天国には理想郷がありまして ボツネタ集   作:空飛ぶ鶏゜

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情に絆されて口を滑らした話

 外に出ると、土方さんと沖田さんと目が合った。

 何か言いたげな表情に、軽く会釈だけしてみんなに続く。

 念のためこの件が終わるまでは一緒に居ようと決める。

 少し嬉しく思ってしまう自分が本当嫌になる。

 

「星海坊主!?」

 

 神楽ちゃんのパピーの正体と毛根の話で盛り上がる一同。

 私は大人しくマロンパフェをつついている。

 

「……で、こっちが一緒に住んでいる元ホームレスアルネ」

 

 なんつー紹介しているんだ! 動揺して、思わず神楽ちゃんの顔を見つめてしまう。

 そんな私に気付かずに、次第にヒートアップしていくやり取り。

 そしてとうとう二人は窓を割って飛び出していく。

 そーいえばお会計ってどうしたんだろう。アニメや漫画では語られなかったけど……。

 

「いくぞ!」

「お客様、お会計!!!」

 

 やっぱり食い逃げか……。銀さんに遅れないようについていく。予想外に新八君も遅れずについてくる。何だかんだ言って慣れてるんだろうな、こーいう対応。

 外では怪獣大作戦ばりに二匹の怪獣が暴れていた。

 

「新八! 警察に連絡して周りの人間避難させろ。キリ、オメーは先、万事屋に帰ってろ」

 

 銀さんの指示に新八君が走っていく。

 一瞬遅れて私も、万事屋への道を走る。

 都合がいいはずの指示なのに、疎外感を感じてしまう。身勝手だ。

 しばらく離れたところで鳥を作り飛ばす。

 そして、フォローできる距離で、気づかれないように過激な親子喧嘩の様子を伺う。

 

「嫁入り前の娘が男と同棲なんて許されると思っているのか!」

 

 鳥を通して聞こえてきた星海坊主のセリフにそういえば……と思考を巡らす。どうして真選組は私の預け先を万事屋に頼んだんだろう。自分の性別と年齢を考えると適切な預け先とは思えない。

 それの上手い理由を思いつかないまま、私の知っている通りに事が進んで、銀さんが帰る前に、一足先に万事屋に戻る。

 玄関までついたところで、鍵を持っていないことに気付いた。

 屋根で寝転んで待っていると、階段を上がってくる音がした。覗き込むと白い頭が見える。

 私に気付いている様子はない。

 だからその言葉は誰にも聞かせるつもりはなかったんだろう。

 

「出てけつっても出ていかない怪力娘に、居ろつっても出ていこうとする野生児。年頃の子ってのは難しいねぇー」

 

 寂しそうに呟いたセリフがらしくなく、出ていくタイミングを失ってしまった。

 

「カギ……あいつに渡してたっけ?」

 

 玄関のカギを開けようとしたタイミングで、何かに気付いたんだろう。上を見上げる。

 

「聞いてた?」

「何を?」

 

 とぼける私に、何でもないと答え、銀さんはそのまま玄関をくぐる。

 その後ろ姿に買い物に行ってくると声をかけ、近くのスーパーに出かける。

 新八君は現場から直接家に帰ったみたいだ。

 

「戻りました~」

「おー」

 

 中に入ると銀さんはいつもの椅子をギシギシさせて、ジャンプを読んでいた。

 

「コップ借りてもいーですか?」

「おー」

 

 一応家主の了解を得て、台所に立ち入る。

 トクトクといちご牛乳を二つのコップに入れる。

 

「依頼料」

「ずいぶんと安くねーか」

 

 トンと机の上に置く。この行為が何をもたらすのか分からないけど、そうせずにはいられなかった。

 

「奮発しましたよ。冷蔵庫にあと3本入っているから」

「そりゃー大奮発だな」

「そーでしょ」

 

 無言でいちご牛乳を飲む。

 

「坂田さん。あと少しここに置かせて下さい」

「おー」

 

 一音だけ高くなった返答に満足する。

 

「先に風呂入れ」

 

 日が沈み、伝えられたその言葉に服どうしようと考える。

 ぶっちゃけ荷物は全部、容量をイジったこの鞄の中に入っているのだが、外からはそんなものが入るような大きさには見えない。

 

 すでに二日はつけているこの服を再度着けたいとは思えないし、一瞬で綺麗にする事もできるが、どうやったと聞かれたら答えられない……。

 

「済みません、ちょっと荷物取ってきますね。替えの服ないんで」

「こんな時間にか? 同じ服きりゃーいーじゃねーか」

「坂田さんじゃないから無理ですよ」

「……どこだよ」

「え?」

「どこに置いてあるんだよ荷物。送ってってやるよ」

「一人で大丈夫ですよ?」

「いーから教えろ」

 

 しぶしぶ廃墟となった遊園地の場所を伝えると、酷い顔をされた。

 有刺鉄線が巻いてあるフェンスの前まで来たところで待つようにと伝えると、中までついてくると言い出した。

 まあ、ついてこれるならと伝え、助走をつけて、ジャンプする。そのまま、フェンスとフェンスの間にあるポールをつかみ、フェンスを蹴る反動で一回転をして向う側に着地する。

 普段はこんな面倒くさい入り方はしないんだけど、この高さを跳躍力だけで超えるとか人間としてどーかと思うので、わざわざ回りくどい事をしている。

 ちなみにこれは、ここに引きこもっている間に生み出したカッコいいフェンスの越え方その1である。世の中何が役に立つか分からない。

 

「中国雑技団かよ……」

 

 そういいながらも、同じ方法で飛び越えてくる銀さんは、流石白夜叉だと思う。私の場合は身体制御というチートを使ってるが、銀さんの場合素だもんなぁ~。

 そのまま歩きなれた道を行き、生垣に囲まれた休憩スペースにたどり着く。

 

「少しここで待ってて下さい」

「ここまで来たら一緒じゃねーか」

「荷物まとめたいんだけど、見られたくないものもあるしね」

「りょーかい」

 

 生垣の向こうに歩いていき、見えない場所でダンボールを作り出し、鞄の中のものを詰め替える。

 こんなもんかな……?

 両手で抱えられるサイズのダンボール一箱に荷物をまとめて銀さんの元に戻る。

 

「そんだけか?」

「ん」

 

 色の抜け落ちたメリーゴーランドと、荷物を見やりまた酷い顔をする。

 

「お前さ、もう少し自分を労わった方がいーんじゃねーの?」

「労わってるよ。有機野菜できるだけ心がけてるし、この化粧水少し奮発したよ?」

 

 そう言って、ダンボールの中の一番上にある化粧水を振ってみる。

 

「そーじゃねーよ。人間には心つーもんがあんだろ。こんなところにいると心まで荒んでくぞ。万事屋が嫌なら別の所用意してやるからもっとましなところ住めよ」

「ん~。ま、大丈夫大丈夫」

「……真選組の連中はしょうがないとして、俺らの事も嫌いな訳? 少なくとも新八や神楽はなんもしてねーだろ」

 

 思いがけない言葉に一瞬間が空いてしまった。

 

「坂田さん。ヤマアラシのジレンマって知ってる?」

「……」

「少しだけ、種明かししてあげます」

 

 ショーペンハウアーさんもフロイトさんもはこの世界には居ないかもしれないと思いもう少しヒントを出す。

 顔を見られたくなくて先頭に立って歩きながら話す。

 

「私は少しだけ人とは違うところがあるんです!」

「中二の夏ですかー?」

「中二病は不治の病! ってまあ、中二病なら良かったんですけどね、依頼内容少し変だったでしょ?」

「まあ……な」

「その所為で私はここ居られない。それだけ。だからそんな寂しそうな顔しないでください」

 

 後ろを歩く銀さんの顔なんて分からない。でも、きっといつもの気だるそうな顔をしてるんだろう。

 

「誰が寂しがりやのうさぎちゃんだ。うさぎはテメーだろ」

「ふふふっ! うさぎは神楽ちゃんで、私はヤマアラシでしたー。おりゃっ!」

 

 『だから一緒には居られないんです』という言葉は飲み込んで、フェンスの向こう側へダンボールを投げる。

 針のないうさぎに一方的に針を突き立てるだけの存在だ私は。

 

「帰りはちょっと簡単です」

 

 フェンスは外に向けて斜めに張っているため、帰りはポールまでの距離が遠い。

 助走をつけて最初にフェンスを蹴り距離を稼ぐ。ポールに手をついたらそのまま両足を横に、フェンスと平行にして飛び越える。

 

「大して変わんねーよ中国雑技団め」

 

 

――チャポン

 

 喋りすぎたかな。お風呂に入りながらはぁーっと息をつく。

 

――深淵を覗き込むとき、深淵もまたこちら側を覗き込んでいる

 

 私は銀魂の世界に住む人々を盗み見をしている。だが、何を見ても影響を受けないなんて強靭な魂はこれっぽっちももっちゃいない。だから見すぎないように気を付けているつもりだった。

『お前にゃやっぱ地球は狭いんじゃねーの。いい機会だ、おやじと一緒にいけよ。これでさよならとしよーや』

 神楽ちゃんと別れるための言葉。

 どんな気持ちで言ったんだろう。紙越しに何度も見たけど気持ちまでは描かれちゃいない。

 神楽ちゃんは今日は帰ってこなかった。お父さんと一緒なんだろう。

 銀さんを突き放す事ができなくてついつい口が滑ってしまった。

 あそこで嫌いだと言えたら良かったのに、馬鹿だな……。

 風呂から上がると、銀さんは文句を言いながら晩飯を作ってくれた。さらに、布団まで貸してくれようとする。

 こんだけデレた銀さんなんて漫画にもアニメにも存在しない。もう十分甘えさせて貰った。

 

「布団臭い。そして薄い。あんなんに寝たら私、匂いと腰痛で死ねそうなのでソファーを要求します!」

「あァ? ふざけんな、ホームレスが生言ってんじゃねーよ。今までの屋根だとかベンチだとかに比べたら天国だろうが」

「借りぐらしですってば。私、贅沢できるときは贅沢する主義なんですよ」

「随分安い贅沢だな、オイ。ホームレス生活が思想まで貧困に染めたか」

「はいはいはいはい、もう決めました。私が決めました。絶対正義が決めたので却下です」

 

 両手両足を伸ばしてソファーを強制占拠する。

 

「面倒くさいやつ」

 

 そんな声と共に諦めたのか離れていく気配がする。

 

「そっくりそのままお返しします。おやすみなさい、坂田さん」

「おー。おやすみ」

 

 明かりが消えてシンと静まる。ソファーの人工革は冷たく、固い。

 こっちの方がいい。今日は夢を見なかった。

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