「いつまで寝てるアルか!!」
バッと布団が剥ぎ取られる。
「銀ちゃんが女になったネ!!!」
何が起こったか反応するよりも先につんざくような声に脳をゆすぶられる。
音源を見てみると、赤いチャイナ服に身を包んだ女の子が青い瞳を大きくしてこちらを見つめている。
神楽ちゃんか。
「違うよ。居間にいない?」
まだ揺れるような頭を振って、開けっ放しになった襖の向こうを見てみると、机の下で寝ている銀さんが見えた。
ソファーから転げ落ちてそのままの勢いで机の下に潜り込んだんだろうか? でも、普通ソファーから落ちた時点で起きるんじゃ……。
「銀ちゃん!!! 朝ネ! 起きるヨロシ!」
神楽ちゃんは、私の視線に気づいて突撃していった。
もう少し早く起きるつもりだったけど……。
「うっせー。銀さん眠みーのよ。もうちょっと寝かしてくれー」
「外を見るアル。お天道さんあんなに高く上っているネ! これ以上寝ると頭パーになるヨ!」
「すでに天パーなので大丈夫ですー」
「人の忠告は素直に聞けこのダメ天パー!」
ドゴッ!
「ぐふっ……!」
「まだ寝ようとするアルか!」
「ちょっ、や……めっ……」
背後から聞こえてはいけないような音が聞こえてくるが、気にしないようにして布団をたたむ。
押し入れを開けるともう一組布団が入っていた。こっちが銀さんの布団だろうか?
昨日はよく考えずに寝たが、少しほっとする。銀さんの布団で寝るとかちょっと心臓に悪い。
静かになった居間に戻ると、ボロボロになった銀さんと、ソファーにちょこんと座る神楽ちゃんがいた。
新八君はまだ出勤してきてないみたいだ。
「おはようございます」
「おはよーアル」
「おー……おはよう」
二人に声を掛けると、元気な声と死にそうな声で返答が返ってきた。
「銀ちゃん、そーいえば和室に変な女が寝ていたネ。銀ちゃん、うちは連れ込み宿じゃないヨ」
「連れ込み宿たー渋い言い方だな。最近はラブホっていうんだぜ神楽」
「連れ込み宿の方が味がアルネ、くちゃくちゃ噛んで3日目のスルメみたいな味ヨ」
「それもう味ねーんじゃねぇの? それに俺はスルメよりショートケーキ派だ」
万事屋にいると朝からこのテンションに付き合わないといけないのか……。
少ししんどいかもしれない。
「おはよーございます」
ガラガラと玄関の戸が開く声と共に、大人になりきれない少年の声が聞こえてきた。
「新八ー! お腹空いたアル!」
「新八。早くしろよー怪獣が暴れだすぞー」
「はいはーい。って誰ですかこの人!!」
おー。やっと突っ込んでくれた。
神楽ちゃん興味もったの最初だけで、後は放置だもんなぁー。
「黒島キリ 18歳 女 生年月日不明 住所:地球 出身地:地球。以上」
「年齢と名前以外不明じゃないですか! 何ですかこの怪しさ過積載な人!」
「怪しい女アル。昨日、銀ちゃんが連れ込んだネ。うちは連れ込み宿じゃないっていってるのに」
「あんたは! 神楽ちゃんもいるっていうのに、いったい何してるんですか!」
「神楽、スルメよりはショートケーキの方がいいって絶対」
「ショートケーキは三日も噛んでられないネ」
「スルメだって噛まねーよ」
「いったい何の話ですか!!!」
あ、ダメだ……なんかリフレイン?
それからお腹の空きすぎた神楽ちゃんが暴れだすまで、それは続いた。
「で、銀さん誰なんですかこの人」
そうやって切り出されたのは、朝食後お茶をすすっている時だった。
いつの間にか私の分の朝食も用意されていて、なし崩しで席を共にしてしまった。
「真選組からの預かりもんだ」
「真選組からの……? ああ、例のホームレスさん!」
「このねーちゃんがあのホームレスアルか」
あらかじめ依頼内容を聞いていたのだろうか、すんなりと納得する二人。
しかし、どんな依頼方法をしたのだろうか、真選組は……。
「ホームレスじゃなくて、借りぐらしです」
「同じようなもんだろ」
「同じネ」
「言い方かえたところで、本質は変わりませんよ」
少し悔しくなって、反論してみるも、3倍返しの刑に合いました。
妙なところで息の合う、万事屋ズが憎い。
「黒島キリです」
諦めてぺこりと頭をさげる。
「志村新八です」
「神楽アルネ! 万事屋グラさんとはアタイのことネ!」
「改めて、坂田銀時だ。で、あっちのでかいのが定春だ」
挨拶を終えた後、いつまでもサイズの合わない甚平姿でいるのもアレだったので、着替えるついでにお風呂を借りた。
同じ洋服2日目。アンダーウェアだけはこっそり綺麗にしましたがちょっといやんな感じです……。
「なんでお前はホームレスになったアルか?」
「ちょっと神楽ちゃんそーいうデリケートな問題は!」
さっぱりしたところに、開口一番、超ど真ん中直球ストレートの神楽ちゃん。
気分的にはデットボールDEATH。
「ん~……。気が付いたら一回死んで迷子的な?」
気の利く新八君が入れてくれたお茶を啜りながら、平気なフリをして、嘘でもないが、正確でもない事を伝えると可哀想な目で見つめられる。同情とかじゃなく、アレ的な目線だ。
「新八……。なんかこいつアレアルな。電波」
「しっ……、神楽ちゃん聞こえちゃうよ」
「いや、ばっちり聞こえてますよー」
銀さんは聞いてるのか聞いてないのか、ジャンプを読んでいる。
ま、なんでもいーんですけどね。
時計を見るとお昼には早すぎる時間。
「お風呂とご飯ありがとうございました。新八君お茶美味しかった、ありがとう。坂田さん、一宿一飯の御恩は忘れません。これで失礼します」
ペコと頭を下げ立ち上がる。
久しぶりのお風呂は暖かく、新八君の淹れてくれたお茶は美味しかった。
その尊く思ってしまう温もりを大事にするためにも、自分はここに居るべきじゃない。
ここに居てもいいんじゃないか、そんな悪魔の囁きが聞こえるが、聞こえぬふりをする。
「えええっ!? 神楽ちゃんが失礼なことを言うから!!!」
「本当の事言われて家を飛び出すとか、思春期のガキかヨ。次はバイクでも盗んで走り出すアルか」
「神楽ちゃん! 失礼なこといって済みません、神楽ちゃんもほら謝って!」
一瞬の間ののち、お子様ズがアタフタと騒ぎ出す。
あえて訂正することなく、和室に置いてあった鞄を持つと、玄関に向かって歩き出す。
――パタン……ギシッ
振り向くといつかの月夜の様に頭をガシガシ掻き毟りながら立つ白い人。
お子様ズはその後ろからこっそり様子を伺うように覗き込んでいる。
「出てくのか?」
「はい」
「昨日の今日で、ちょっと早すぎじゃね? 依頼失敗とか笑えねーんだけど。こっちはおまんま掛かってんだよ」
「土方さんには適当言っておけば大丈夫ですよ~。そーいうの得意でしょ『坂田さん』?」
にっこりと猫を張り付けて微笑んでみる。その言葉にガシガシと掻き毟る手が下ろされる。
銀さんは本気で拒めばこの距離を詰めようとしない。だから……まだ大丈夫。
――ジリンジリン
居間の方から電話が鳴る音がする。
「もしもし、万事屋アル」
「銀ちゃん?」
「止め刺して逃げてこいヨ」
「……意味わかんないアル。それに銀ちゃんここに居るネ」
「神楽ちゃん何だった?」
「神父の毛が大変とか言ってたけど、間違い電話だったアル」
出ていこうと玄関で靴を履いていると、そんな声が聞こえてきた。
血の気が引いた。
銀さんを見上げると先ほどと同じく、どこか諦めたような顔をしており、動く気配はない。
神楽ちゃんも……動かない。誰も何が起こっているのか気付いていない
「坂田さん! えっと……トイレ行きたくない?」
焦りのあまり、自分ながら意味不明な事を言っているのは分かったが、取り敢えず時間稼ぎをしてみる。
「あ? ……さっきから我慢してんのなんで分かったんだよ」
「我慢はよくないよ~、うん、今直ぐ行ってきたほうがいいよ」
「いや、流石に見送りするぐらいの間は別に我慢するけど?」
「いや大丈夫、待ってるから!!」
「? まあ、行けつーんだったら行くけどよ……?」
まずった。本当にバタフライ・エフェクトだ。泣きたくなる。
風呂なんて入ってる場合じゃなかった。せめて、お茶だけでも断るべきだった。
きっとこれから始まるのは星海坊主篇。私の所為で出ばなで狂ってしまっている。
「で、依頼って何よ」
「ちょっと一緒に大江戸信用金庫まで来てください」
「出ていくって言ったり、依頼があるって言ったり、何なのもー。銀さん暇じゃないんだけど?」
「済みません。依頼料弾むから、お願いします!」
考えた末、トイレから出てきた銀さんに、依頼があると伝え、不思議そうなお子様ズがいる居間に逆戻り。
TVはちょうど拙者拙者詐欺についての特集が終わったところだ。
「動物乗ると酔うんで、駕籠屋で! お金私が持つから」
スクーターを出そうとする銀さんと、定春に乗せてくれるという神楽ちゃんをとっさに止める。確かあの話の時は、定春は一緒じゃなかったハズ。
駕籠屋を拾う時間をロスった……。大丈夫か……?
焦りながら、既に人だかりが出来ている信用金庫の前に駕籠屋を止める。
「何の騒ぎアルか?」
「なんだろうイベントかな?」
ピョンピョンと人だかりの前を見ようとする神楽ちゃんと、キョロキョロとあたりを見渡す新八君。
「ついて来て!」
そう声を掛けて人ごみを掻き分ける。銀行強盗だってバレる前に中に入らないと絶対ついて来てくれない。だって今回は神楽ちゃんがいない事を知っている。
「おい、ちょっと待てって、これなんかヤバイ雰囲気じゃねーの?」
気づかれた!? でも、銀さん達の役割としては、入口に待機してくれているだけでも十分のハズ! 中は私がフォローすれば。
「坂田さん! 借りますね」
足を止める銀さんから、木刀をひったくると中に走り込む。自動ドアが開くのも待ってられなくて、叩き割る。
中では既に、目つきの怪しい男の口からえいりあんが出ており、倒れている人が目に入る。
間に合わなかった!? そんなっ……。慌てて倒れた人に駆け寄ると、幸いエイリアンに乗り移られてはいなく、まだ息があった。外傷はそのままに、内面的な怪我を癒す。
ジャリとガラスを踏む音がする。
「何勝手に突入してんだよ! 正義のヒーロー気取りですか、コノヤロー」
「うわっ、何ですかあのデロデロした気持ち悪いの」
「内臓か? 内臓アルか!?」
「銀さんっ!」
紫色の内臓が銀さんに向かって襲い掛かる。
慌てて木刀で弾く。何で……。
「危ないから下がってて!」
形を変形させながら、不規則な動作でえいりあんが襲ってくる。
私が木刀を奪ってしまったせいで、銀さんは丸腰だ。なんでこーも上手くいかないのだろう……。
「バカヤロー、危ないのはテメーだ! さっさとそれ返しやがれ」
「……くっ、ちょっと無理!」
ウォームアップが終わったのか速度が上がっていく。
そろそろ刀だけでの対応が難しくなってきた。こっちの刀は一本しかないのに相手は二刀流どころか無限流だ! 早く来いよハゲ!
――ドンッ
風切り音とともに飛来した傘は、壁に突き刺さっており、えいりあんの動きを止める。
「パピー?」
そういって立っているのは全身をコートで覆った男。
遅いよハゲ……。今更足が震えてくる。