思ったよりも早く日常に復帰出来た私は、若さゆえの超回復力だ! とテンションを上げる。斬り方が綺麗だったからとかそんな都合の悪いことは考えない。
心配かけた身でそんな文句も言えないのだが……予想外に手厚く看病されてしまい、むず痒さと居心地の悪さに苛まれる日々。神楽ちゃんはジャンプの読み聞かせをしてくれるし、新八君はちょこっとした家事ですら取り上げる始末。銀さんですら飲みにも行かず、見張るように家でゴロゴロしていた。あれ? ちょっといい感じ入ったけどやってる行動は普通にマダオだこれ。
まあいい、取り敢えずそんな日々ともおさらばだ! そんなタガが外れた様なテンションの赴くまま行動を起こす。
「新八くーん」
「うわっ……何するんですか!?」
ソファーの上で折り目正しくテレビを見ていた新八君の首筋に腕を回し、ソファーの背もたれごと後ろから抱きつく。そうすると面白いぐらいに慌てた挙句、顔を真っ赤にする。さわさわと撫で回すと硬い体、筋肉がしっかりついてるのが分かる。鍛錬で培われた体。私とは違う。
「ちょっ、やめ、セクハラ!? 逆セクハラですよ!?」
傷口を気にして身を捩りたいのを耐えてくれる人の良い新八君。耳元にわざと口を寄せる。
「好き」
「ふぇ!? そ、そそそーいう冗談は止めて下さい!!」
息をしそこねた悲鳴なのか何なのか分からない声を上げた後、耳を手で抑える。そろそろ本当に茹で上がってしまうんじゃないかというその表情に、クツクツ笑う。
「この前の答え、好きだから護りたいじゃダメ?」
私は銀さんじゃないから、手の届く範囲全部なんて護れない。代わりに好きなものを護ろう。そう決めた。そうするとあれだけ必死に探した覚悟は、そこに元からいたかのようにするっと収まる。
「い、いいですから。ちょっと、いい加減放して下さい!」
「新八君は何で優しくしてくれるの?」
あえてその声を無視し、真面目な顔を作り、聞きそびれた回答を聞いてみる。
「そ、それはす・・・す」
「す?」
「許してください!!!」
空気が読める新八君は私が何を言わせたいのかが分かった様で、眼鏡の奥にうっすらと涙を溜めながら悲鳴を上げる。そろそろ本気で可哀想なので腕の力をほんの少し緩めると、そこから抜けだそうと身を捩りだす。そこまでされても遠慮がちに動く新八君に加虐心が疼く。
「きーやんは痴女アルか?」
ソファーの上で膝立ちになり、新八君の横から覗きこんできた神楽ちゃん。どこからそんな言葉を覚えてくるんだろう。
「違います! きーやんは、ペドで、ネクロなんです! これぞ揺り籠から墓場まで!」
「なお悪いだろォオオオ!」
ようやく私の手から抜けだした新八君は、距離を取りながらツッコむ。ちょっと悲しい。
「変態には近づくなってパピーが言ってたネ」
蔑むような目で見られる。まさか神楽ちゃんにそんな目で見られる日が来ようとは。
「そんな目をしても! 私にとってはご褒美です!」
ソファーの背もたれを乗り越え、神楽ちゃんに飛びかかる。
「マジで変態ィイイイ!? 神楽ちゃん逃げてェエエエ!」
新八君の忠告も虚しく、神楽ちゃんはソファーの上で私に押し倒される。
「ふふふっ」
「爛れた関係はゴメンアル! 他をあたるヨロシ!」
頭の両脇に手をついて笑うと、見上げる神楽ちゃんの瞳が怯える。凄く……可愛いです。
「ざんね~ん。きーやんの毒牙にかかった神楽ちゃんはもう逃げれませんー」
「キャハハハッ、き、きーやんそこはズルいアル。く、くすぐったい……やめるヨ」
堪らず抱きつくように脇腹をくすぐると抵抗する神楽ちゃん。新八君と違って遠慮なしに動きまわるそれに傷口が痛むけど負けじと抑えこむ。
「神楽ちゃん大好き」
「しょうがないネ。浮気は許さないアルヨ」
くすぐるのを止めてぎゅーっと抱きしめると、抵抗をやめて大人しく抱きしめられてくれた。
クスクス笑ってると本当に幸せな気分になる。
「って、違う。本命は神楽ちゃんじゃなかった」
「言ったそばから浮気アルか? クソビッチアルか?」
聞こえないフリをする。マジで誰が教えてんのコレ。
神楽ちゃんから手を離して身を起こす。
「新八君。ちょっとお願いがあって」
てっきり自分はもう安全圏だと思ってたのかビクッと体を震わせる。
「いやいや、もうしないから大丈夫だから」
「変なことじゃなければいいですよ……?」
「変な事じゃないと思うけど……剣術教えて欲しいかなーって」
「え? 僕ですか?」
「ぱっつぁんにアルか?」
驚く二人。まあ、そういう反応になっちゃいますよね?
「新八君きっちりした綺麗な剣だから、教えてくれたら嬉しいなぁーって。ダメかな?」
多分、教えてくれるとしたら一番適任だと思う。
銀さんの剣は教えてもらえるような剣じゃない。
「僕は誰かに教えられる立場ではないんですが……でも、いいですよ。厳しいですからね僕」
「バッチコイです」
色々思うことがあったんだろう。少しだけ悩んだ後、素直に受けてくれた。
やっぱり色々バレてたのだろうな。
聞けば、毎朝、自宅で早朝練習をしているらしく、それに一緒させてもらう事にした。
服は袴の方がいい? と聞くと、困った顔をしながら、本当はそうなんですけど、キリさんの場合、普段着で闘うことが多いと思うので、そのままの方がいいと言われた。
「まずはキリさんの場合、持ち方からですね」
正座して礼をした後、まず最初に言われたのがそれだった。
やっぱりバレてた……。
「左手で、中指、薬指、小指で竹刀を握って、位置はここ。右手は添えるだけです」
足の動き、構え方、道具の手入れ方法……色々丁寧に教えてくれた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
礼を済ませて終わると、結構キてる。明日は筋肉痛だ。
足裏には水ぶくれ、手には豆が出来る。
なんかとても新鮮だった。