相変わらず視点切り替えが下手で、一旦銀時視点で書いたのですがイマイチしっくりこず、キリにかえました。
もったいない精神で晒します。
「何を忘れたくないんだ、お前は」
気になって後を追いかけて見れば漏れ聞こえた声。気配に敏感な獣が目を覚ましこちらに顔を向ける。
「いーからそのままでいろよ。起きるぞ?」
俺の言葉に、確かめる様にキリの匂いを嗅いだ定春はそのまま頭を戻し、「わふぅー」と大きな欠伸をする。
揺れた体にキリは眉を少し寄せ、「動くなぁー」と寝言と我儘を混ぜた言葉を呟き、再び寝息を立て始めた。
「幸せそーだこと」
このまま俺も寝てしまおうかと、反対側を借りる。確かに昼寝にはもってこいの日だなぁと転がってみて思った。
「あれ? 銀さん?」
そんな声に目を覚ませば太陽が丁度西に沈んでいく所だった。
「ふゎー。よく寝たなぁー。お前いー場所知ってんじゃん。流石ホームレス」
「借り暮らしだよ借り暮らし」
「どっちでもいいじゃねーか」
「横暴だな。銀さんは」
目の前に立つキリ。見上げたその顔は丁度逆光となっていてよく分からなかった。
「それにしても……こんなとこまで来て昼寝とはいい身分だなぁー」
「銀さんには言われたくないよ。まあ、お陰で銀さん可愛い寝顔も見れたし? 結果オーライって奴ですかね」
「エロいなお前」
「え? 今更? 遅いよ銀さん」
へらへらと笑い「行こうか」と差し出された手。それ力任せにぐいっと引っ張るとバランスを崩し「わっ」と飛び込んでくる。
「意外と髪、柔かいのなぁー」
「ぎ、銀さん?」
逃げようとする腰を片手で抑え、わしゃわしゃと髪をかき混ぜると上ずった声を上げ、暴れだす。
「それになんだ? 獣臭い」
己の匂いなのか、定春の匂いなのか、誰のものか分からなくなってしまった匂いの原因をキリに擦り付ける。
「ッッ!? 銀さんもだよ!」
「え? 何嗅いでんの? エロぉー」
「そっくりそのままお返ししますよ」
そこでからかわれている事にようやく気付いたキリは、何かに折り合いを付け、体から力を抜く。肩にもたれ掛かる頭。
すわり心地が悪かったのか二、三度
力を抜いた体はそれでも軽く、回った腕と、細い腰に男にはない繊細な物を感じた。その小さな体に何を背負ってんだか……。
「獣もいいけど、人間だって悪かねーぜ?」
「人間はきらい」
「おめーも人間だよ」
「嘘。銀さんがきらい」
「ちょっとちょっと何かしたっけ俺?」
「セクハラ、現在進行形で」
言葉とは裏腹に少し硬くした体に力が篭もり、縋りつく様に顔を肩に埋める。軽さに紛れた本音をあやす様に背を撫でる。
「本当はね、私、優しい人間が嫌いなんだ」
まるで懺悔するかの様に囁かれた言葉にやるせなさを感じ、ポンポンと背を叩く。
「残念だったな、人間ってーのは優しさだけで出来ちゃいねーんだよ」
「そうだね、銀さんの半分はマダオで出来てるしね」
低く鳴くように、それでも言葉の中に弱さを見せないこいつに悲しい強さを感じた。
「ちげーよ、何かもっとこう燃えるもんで出来てんだよ」
「……ジャンプとか?」
「確かにジャンプは燃えるけど、お前ぜってー違う意味で言ってるだろう」
「バレましたか」
「バレバレだよ」
クスクスと笑い震える背。
「人間も悪かないねー銀さん」
「だろ?」
上げられた顔が思いの他近くて、その笑みに焦点を合わせるのが少し遅れた。虹彩まではっきりと分かる距離に、少しの戸惑いを押し隠し、「行くか」と声をかける。
立ち上がり服についた草を叩いていると、耳が「あんがとね」と照れくさそうに捨てられた言葉を拾った。
「わん」
「ごめんごめん、忘れてた訳じゃないよ。定春もありがとね」
振り向くと少し機嫌を悪くした白い獣に抱きつき、宥める様に撫で回す姿が、余りにも幸せそうに見えたのでなんだかなぁーと割り切れなさに頭を掻く。
夕焼けに吹く風が気持ちよかった。