適当に野菜を刻んで、炒める。申し訳程度の細切れ肉を投入。煮物の次に覚えた料理らしい料理。まあ、野菜炒めって応用効いていいよねとレパートリーが少ない自分を誤魔化し、食卓に運ぶ。
「神楽ちゃーん、運ぶの手伝ってー」
「はいヨー」
ジャンプを片手で寄せながら、お盆を置く。取り分けたおかずを並べている間に、神楽ちゃんが炊きあがったご飯が入った炊飯器を運んで来てくれる。約一名ご飯を大量に食べる人間がいるため、炊飯器を食卓まで運ぶのが坂田家流。いちいち台所まで行ってられない。
「にしても、キリさんってなんでも美味しそうに食べますね」
味付けがいまいちな野菜炒めを飲み込みながら、「そう?」と聞き返す。
「ええ、作りがいがありますよ」
「なんでも美味しそうに食べる前に、何でも美味しそうに作って欲しいんだけどな」
炒めすぎてヘタったキャベツを箸で摘んで、まずそうに銀さんは口に運ぶ。
「嫌なら食べなきゃいいじゃん。神楽ちゃん、銀さんがおかず分けてくれるって」
「ひゃっほい!」
「嫌とはいってねーだろォオオオ!?」
食卓の一角でドタバタと争奪戦が繰り広げられる。
まあ、微妙なのは自分でも分かってるんだけどね。何が悪いんだろう。炒めすぎ? 塩と胡椒のバランス? ちぐはぐな野菜の大きさ? 全部ですかそーですね。
「僕は嫌いじゃないですよ、キリさんの料理」
そう言いながらも新八君のお箸はあまり進まない。素直に不味いと言われた方がまだダメージが少ない気がするのはなんでだろう。
唯一ガンガン食べてくれるのは神楽ちゃん。まあ、大概なんでも食べてくれるので指標にはならない。
「キリさんって嫌いなもの無いんですか?」
「特にはないなー」
微妙な野菜炒めだって別に嫌いじゃないし。
好きと嫌いに二色に別れた世界で好きがピンクで、嫌いがブルー、だとしたら私の世界は何色だろう。
ピンク一色かブルー一色か極端な色をしていそうな気がする。そんな世界を想像して目が痛いだろうなと思った。
「好きなものは……オムライス?」
「YES! あれはいいね、卵が生み出した文化の極みだよ」
そんな食欲が失せるような思考を中断してくれた新八君は、疑いもなく当ててくる。
献立の希望を聞かれた際100%の確率で答えるソレはもう疑う余地はないのだろう。自分で作ると卵が破けるから嫌なんだよね。
世界がオムライスで出来ていれば、ファッションピンクの世界を作れる気がする。
「そういう新八君も好き嫌いないよね」
キャッチしたら投げ返すのが礼儀。そう話を振ると、何かを思い出す様に眼鏡の奥の目線を上げる。
新八君の世界は何色だろうか。マゼンタ? まあ何にせよ健全な色をしていそう。
「ちっちゃい頃はピーマンとか嫌いだったんですけどね……。姉上の料理に比べればなんでもましな気がしていつの間にか食べれる様になってました」
「あー……アレね、まあアレもアレでアレだよね。ってことは、前菜代わりにアレを出したらもしかして私の料理もましに?」
「本気で勘弁して下さい!!!」
「冗談だよ冗談」
一度だけ柳生家の件で世話になったからとお礼代わりにもってきてもらった事がある。
炭化した卵とは思えない味だった。同じ卵なのにオムライスとは大違い。
「そーいや、お前よくアレ食えたよな」
神楽ちゃんからようやく奪還した野菜炒めをやっぱり不味そうに食べる。その不味そうな顔がさっきよりしかめっ面になっているのは、ダークマターの味を想像したからだと思う事にする。
「まあねぇ、好きになる努力はすべきだと思うんだ、うん」
「その考え、時と場合によりますよ! 絶対!」
「そーかなぁー。好きって事は基本いい事だよ、資格もいらないし、得するし良いことずくめじゃん」
「その前の過程が無謀過ぎるんです!!! 大体資格とか得とか意味わかりませんよ!?」
「新八ィ、コイツに真面目にツッコむだけ無駄だぞ。時々電波だから」
「そーでしたね」
「失礼な!」