なんか鬱々し過ぎるのと、複数トリップ扱いきれないという理由でボツったやつ。
結局騒動の後、宇宙に行く事を伝えられないまま、次の日を迎えた。
星海坊主さんからの連絡はまだない。
昨日の騒動が嘘の様にのんびりとした空気が万事屋を包んでいる。
銀さんは片手でジャンプを読んでいる、怪我は全治一週間とか言っていたけど、あの傷が一週間で治るなんてこの世界の空気成分表にはポーションという項目があるのではないかと小一時間問い詰めたい。
そんな中、鼻歌を歌を歌いながら洗濯物を畳んでいる新八君。
音程がかなり狂っているけど、これは……?
「珍しいアルな、ぱっつぁんがお通以外の歌を歌うなんて、でもやっぱり音痴ネ」
酢昆布を齧りながら、珍しそうにそれを聞いている。
「この前友達にCD借りたんですよ。いい曲なんでついつい。あ、これ浮気とかじゃないですからね! お通ちゃん一筋なのは変わりませんよ!」
「ぱっつぁんの鼻歌じゃいい曲か悪い曲かまったくわからないネ」
「酷いなオイ」
5分弱の世界平和を祈る歌。
誤解されたくなくて正しいメロディで歌ってみる。
あ、でもこっちだと歌詞が若干違ってたりするのか?
色々なものがコピーミスされたような世界だから。
「キリは上手いアルネ、どっかのダメがねとは違うネ」
「発音綺麗ですね、異国の歌なのに」
「誰が歌ってるの?」
照れ隠しの興味本位だった。
「あれ? 歌ってる人までは知らないんですか? 『銀魂』って人らしいですよ。本名じゃないと思いますけど、なんか卑猥ですよね」
「一歩間違えたら発禁アルな」
世界が止まるような衝撃だった。この世界でその言葉を知っている人間はいないと思ったのに。
偶然か…? でも偶然でそんな名前になるのか?
「一時は発禁になったらしいですよ」
「卑猥だからアルか?」
「僕もそう思ったんですけどね、内容が幕府批判だとかなんとか言って。攘夷争時代の曲らしいですから……あ」
その言葉に思わず銀さんを見てしまう。新八君も気づいて振り向くが、相変わらずジャンプを読んでいて気にした様子はない。
「他にもその人が出した曲あるの?」
「残念ながらこの曲だけですね、もう亡くなっちゃってますし」
もう……いないのか。喪失感が胸を過る。私と同じような人間だったら、銀さんや、桂さんに接触を図った可能性が高い。
銀さんの様子を伺ってみるが何も掴めない。
それから話は変わり、お通ちゃんの話から気が付いたら何が一番臭いかの話になって、銀さんの足で決着が付いた。銀さんの足ってそんなに臭いのだろうか……。
神楽ちゃんは押し入れに入り寝てしまった。
聞くタイミングは限られている。
もしかしたら明日にはもうここには居ないかもしれないから……。
「銀さんいーものがあるんですが一杯どうですか?」
「オイオイ、そんなもんどっから手に入れたの。キリちゃん悪い子だねぇ~」
そう言いながら満更でもなさそうな銀さん。
取り出したのは大吟醸鬼嫁。
未成年の私は知らないが、過去の話は素面では話せないだろうという気遣いです。
傷に障るとかはこの際気にしない。
「まあまあ、どぞどぞ」
「くぅーっ、旨いねぇ……」
トクトクと注いだ一杯一気に飲み干す銀さん。
「いい酒ってのを分かってんじゃねーかって何普通に呑もうとしてんの! ダメでしょ未成年」
「一口だけ」
「ダメだつーの、ガキはオロナミンCでも飲んどきなさい」
「ケチー」
さてどう切り出そうか……。
「We are the world ……この歌知ってます?」
「昼間新八が歌ってたじゃねーか。下手くそだったけどな」
むっ……手ごわいなぁ。仕方ないカードを一枚切るか。
「白夜叉……でしょ。銀さん。だったら知ってるはずなんですよ、この曲歌ってた人」
後半はハッタリだった。
「新八から……言うわきゃねーか。……もっかい歌ってくれねーか」
「お代頂きますよ?」
「まけとけよ」
「嫌ですよ」
少し照れくさかったが、慣れ親しんだメロディをなぞる様に口ずさむ。
「いい歌だ。奴も良かったが……」
「銀さん、その人の事なんでもいいんで教えてください」
「奴の知り合いか?」
「多分……」
「奴ぁ……攘夷志士だった。剣の腕はそこそこだったが、歌の上手い奴でな娯楽の少ない戦場で奴は重宝がられたよ。銀魂ってのは戦が始まる前の奴の歌い名だ」
歴史を知っているはずなのに、なぜ戦争に参加したのだろうか。
平成の平和な世界で生きていた人がどういう覚悟で、人を斬ったのだろう。
「奴の歌には不思議な力があってな、奴はそれを使って戦場を駆け抜けていった」
高ぶり過ぎた怒りや憎しみを沈める事ができた事。
死にゆく者のの恐怖を忘れさせる事が出来た事。
恐怖を忘れて戦う事が出来た事。
きっと気休めとかではなく、恐らくそれがその人の力だったのだろう。
私と違って人の心に作用する力。
「その名はいつの間にか幕府や天人の連中に知られる事となり、捕まった奴は拷問に掛けられた。寝返ることを頑なに拒んだそうだ」
チビリと酒を傾ける。
「どさくさに紛れて助け出した時にはもう廃人だったよ。ずっと同じ歌を歌うだけの人形だった……それからしばらくして逝っちまった」
「それがこの歌?」
「We are the worldは戦で奴が一番良く歌ってた歌だ。その時歌っていた歌は、もっと陰気で悲しい歌だった」
歌詞は覚えちゃいねぇが……と言って口ずさんでくれたメロディに胸が潰れるように痛くなる。
その歌で拷問に耐えたのだと思うと涙が止まらない……。
「知ってんのか?」
「Soon Ah will be doneって歌――私はもう終わる、すぐにこの世の苦しみは終わる、神の御許へ行くんだ――そういう意味の歌だよ」
「そうか……」
それは黒人奴隷の鎮魂歌。
宥める様に頭を撫でてくれる。
この人はこんな痛みを幾つも乗り越えてここに立っているのか……。
『銀時(ヤツ)が・・・・一番この世界を憎んでいるはずの銀時が耐えているのに俺たちに何ができる』
それ以上の痛みすら乗り越えてここで微笑んでるのか。
「取り返してやるって言われた」
思わず顔を上げる。
遠い目をして、窓から見える月を眺める銀さんはその時の事を思い出しているのだろうか……。
「奴を助けた事が一度だけあってな、その時俺の大切なものを取り返してやるって、いっちょ前に口をきいていやがった。代わりに大切なものを奪うから覚悟しとけと」
「話してくれてありがとう銀さん」
きっと取り返すのは松陽先生、奪うのは万事屋。
私と違って戦う覚悟を決めたのだろうその人は。