強度設計が難しいですね。
--2015/06/03 23:24 --
糖分が欲しくて加筆してみたけど、途中で力尽きた。
伝統にのっとりやけ食いをする事に決めた私は、大量のたい焼きが詰まった袋を抱え、公園に向かう。
空には薄く雲が広がり、噴水が足りない日光をテラテラと反射していた。
その真向かいに位置するベンチに座り、取り出しやすいよう紙袋の口を、ビリビリと広げる。袋の縁がふわふわと毛羽立ち、その中に詰まった魚が虚空を見つめていた。
伸ばされた手から袋を遠ざけ、無作為にたい焼きを一つ取る。
良く
想像した味と違う味に驚いて、一口目を味わい損ねるのが嫌なのだ。
ねっとりとした鳥色のクリームが顔を覗かせる。こぼれ落ちないように、垂れたクリームをまず舐め取り、真ん中から尻尾に向かって口を動かす。
隙をついて再び伸ばされる手。その先は膝の上に置いた袋であったので、バランスを取りながら腰を横にずらし避ける。
「クリームはもう少し滑らかな方が……バニラも、もう少し効かせた方がいいねぇ。あと甘すぎる」
もごもごと口を動かし、屋台レベル百円の平均的な味に文句を付ける。
「だったら寄越せよ。銀さん、糖分切れて死にそうなんだよ」
「死ねば? 少しは健康的になれるかもよ?」
「……なんかお前、今日機嫌悪くね? さてはあの日なんだろ」
「実はそうなんです。だからちょっと離れてくんない? ついでにたい焼きも諦めて」
砂糖に群がる蟻のごとく、どこからともなく現れたくるくる天然パーマは断りもなしに私の横に座ると、糖分を奪い取ろうと画策する。
「カリカリしてんじゃねーよ。お前に必要なのは糖分じゃない、カルシウムだ!」
「だからって、糖分を銀さんに上げる理由にはならない!!」
ドラネコよろしく食べかけのたい焼きを口にくわえ、膝に置いた袋を掴み、その手から遠ざけると、ムキになった銀さんも負けじと距離を詰めてくる。
「ちょっとしつこいよ!?」
体をそらしていた私。その重心は右手にかかっており、それがずるりと滑る。
「――っっ!?」
「うぉっ!」
たい焼きを死守すべく必死だった私は、バランスを崩しそのままベンチに横向きに倒れこむ。そして、私の肩に体重をかけていた銀さんも同じく。
丁度腹の横あたり。余ったスペースにとっさに手をついた銀さんは、私を押しつぶす事を避けるが、
「昼間っからこんな所で、熱いねお二人さん。おじさん焼けちゃうなァ」
いつの間にか、マダ……長谷川さんが目の前に立っており、そんな私達を見下ろしていた。
「いや、悪いね、おじさんまで相伴に預かっちゃって」
「アンコねぇの、アンコ。俺、たい焼きはアンコって決めてんだけど? アンコどれよ」
「…………黙って食え」
吐き出すはずのストレスを増大させ、両隣にマダオを携えた私はガツガツとたい焼きを頬張る。
うぐいす餡に、ジャーマンポテト、チーズと手を伸ばした所で、次の手が止まる。
もしかしなくても、気持ち悪っ……。せり上がりそうな腹の中身を押し留めれば、冷や汗が背中ににじむ。息を吸うのも辛い。
「だから長谷川さん。あそこのパチ屋は手前の台の方が出るって言ったじゃねぇの」
「そんな事言ったってさァ……。前座ってた人間がじゃんじゃん出してたら出ると思っちまうじゃない。あーあ、あん時、隣に座ってたら今頃は……」
たい焼き片手に駄弁るマダオ共の会話がうっとおしく、気持ち悪さに拍車をかける。
「……キリちゃん?」
訝しげな長谷川さんの声を無視して、トイレにダッシュする。
「お、おい、どうしたんだ?」
後ろから焦るような銀さんの声が聞こえるが構ってる余裕はない。
乱暴に開けたドアの鍵をがしゃりと閉め、腹の中身を掻き出す。生理的な涙が滲み、引きずられるようにして出てきた何かも止めどなく溢れる。
あれ……私こんなに弱かったっけ……? ボロボロと落ちる涙を呆然としたまま手の平で受ける。
ひとしきり泣いた後、トイレの水を流し、ドアを開けるとそこには……。
「銀さん。ここ女子トイレなんだけど?」
「いやだって……ってかその目」
「邪魔。どいて」
「えっ、だってほら、普通さ」なんて言い訳にもならない言い訳を口にしながら、気まずげに道を譲った銀さんの横を通り、手洗い場で口をゆすぎ、顔を洗う……。
デリカシー腹の中に取ってこいよと、取りに行く腹がない事を知りながらもココロの中で悪態をつく。
バシャバシャと続く水音。
「……いつまでそこにいる気?」
「お前の方こそ、いつまで洗ってんの」
刺々しい口調に怯むことなく返される。
「ハンカチ忘れた」
「オイオイ、女子力足んねーんじゃねーのっ!?……あ、あのキリさん??」
銀さんの着流しをハンカチ代わりに顔を埋めれば、珍しく動揺を見せる。
「銀さーん、キリちゃん大丈夫だったって……あーおじさんお邪魔かなぁコレ」
視界が白に染まっている所為で、見はしないがちょうどトイレの入口あたりから長谷川さんの声がした。女子トイレに入る度胸がないのだろう流石マダオ。
「うん、邪魔。ってか声かける時点でありえない。ちょっと消えてくれる? 存在ごと」
「ウン、ソウスルネ……」
顔を上げずにそのままくぐもった声を上げれば、足を引き摺るような音と共に、遠ざかる気配。
銀さんの体が少し揺れ、バリバリと頭を掻いたのが分かった。
「一体全体どうしちゃったのよ……突然吐いたと思ったら泣き出すし、銀さんエスパーじゃないのよ、言ってくんなきゃ分かんねーよ」
ポンポンと優しく頭に手が置かれる。
そういうのってズルい。
「つわりでマタニティーブルーなんだよ……責任取って」
「えっ、つわりって、俺なの? いやいやいや、違うよね。基本だらしないけど流石に下半身の世話はちゃんとするよ俺? してるよね? 違うよね? あれ、この前酔っ払った時とか? イヤイヤイヤ!?」
いつから私はこんなにも弱くなってしまったのか。
銀さんの所為だ。銀さんの白さに侵食されて、私は芯と外殻を失ってしまった。
腰に回した手に力を込めて、硬い胸板にグリグリと頭を押し付ける。