天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

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愛されるよりも愛したい

 再度目を覚ますと朝日が眩しい。きゅるきゅると腹が鳴る。

 あたりを見渡す、長谷川さんはまだ寝ているようでダンボールをかぶって向うを向いていた。

 あたりを探索し誰もいないことをしっかり確かめると、手のひらを広げてみる。おにぎりを作り出す。

 無言で食べる。

 ペットボトルに入った水を作り出す。

 飲み干す。

 体と洋服をきれいにしてみる。デザインも糞もない靴だけど、作り出し履き替える。

 立ち上がる。背伸びをする。

 飲み干したペットボトルを川に向かって投げ捨てた。

 

「ファッキュー真選組」

 

 笑うことができた。

 

 まだ寝ている長谷川さんの枕元にダンボールのお礼として、水とお握りを置いておく。

 くそったれだと思った世界は朝日で輝いていて、嫌いになれないなぁ~とひねた事を思ってみるが、嫌いどころかやっぱり大好きな銀魂の世界だった。

 

 河川敷を散歩しながら、無理な体勢で寝ていたせいで痛む体をほぐしていく。

 体はともかく、十分な睡眠を取ったおかげで頭は回るようになってきた。

 

 思い返せば、真選組の尋問に引っ掛かりを覚える。漫画と比べてという枕詞が付くが、どうも必要以上にギスギスしていた気がするのだ。それに攘夷志士の尋問にわざわざ副長である土方さんが出張りすぎていた気がする。服に紫煙の匂いが纏わりついて取れなくなる程、かなりの頻度で顔を突き合わせていたのだ。それなのに近藤さんを見なかった。

 どうしようかなぁ~と思いながらも既に10羽の鳥を作り出していた。

 最初の様に、倒れる事にはならないよう、羽数を調整する。

 1羽を屯所に、6羽を町に、3羽を江戸城に向けて飛ばす。

 真選組のためじゃないんだからね! ちょっと気になるだけなんだからね! と心の中で言い訳じみた言葉呟いて飛んでいく鳥を見送る。

 

 情報を集めつつ、お金の入手方法を考えてみることにした。

 いつまでこの世界にいるかは分からないけれど、何も持っていないというのは何か不安。

 通貨偽造も考えたが、昔、興味本位で調べた「無期又は3年以上の懲役」という言葉がチラつく。もっとまともな方法はないかと考えながら、町を散策する。

 通りには見たことのないお店……飴だけを売っている飴屋さんや、櫛や簪を専門に扱うお店。見たことがあるような、元の世界のチェーン店をパクった様なお店。遠目にそれを眺めながら道を歩く。

 そんな中、目に留まったのは貴金属買取店の『金買取り致します』というプレート。

 創りだした金を買い取ってもらい、ホクホク顔で買い物も済ませたあたりでぐーっとお腹が鳴った。

 

 丁度いいタイミングだしと自分に言い訳をしながら、ピロロロロロッと電子的な音を立てながら開く、『でにいず』のロゴが描かれた自動ドア。

 白い後ろ姿が目に入るような席に座り、注文をする。

 自分のことながらストーカーじみているなぁ~と思いながらも、鳥情報によりゲットした白い頭の君の場所。

 今から向かう場所は屯所。

 その前にちょっとだけ勇気を下さいと、チョコレートパフェを頬張る姿を見すぎないように眺めつつ、大好きなオムライスを口に運ぶ。

 

 

 鳥情報を使って分かったことは、テロのあった天人が権力者の親縁である事。そのせいで真選組が吊し上げられていて、火消し役に近藤さんが東奔西走中という事。

 そして、重要容疑者であった私が、明確な理由もなしに釈放されたことで、さらにその吊し上げが激化している事……。

 それを知った瞬間。胸に渦巻いていた負の感情がふわっと溶けて消えた。

 だってしょうがないじゃんね。あの人達の真選組大好きぶりを考えれば、あの対応もしょうがないと納得してしまった。

 むしろまだマシな対応だったんじゃないかとすら思ってしまう。

 そう思っても、土方さんの目つきや、沖田さんの能面の様な表情を思い出すとどうしても足が竦む。

 それでも、白いくるくる頭に貰った勇気を消費しながら、踵を返そうとするヘタレな足を一歩づつ進めて屯所まで向かう。

 

 私の顔を見た瞬間、屯所前の門番が顔をひきつらせながら引っ込んだので、誰か呼びに行ったのだろうと判断し、その場で待つ。

 このまま帰ろうかと考え始める程度に時間が過ぎた頃、ようやく顔を見せた土方さん。

 土方さん以外対応できる人いないだろうなぁ~と考えて、いる時間帯を狙ってきた。その険しい顔を見ると、重なって能面の様な沖田さんの顔がちらつく。

 サドは打たれ弱いんだっけなぁ~。フルボッコにしてしまったことを今更後悔してしまう。

 彼の努力や、血や汗といったものに、こんなずるい方法で泥をつけたようにも思え、胸が抉られる。

 

「なんの用だ」

「昨日発生したテロの情報提供にきました」

「……」

 

 そんなことをおくびにもださずに、できるだけにっこり微笑んで言ってやれば、憮然とした表情で立ち尽くす。

 ようやく硬直がとれたのか、奥に来いという言葉の元ついていけば、応接間に通された。

 

「どういうつもりだ」

 

 瞳孔が開いているうえに、血走っており当社比1.5倍増しで迫力が増した目でねめつけられる。

 

「愛しの真選組の方々の少しでもお役に立てればと有益な情報をお持ちしました。端的に言えば愛ゆえに?」

「ざけんな、斬るぞ!」

 

 今にも刀を抜きそうなその姿に内心びくつき、ちょっぴり傷ついてみる。

 まぁ、昨日の今日で信じる様だったら真選組なんてとっくに終わってますがねぇ~。

 これが近藤さん相手だったら少しは違うんだろうけど。

 

「まぁまぁ落ち着いてください、十六番街ってあるじゃないですか? 倉庫が立ち並んでるところ。あそこにテロの主犯格が潜伏中ですね。で、天人の道具は木乃芽組ってところが横流ししてます。さらにさらに中々つかまらないのは、中田厭衛門って幕僚が袖の下で情報操作していて、テロの目的はちょっとした牽制? 犠牲者に中田の政敵の身内が含まれているはずです。以上、質問はないでしょうか?」

 

 一気にしゃべったせいでのどが渇くが、お茶なんて出してくれる気配はなく、しょうがなく、鞄の中からペットボトルを取り出す。

 茫然とした表情だった土方さんだったが、ペットボトルを取り出す際、刀に手が伸びたのは条件反射だと思いたい。

 

「……その話が本当だったとして、証拠はあんのか」

 

 いくつか思い当たることがあるのだろう。真っ向から否定することはせずに食いついてきた。

 その言葉に鞄から書類を取り出す。だから一々刀に手を伸ばすなよコンチクショー。

 『でにいず』に行く前にこっそりゲットした書類。入手方法は秘密だ。

 

「これがテロ集団から木乃目組への注文依頼書ですね。中田の方は証拠はありませんが、木乃目組のお金の動きを洗えば、『証拠』でると思いますよ」

 

 渡された書類を受け取ると、苦虫を十匹ほど噛み潰した様な顔をして目を通す。

 

「じゃ、これで失礼しますね」

 

 用事は終わったので、これで退散できるかと思いきや、玄関口でまたもや取調室に連行された。

 まあ、想定内だけど、心がサクサクする。

 それからその日の夜に大捕り物があって、早朝に行った顔合わせの結果、私がテロ集団の仲間でないことが判明するまで狭苦しい部屋で大人しくしていた。

 それからなんだかんだと再度取り調べがあって、容疑が晴れてようやく釈放。

 期待はしてなかったけど、謝罪の一言もなく見知らぬ隊士に出口まで送ってもらったときはなんだかなぁ~と思ったよ。

 外にでると白い月がきれいに浮かんでいた。

 

 これからどうしようかなぁ~と思うも行く場所はなく、元の河川敷まで戻る。

 長谷川さんは場所を移動したらしく、そこにはもう居なかった。膝を抱えて残しておいてくれたらしい段ボールハウスに寝転がった。

 

 それから相変わらず河川敷や公園を寝床にホームレス生活を送りながら、観光や、ぼけーっと過ごす日々。

 そんな矢先、ばったり真選組の隊士と道で鉢合わせ。もう終わった事件だから私に用は無いだろうと思っていたら、「いたぞ」という声の元なぜか追い掛け回された。

 もうなんだか、正直面倒くさくて鉢合わせしないように鳥を使って注意をしながら、町を行ったり来たり。

 流石に夜は安眠したくて、どうしたもんかと思っていたら、「万事屋銀ちゃん」の看板が目に映った。

 あそこの屋根をお借りしよう。さすがに、屋根で寝てるとは思うまい。それに見たことのある場所というのは少し安心する。

 

 音や振動、匂い等……いわゆる気配というものを隠す結界に隠れながら、相変わらずプラプラ過ごす。物珍しい江戸の町は興味が尽きない。オバQと長髪の二人組の呼び込みを遠目に眺めたり、マダオ観察日記をつけてみたり。

 万事屋の面々も時折遠目に見ることがあった。とてもきらきらしくて、うっかり触れぬようにするのが大変だった。

 屋根の上にいると、聞こうと思わなくても、聞こえてしまう物がままある。

 なんせとても大きな声で怒鳴り合ったり、突っ込んだりボケたりする面々だ。

 一階のにも聞こえているだろう、かつ、くだらない内容がほとんどなので、盗み聞きに対する罪悪感なんてこれぽっちも湧いてこない。むしろ、騒音公害について小一時間問い詰めたい。

 屋根の上にいるだけで、生活パターンが分かるってどんだけだよと思う。

 そんな恒例行事の掛け合いだが、今日は普段とは違うギスギスしたものが混ざっており、正直ちょっといただけない。

 内容を聞く限り、仕事がない中、食費が底をついた事に端を発した喧嘩らしいが、いつも以上にヒートアップしていて……。お登勢さんのところはこれでよく商売やっていけるなぁ~と思っていたら、階段を駆け上る音と共に、キャサリンらしき人の罵声がこだました。ようやく静かになった。

 これでようやく眠れると思いきや、静かな中殺気だけが漂ってくる。

 普通なら気にならないのだろうが、真選組を避けている内に、人の気配に敏感になってしまった自分にはだいぶ堪える。結局その日は眠ることができなかった。

 それが一日だけならばよいが、二日三日経つといい加減限界となってくる。

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