天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

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斬れない刀は包丁にも劣る

 朝のニュースを見ながら、卵かけご飯を食べる。

 先日の事件は結局何も放送されなかった。

 銀さんが結野アナの天気予報を手を止めて見ている隙に、神楽ちゃんがこっそりとタクワンを自分のお皿に移し替えている。

 醤油多かったかな、そんな味のする卵かけご飯の最後の一口をズルリと口の中に滑り込ませ、お茶を飲む。

 

「最近やけに熱心にニュース見てますね、何か気になることでもありました?」

 

 お代わりのお茶を入れながら、新八君がそう聞いてくる。

 

「んー。ちょっとバイト先で辻斬りが出るって話題になっててね」

「そーいえば、カップルを狙った辻斬りがでるとか……帰り道とか注意して下さいね」

「ま、独り身ですし大丈夫ですよ、お茶ありがとね」

 

 嘘で誤魔化して熱々のお茶をズズッと啜る。どういたしましてと新八君は返し、神楽ちゃんにタクワンを奪われた事に気付いた銀さんが取り返そうと必死になっている。平和な日常。いつもの万事屋。

 バイトも休みで、万事屋の仕事も当然の様にない。朝ご飯の片付けをした後何もすることが無くなった私は、暇つぶしにつけっぱなしのテレビを見ながら、ダラダラと過ごす。

 

――交際中の男性を殺害したとして、29歳の無職の女を逮捕……。

 

 モザイクの掛かった長屋の前で、リポーターが黄色い立ち入り禁止テープを背景に悲痛な顔をしていかに凄惨な事件だったかを伝えている。

 

「女ってのは怖いねェー」

「銀さんも気をつけないといつか刺されちゃうよ?」

 

 机に顎を乗せてしゃべる所為でカクカクと揺れる頭蓋骨が微妙に気持ち悪い。

 

「んなヘマするかよ」

「大丈夫ですよ、キリさん。この人モテませんから」

 

 馬鹿にした様な半眼の目を眼鏡の奥から銀さんに向ける。私は中立の立場を守って曖昧に笑っておく。

 

「でも馬鹿だよね。愛される事なんてそんなに重要じゃないのに」

「お前がそーいう?」

 

 銀さんから胡乱な瞳を向けられる。

 

「寂しくって泣きべそかいてた奴が……」

 

 はーやだやだ。喉元すぎればなんとやらですかねーと馬鹿にしたように首をふる。

 寂しいと思うことと、愛されたいと思うことは同一なのか? 思考がバク宙三回転ひねりを決める。

 

「別に愛されなくても、そこに存在するだけで救われるのが愛ってもんでしょ」

「うわぁ……」

「……お前時々恥ずかしい事言うよな」

 

 気持ち悪いものを見てしまった様な顔と、生暖かい呆れた様な顔が並んだ。

 失礼な! れっきとしたとした思想に基づくありがたいお言葉なのに。

 でもそれを説明するのも面倒臭くて、つまらなくなったニュースをパチンと消し、誘われる様な日差しの元、散歩に出掛けた。

 

 誘われるがままかぶき町の一角にある公園までぶらりと歩く。

 神楽ちゃんいるかなーと見渡すけれど、目印となる巨大な腹黒ワンコは見つからない。

 長谷川さんが寝てたり、神楽ちゃんが夏にはラジオ体操をしたり、沖田さんと神楽ちゃんが喧嘩をしてたり、イベント事に事欠かない公園だが、こんなイベントいらなかったなぁー。

 

「こりゃ珍しい野良猫だァ。こんな所に餌でも漁りにきやしたのかィ?」

 

 能面。暗闇に浮かぶ飴色。

 会いたくない人に合ってしまった。

 名前呼ばれてないから取り敢えず無視でもいいかな? チチチッとか本当に猫ですか私は……。

 いかんいかん反応しちゃダメだ。無視無視。

 

「野良猫駆除っ!」

 

――ブォンッ

 

「ちょっ……。なんで斬ってくんのいきなり! 嘘ですごめんなさい、無視してすみませんでした」

 

 咄嗟に避ければ、今しがたまでいた場所に刀がめり込んでいる。

 ハンズアップしながら必死で謝ってみると、チャッと音をさせながら刀を下げてくれる沖田さん。

 

「なぁ、アンタ。どこで剣術習いやした?」

 

 嫌なときに嫌なやつに嫌な質問をされた。

 今日は役満ですか。

 

「えっと……どこだっけなぁー忘れちゃった」

「思い出すまで相手してもらいやしょうか」

「嫌だな嘘ですよ今すぐ思い出すのでちょっと待ってて下さいね」

 

 鼻面に刀を突きつけるの止めて欲しいんですが……。

 

「恒道館です、恒道館の門下生なので。ウソウソウソごめんなさい。柳生での件はノーカンですよね知ってますごめんなさい」

 

 ほっぺたにペシペシって刀当てるのやめて下さい。どこのヤクザですか。

 

「……すみません、剣術なんて習ったことないです」

 

 素直に白状してみればようやく刀を納めてくれた。

 

「最初から素直にいやァいいのに、手間掛けさせやがって。サイダー買ってこいよ」

「はい、よろこんでー」

 

 なんで沖田さんにパシられてるんだろう……。

 

「買ってきましたー」

「遅いぜィ。罰として靴の裏舐めやがれ」

「すみません、それは勘弁して下さい」

「チッ」

 

 本気で泣きそう。傍若無人大王を誰か止めて下さい。

 ベンチに腰掛けて、自分用に買ってきたコーラを飲む。隣に座るときに何か言われるかと思ったけど、何もなかったのでホッとした。

 

「やっぱりバレてました?」

「バレバレだぜィ。アンタまともに竹刀の持ち方も習った事ねーだろィ」

 

 そのレベルなのか……。

 グビッと缶を傾ける沖田さん。

 

「土方さんとか近藤さんは……?」

「知ってんじゃねェかィ? アンタの動き滅茶苦茶だぜ」

「……じゃあ、銀さん達にもきっとバレてるねぇ」

「だろうねェ」

「ハァ……」

 

 頭を抱えるしかない。

 

「前に……アンタの言ってた卑怯な手段ってのはそのことかィ?」

「まあね。種明かしはできないけど、天人の道具使ってるとでも思って下さい」

 

 その言葉に残りのサイダーを飲み干した沖田さんは、缶を振りかぶり投げる。

 ポイ捨て?

 

「いったー! 何するんですか沖田隊長」

「山崎ィ、刀貸せ」

 

 草むらからニョキっと頭を出した山崎さんに命令を下す沖田さん。

 ってか山崎さんそこで何してたの? ミントン? カバディ? アンパン?

 

「オラ」

「うわっ……武士の魂扱い方雑ですよ!」

 

 山崎さんから奪いとった刀を放り投げる沖田さん。

 慌てて受け取る。後ろで山崎さん泣いてますよ。

 

「抜きなせェ」

「え?」

「いいコト教えてあげやすから、抜きなせェ」

 

 いいコト? 剣術指南でもしてくれるのか?

 

「これでいいですか?」

 

 取り敢えず、素人だってのはもうバレてるので見よう見真似で構えてみる。

 

「キリちゃんダメだ!!」

 

 遅れて山崎さんの声がする。

 

「アンタ、色々舐めてるだろ。今からそれを思い知らせてやらァ」

「え?」

 

――ビュッ……ガキッ

 

「ほ、本気!?」

「喋ってる暇あったら攻めてきなせェ」

 

 殺気をたぎらせながら攻めてくる沖田さん。

 サディスト的な実践剣術指南ですかコレ!

 

「いやいやいや、無理ですって。これ真剣ですよ!?」

「それを抜いたんだ。死合としやしょうや」

 

 ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべて、ガキンガキンと刀が振り下ろされ、振り抜かれ文字通り火花が散る。

 山崎さんの止める声が聴こえる。

 けれど焦りはすれども、似蔵の様なまとわりつく様な殺気もなく、質の悪い冗談だと思ったから、攻めることはせず、受けにまわる。

 後から思えば、それが結局悪かったのだろう……。

 

「アンタ、真剣抜いたら終わりなんだぜィ? それを覚悟もなく抜いてバカかィ?」

「沖田さんも直ぐ抜くじゃないですか!」

「俺ァいいんでィ。覚悟、できてやすから」

 

 耳に痛い……覚悟なんて私はなにも出来てない。

 何合目だろうかガキッンっと鈍い音がして刀が折れた、えっ!?

 

「それに、そんな滅茶苦茶な受け方、刀だって持ちゃしねぇ……。一遍この辺で痛い目みなせェ」

 

 受けようとするも刃が無くなった刀では受け止めきれる筈もなく。

 

――ザシュッ

 

 脇腹斬られ……た?

 

「山崎ィ。後は任せたー」

 

 まるでゴミ片付けを依頼するような口調で背を向け行ってしまった。

 

「キリちゃん!!!」

 

 慌てた様に山崎さんが飛び出してくる。

 痛い……遅れてそんな事を思った。でも、それ以上に沖田さんに斬られた事がとても痛かった。

 斬られるほど嫌われてたっけ? 気付かなかったな。能面の様な顔、軽口を叩く態度……。もっと何か前振りが欲しかった。もしかして、辻斬りとか、痴情のもつれとかそーいうのがフラグだった? ついてないなー。

 

 

 山崎さんがいるせいで傷を直すことも出来ずというか、痛覚絞るのもきっと不自然になるから何も出来ず、脂汗を浮かべながら病院まで運ばれた。

 いっそ気絶でもできれば良かったのに。気絶って意外とできないもんだ。

 傷は縫合するだけの処置で済んだ。麻酔が効いていて痛みからも開放された。

 取り敢えず処置室からは出て、カウンセリングルームみたいなのを貸して貰う。傷が刀傷って事と、山崎さんの警察手帳が役に立った。やったね。

 

「傷跡残るかもしれないって……。俺が止めてたら。すみません!」

 

 山崎さんが泣きそうな顔で言う。山崎さんが悪いわけじゃないのにな。

 

「まぁまぁ、そー深刻にならなくても。刀傷って名誉の勲章みたいでカッコいいじゃないですか」

「キリちゃんって時々ズレてるよね」

 

 中二臭い私の考えに、山崎さんが困ったような顔を少し崩して笑う。

 世界がみんな山崎さんみたいだったらいいのに。

 痛みがないせいか、今は現実味があまりない。沖田さんを恨む気持ちも湧いてこない。だからこんなことも簡単に口に出せる。

 痛みがあれば別だろうか……。

 

「ねー山崎さん。コレ山崎さんと私との間で秘密にできます?」

「副長にはせめて言わないと!」

「んー。沖田さん罰則かなんか受けちゃうでしょ? そういうの嫌なんですよね」

「でも……」

「お願いします」

 

 一生懸命お願いしたら、しぶしぶ頷いてくれた。押しに弱い山崎さんで良かった。

 お医者さんからは入院を勧められたけど気乗りしない。

 保険証なんて無いし。病院は嫌いだし。

 保険証無いって言ったら、山崎さんビックリしてたなぁー。治療費は取り敢えずへそくりから出した。へそくりの額からすると微々たるものだけど、万事屋の経済事情に鑑みると舌打ちしたくなる。くそっ。

 万事屋への連絡も止めてもらっている。銀さん達の事だ。何だかんだ言って騒ぎが大きくなる。

 あーあ、今日は大殺界ですかね。

 でも、本気だったらきっともっと大怪我してる。手加減してくれたんだよなぁ。

 巻かれた包帯を見る。偶然にも、似蔵と鉄矢さんに受けた怪我とほとんど同じ場所。

 スリー・イン・ザ・ブラック。拍手してやりたい。

 

 山崎さんをなんとか言いくるめて、駕籠屋を呼んでもらった。

 帰りながら今日はバイトあったんだと思って電話すると、もう来なくていいと言われた。

 マダオの気持ちが今なら分かる。

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