天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

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ギャグ色というか、日常色が強すぎて、緊張感が足りなかったのでボツ。


【本編】ふぉっくすはんたーはんてぃんぐ【ボツ】

 武州行きの電車が、キキーッという耳障りな音を立てて、人もまばらな早朝のホームに止まる。

 政府御用達の専用車両。お金という奴はある所にはあるもんだと関心しながら、ゾロゾロと目立つ隊服に混じって乗り込んだ。

 ボックス席に三人。鴨ちゃんと、近藤さんとそして――私。

 

「まさかキリちゃんの実家も武州とは」

「いいんですか? 一般人なんか乗せちゃって」

「いいのいいの、どうせ向かう先は一緒なんだから、旅は道連れ世は情け。それに将来の義妹というのは家族みたいなモンじゃない。家族と一緒に故郷へ行くことのどこが悪いの。全然悪くないよね!」

「だからそれは違うと……まあ、交通費浮いてラッキーなんですけどね」

 

 そうでしょう、そうでしょうとバシバシ叩かれる背中が痛い。近藤さんの脳味噌は一度インプットされたら忘れるという事を知らないのか、執拗に過去の出来事を掘り返しては真実と挿げ替える。

 人が良いのだろう。ミカン食べる? なんて遠足気分だ。

 美味しそうだけれど――。

 

「ちょっとお花摘みに」

「え? お花? どこに咲いてるの?」

「近藤さんの頭じゃないですか? ションベン行ってくるっていう意味ですよ」

「あまり女の子はそーいう事を……」

 

 子供を窘めるかのように小声でゴニョゴニョ呟く近藤さんを置いて、車両の外へと向かう。

 嘘というものは真実の中に織り交ぜるからバレにくいのであって、真っ赤な嘘というのは簡単にボロが出てしまう。つきたくもない嘘などは尚更だ。

 隣の車両へ移ると、イヤホンで落語を聞きながら――音がだだ漏れだ――総悟が窓の外を見ながら座っていた。

 この車両もアウト。背を向けているのを幸いにそのまま素通りしようとした。

 

「山崎を殺ったってのは本当かィ?」

 

 こちらを見ることなく総悟が言った。隊長クラスともなれば、気配で相手が誰かわかるのか――なんて事はなく、窓に反射した己を見て、疑問を自己解決する。

 ジミー君の首を取った次の日の朝にはもう、私がそうした事が一般隊士連中にも伝わっていた。伊東派、土方派問わずに。唯一知らないのは意図的に情報隔離された近藤局長ただ一人。

 鴨ちゃんとしては完全に退路を封じたつもりなのだろう。土方派に寝返ったとしても、そこに私の居場所はない。

 疑り深いなぁーとため息をつく。

 

「もし山崎殺し(それ)が本当だとしたら?」

「テメェも斬るだけだ」

「『も』って事は他に誰か斬るおつもりで?」

 

 意地悪く、繋いだ言葉を拾う。

 

「人斬りは年中無休大忙しだからなァ、誰とは言わず斬るだろうぜ」

「ならいいけど。狐を狩ろうとして、狼に食べられないようくれぐれも注意してね」

「ゴリラに狐に狼と……いつからここは動物園になったんでィ」

 

 総悟はコードを引っ張り、イヤホンを耳からスッポ抜くとクルクルと巻きながらそれを仕舞う。そして、懐から愛用のアイマスクを取り出し、遠慮無くシートを倒すと寝る体勢に入った。

 総悟の隣は空席だった。というか総悟の周りは、サド的なとばっちりを恐れてか、空間が開いていた。

 少し迷った末、空いた隣に腰を下ろす。

 

「行くんじゃねぇのか?」

「いいじゃないの空いてるんだし。それよりミカン食べる?」

 

 近藤さんから(かす)め取ったミカンの半分を割って渡せば、アイマスクを指で押し上げ、憮然とした珍しい総悟を見ることができた。

 

 

 

 

 筋取るのが面倒臭ェからいらねぇと言われたので、ツルンと綺麗に剥いて渡せば、しかめっ面で|橙(だいだい)は一口に放り込まれる。そうやって総悟はしばらくモゴモゴとしていたが、やがてアイマスクを下ろすと寝始めた。

 その隣で、借りた落語を聞く。寿限無(じゅげむ)が流れていた。

 寿限無寿限無と永遠に続くような話が中盤に差しかかる。総悟の肩がピクリと揺れた。

 アイマスクを脱ぎ捨てると、刀を抑え「どけ」といつになく苛立ったように指図(さしず)する。視線は私が出てきた扉の先を見ていた。

 通路に避けて道を開ける。

 

「連れ斬り付き合おうかと思って」

 

 並び歩く私に対し、何か言いたげな総悟にそう言った。

 

「何でィそりゃ」

「今作ったキリちゃん語」

 

 プシュッという音と共に扉が開いた。連結部分は(かしま)しく、総悟がなんと返事をしたか分からなかったが、碌でもない事を言ったのは確かだった。

 

 扉の先――そこでは刀を抜いた隊士が近藤さんを取り囲んでいた。

 

「沖田君、君は見張りだった筈。腕が立つと言っても所詮(しょせん)……」

「手ェ離しな」

 

 舐めきった口調で揶揄しようとした鴨ちゃんの先を総悟が鋭い言葉で制す。

 その態度に、鴨ちゃんはブリッジを人差し指で抑え、温度を下げた声で続ける。

 

「……やはり、君は土方派だったか」

 

 鴨ちゃんと総悟の間で導火線が結ばれる。

 

「土方派? 寝ぼけたこと言ってんじゃねーよ。テメェの下も、土方の下もまっぴら御免でェ。俺の席はただ一つ。近藤さんの隣(真選組副長)だけだ」

 

 クククッと鴨ちゃんの体が揺れる。

 

「いいだろう。僕も丁度物足りないと思っていてね。王手がこうもあっさりと決まっては面白くない。だが……果たして君は椅子取りゲームを勝ち抜く事ができるかな?」

 

 静かに、総悟の背後から鴨ちゃんの手勢が迫る。

 馬鹿だ……それに気づかぬ隊長ではないだろうに、今まで何を見てきたのか。

 抜刀された瞬間――合わせる。

 

「いつからてめェは刀持ちになったんでェ」

 

 背後に「お、俺の刀」と戸惑う気配を感じつつ、笑う。

 

「つい今しがた」

「……刀を抜いたからには貸しも借りも関係ねぇ、斬るだけだ。分かってんだろうな」

「一番隊隊長ともあろうものがそれを聞く?」

 

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<総悟を斬った後、鴨太郎の所に行く前あたり>

 

 バズーカーの弾が放たれる。曲がった刀で断ち切る。二つに割れた弾があらぬ方向へ飛び、爆発する。

 白黒と黒。間に立つ私に戸惑うよう、二つに割れていた。否。アクセルを踏んだ一台が飛び出る。

 途端――……。

 

――ギュルルっ、ガリリリリッ

 

「ハンドルが……きかない!! うっうわぁっっ!!」

 

 何かに引き寄せられるよう方向を変えた車は、木にぶつかり黒い煙を上げる。 

 既に何台もの車が、横倒しになり、転がっていた。

 二つに割れたのではなく、割れざるを得なかった。

 

「真選組のみなさーん、定時は過ぎていますよー。公僕は公僕らしく、定時退社、週休二日、寝る前に歯磨き、ちゃんと守りましょうねー」

 

 ハウリング気味の拡声器――故障した車から拾った――を手に持ち呼びかける。

 

「なんのつもりだっ」

「貴様裏切る気か!」

 

 両サイドから罵声が飛ぶ。鬼兵隊からも、真選組からも怒りと困惑に満ちた目を向けられる。

 そして、車が使えないと判断するや否や、一人、また一人と車両から降り立ち、刀を抜いた。

 投降の呼びかけは無駄に終わり、弾が、刀が飛ぶ。それをいなし、逸し、叩き斬る。気がつけば全ての刀が私に向いていた。

 

「おのれ……妖術の類か……オン・バサラ・ソワカっ!」

 

 効くはずもない呪文を唱えながら一刀両断せんと血走った目で振りぬかれた刀を掴み、膝で腹を蹴り上げ、転がす。

 ふーふーと荒い息をなだめ――目配せだけでタイミングを合わせ、四方八方から刀が振り下ろされる。紫電をまとわせた刀を一閃――地に伏す。

 十や二十で効かない数の取り巻きができていた。

 

「もうこないの? こっちから行くよ?」

 

怯えるように、

 

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