服やら何やら斬られた痕跡を消した後、玄関口を
「ただいまー。遅くなってごめんねー」
「どこ行ってたアルか?」
「んー。ちょっとね。新八君はもう帰っちゃった?」
「うん。銀ちゃんは飲みに行ったアル」
そっか、本当今日はついてない。
いつも通り、神楽ちゃんとご飯を食べて、TVを見て、お風呂に入る。お医者さんに言われたとおり患部をお風呂につけないように、かぶり湯だけする。習ったとおりに包帯を巻き直す。
斬られなかったら、きっとこういう事も知らないままだっただろう。
神楽ちゃんが眠ったのを確認した後、絞ったままだった痛覚を開放する。痛みで顔が歪む、生理的な涙で視界がぼやける。麻酔はとっくに切れていた。
「はっ……くぅ……マジ死ね沖田」
マゾじゃないけど、ちゃんと覚えておかなきゃいけないそう思った。
紅桜の時は、適当な所で治して包帯は巻きっぱなしだったし、痛覚もずっと絞ってた。
だから、ちゃんと覚えておかないといけない。
痛み止めの薬を飲んだけど、あまり効かなくて眠れない。
――ガラガラガラ
玄関の戸が開く音がした。銀さんだ。
今日は自分で帰ってこれる程度に飲んだみたい。不幸中の幸い。
台所から響く水音、廊下を歩く音。体が少し熱っぽいのか全ての音が遠くに聞こえる。
近づく足音に、寝たふりをする。
部屋に一歩入った所で立ち止まる気配。呼吸を乱さないよう最新の注意を払う。
離れていく足音、ストンと襖を占める音がした。
物音の一つしない万事屋に安堵の溜息をつく。
翌日起きると熱が上がってる気がした。
銀さんも神楽ちゃんもまだ寝ている。『急なバイトが入ったので出ます。夜には戻るので夕飯宜しく』と書き置きを残して家を出る。
流石に今日はもう誤魔化せる自信がないし、目の前でウロチョロされるとしたくない心配もするだろう。
途中まで歩いて目的地に向かっていたが、ふらりとする体に諦め、物陰に隠れ跳ぶ。
着いた場所は、廃墟と化した遊園地。何も変わらない様に見えるのに、とても冷たく感じた。銀さんが酷い顔をする訳だ。
ベンチに寝転がり、フワフワする頭で考える、斬られた事、斬った理由。
いくらサド皇子だからといえ、問答無用で人を斬るような事はない……筈。取り敢えず、そう信じておこう。手が滑った訳じゃない、明確に斬りにきていた。でも本気ではなかった。
試合の腹いせ? 違う、そんな雰囲気ではなかった。なんだかこうもっと……強い拒絶。沖田さん特有の偽悪ぶった親切心とかじゃない、本当の拒絶、怒りだ。
拒絶を込めたメッセージ。慣れている筈の痛み。久しぶりのそれがとても痛く感じる。
『世界の全ては私で出来ている』
そんな鎮痛剤のCMを中二臭くした、どんな痛みにも耐えられる魔法の呪文は使えない。誤魔化しちゃいけないものだから。
じゃあ原因はなんだ? 覚悟がないまま刀を抜いたから? それだけでは足りない気がする。
確かに、漫画や、アニメ、映画でしか刀を見たことのない私は、刀の重みが分かってなかった。そして、そんな何も知らないのにもかかわらず、攻めずに本気を出さなかった、調子に乗っていた私。斬るという行為を真剣に考えている沖田さんはそれが許せなかったんだろう。それはでも最後のトリガーを引いてしまっただけ。
発端はなんだったのだろうか……。屯所の道場で、ターミナルで、柳生で、何処かで、私は沖田さんの逆鱗に触れてしまっていたのか。
流されるままに刀を手にとった私……それが許せなかったのか。
傷口に手を当てる。熱いなぁ……。
『人を救うってことはな人を殺める以上の度胸が必要なんでィ』
ターミナルで松平のとっつぁんが言ってた言葉を思い出す。
救うってなんだろう。覚悟が足りない私はそれが分からない。
銀さんは……依頼があれば救う、なくても救う。刀が届く範囲で己の魂の信じるがままに、懸命に腕を伸ばして。
手を上げ、指の隙間から青く高い空を眺める。
私の手は長すぎる。どこまで伸ばしていいんだろう。春雨を殲滅したらいいのか、天導衆を殲滅したらいいのか……地球から天人を殲滅したらいいのか。
人を……斬ってまで人を助ける事は正しいのか……。
力が無ければなにも出来ないくせに、力なんて無ければそう思ってしまう。
伸ばした手が酷く短く見えた。
パタリと手を下ろす。
流れ出る涙は生理的なものであって欲しい。
空を雲が流れていく、火照った体に風が当たる。ギギギッと鉄の軋む音がする。
私の心に踏み込んできた沖田さん。逆に私も沖田さんに見えたものがある。
少し苛立ちが見えた。
ミツバさん体調悪くなったのかな……。余命宣告受けたのかな……。
大江戸病院に鳥を飛ばす。