなくて、へらりと笑うしか無かった。
きっとそれを言えば、銀さんは帰る手段を探してしまう。私には探せないけど、ジャンプヒーローなら見つけてしまうかもしれない。
そうしてきっと言うんだ「元気でな」って。神楽ちゃんを送り出した時の様に。
書いてもらった紙を仕舞い、墨のはねた新聞を畳む。硯は帰ったら片付けよう。
「銀さん、ありがとね、いちご牛乳買ってくる」
玄関の戸をカラカラと音を立てながら開く。
そうせずにはいられないくせに、それが誤っていると知った場合はどうしたらいいのだろう。