昨日の様に寝坊することなく、予定通りの時間に起きる。
この後は、新八君とのやり取りと手紙の件だけど……部外者の私はいない方がいいだろう。
出かけてくる旨の置き手紙を残して出ていく。
近所を散歩しながら、新八君が駆けるように出ていくところを鳥越しに見送った後、万事屋に戻る。
ゆっくりとわざと音を立てて玄関をくぐる。
「済みません、のっぴきならない事情があったので出かけてました」
「ホームレスののっぴきならない事情ってなんだよ」
「水の確保とか、コンビニの廃棄の確保とか?」
「リアル過ぎるから、聞きたくないからそんなこと」
「リアルだからね。ジャンプ読んでいいー?」
「いいぞー、あ、これから俺、仕事だからほらこれ鍵」
チャッと甲高い音を立てて差し出される万事屋の鍵。
「ん~。一緒にいっちゃダメ?」
「何、手伝ってくれるの?」
「一宿一飯の恩まだ返せてないからね」
「しゃーねーな、ほら行くぞ」
「お前アレだぞ、そんなことをしたらあの………ダメだぞォォ!!」
「きゃうん!」
「かくしてエイリアンとやくざ地球の存亡を掛けた戦いが始まるのであります」
「えいりあん VS やくざ 超絶面白いですよ~ぜひ見に来てくださ~い」
今日の仕事は、えいりあん VS やくざという映画の呼び込みだ。
長谷川さんは私の事を覚えていてくれたらしく、元気でやってることを喜んでくれた。
ちなみに、銀さんがやくざ役で、定春がえいりあん役の被り物を着て呼び込みをしている、私は旗持ちだ。着ぐるみ役を逃れられたのでほっとする。
映画館の前で、寸劇を披露するはずだが、セリフを覚えてない銀さんの所為で、ぐだぐだに終わってしまった。
「銀さんそーいやあいつらどうした? 影の薄いメガネ君と怪力娘……もう少し人手がいりゃあ」
「知るかよ、あんなんいなくたって俺一人でなんだってできんだよ。何故なら銀さんとっても器用だから!」
不器用代表格が強がっちゃって。そんな無駄話をくっちゃべってると掃除のおばさんに呼ばれる。それについていき、映画館内のTVを見ると、ターミナルで暴れているえいりあんと神楽ちゃんが映し出されていた。
「キリ! お前は先に万事屋に戻ってろ、定春行くぞ」
それを見た瞬間、さっきまでのだらけた顔を一変させ、慌てて更衣室へかけていく。
やっぱり私はお留守番なのね。そして早着替えかというぐらいの速度で衣装を替え、木刀を持った銀さんは定春の背に乗って駆けていった。
「鍵貰い損ねた。取りに行かないと」
そう言い訳して私もターミナルへ駆けていく。
到着したときは、真選組がエイリアンに向けて砲撃を行っているところだった。
「土方さん、坂田さんは!?」
「何しに来てんだよテレビみてねーのかよ、ガキは家かえってクソして寝てろ」
「トシ! その子が……」
「ああ、例のホームレスだ」
「そうか……あの時は助かった、君からの情報提供がなければ危うく……。ありがとう」
「近藤さん、どうでもいいですけど、このままだと旦那みたいに、えいりあんに食われちやいやすぜィ」
「おお、また改めてお礼は! 一斉に構えー! ……打てー!」
つんざくような音と共に一斉に戦車から砲撃が撃ち込まれる。
「近藤さん、お礼に刀お借りしてもいいですか」
「え!? ちょっと」
返事を待たずに、近藤さんから刀を無断拝借する。
「戻れ! テメーまで死ぬ気か!」
「鍵ないとお家入れないんですよ。ちょっと鍵取りに行ってきます」
「オイ!! チッ、援護しろ!」
土方さんの応援を受け、巻き付く紫色のえいりあんを足場にターミナルを登っていく。
「土方さん、あいつ人間ですかィ」
「しらねーよ、どいつもこいつも……」
登っていく途中で、白い獣がえいりあんから飛び出し、神楽ちゃんとニアミスするところを発見。
あそこか……。
「なんで来た、帰れつったはずだけど!?」
「鍵ないとお家入れないんですけど!」
「今度合鍵でも作るか、ねっ!」
「今度……ねっ! 定春とあいつらは私が守るから、神楽ちゃんをよろしくっ!」
えいりあんを斬り飛ばしながらそう言い捨て、孤軍奮闘している定春をフォローするために、変動するえいりあんに乗って移動する。
瞬く間に遠ざかる、星海坊主さんと銀さん。
いざとなればまだまだフォローできる距離だけど……。背後から迫る触手に銀さんの腕がやられた……。何でもない顔をしているが、本当はのたうち回るぐらい痛いはずだ……。
刀を握る手に力が入る。
そうやって辿り着いた先は、ターミナルの外壁に突っ込んだ船の上。
体当たりや、パンチを繰り出しながら懸命に頑張る定春の後ろで震えているバカ皇子達。死ねよこいつら。
重要な役割があるのを知っているけど、絞めておいた方がいいんじゃないかと悪魔が囁く。
腹立ちまぎれに気持ち悪いえいりあんの部位をそっちに向けて飛ばす。はぅとかへぅとか情けない声を上げている。
ざまー。
「キリさん!」
聞き覚えのある声に振り向けば、ターミナルの梯子にぶら下がる新八君。
えいりあんから直接の攻撃は届かないが、ターミナル自体が揺れており今にも落ちそうだ。
「定春! ここしばらくお願い」
助走をつけて梯子に向け飛ぶ。
「え!? ちょっと!!!」
――ドンッ
梯子に――新八君のちょうど上の位置――に掴まる。
「新八君ちょっと痛いけど我慢してね。頭抱えて」
「えっ、何するきですか!?」
「投げる」
「えええええ!?」
新八君の隣に移動すると腰を抱えて反動をつけて船に向けて放り投げる。
少し痛そうな音を立ててバカ皇子の隣に落下する。
残った私は、大回りしてえいりあんの上を走りながら船の上に到着する。
「キリさんって以外と力持ちなんですね……」
「裏ワザ使ってるからね」
軽口をたたきながら襲ってくるえいりあんを叩き斬る。
ちらりと見ると曇り空の間に浮かぶ黒塗りの船。きたか……。
「何かに掴まって」
そう声を掛けた直後、ターミナルの外側に突き出ている船の底が抜け、赤い心臓の様な核がむき出しとなる。
「神楽ちゃん!!」
ただでさえ白い肌を更に青白く染め、赤い核の中に囚われるお姫様。
緑の触手が波打ち真っ赤な核の奥底へ押し込んでいく。
「神楽ちゃああああん!!!」
それを見た新八君は悲痛な声を上げる。
助かるから大丈夫なんて思えない、痛みは痛みなんだ。
私は知っていて手をこまねいている。
「キリさん、神楽ちゃんが!! 助けに行かないと」
「少しだけ待ってからね。今行くと邪魔しちゃうから」
「大丈夫です!」
「ダメだよ新八君」
「通してください!」
本当は新八君はもっと後で核まで辿り着くルートを確保したのだろう。手を出したことでタイミングがずれている。けれど恐怖に震えながら必死で梯子に掴まるこの子を放置できなかった。
今行っては星海坊主さん達を邪魔してしまう……。物理的な戦いじゃない、心理的な戦いを。
何も知らない新八君からしたら邪魔をしているだけにしか見えないだろう。
「いい加減にしてください! 神楽ちゃんを見殺しにする気ですか!?」
「……」
違う! そう言おうとして言えなかった。
言葉が胸に刺さる。神楽ちゃんを危険に晒している事には変わりない。
「銀さんがっ!!! どいてください!」
私の背後を見つめる新八君から再度悲鳴が上がる。きっと銀さんも核に飲み込まれたのだろう。拡声器から松ちゃん砲が発射される旨の警告が聞こえてくる。
「行くよ!」
「えっ!」
「定春! バカ皇子とそいつ連れてきてね」
「キャウン」
「ウァアアアアア!!!」
ようやく行ける。新八君を襟首を捕まえて走り出す。
どうせ見えないだろうからと、幾つかカマイタチを飛ばして触手を斬り飛ばすスピードを上げる。
船の甲板の上を滑るように駆け抜け、核に飛び移る。
やっとたどり着いた核の上で、バカ皇子が自分から人質になるのだと言い出した。
新八君とバカ皇子が懸命に砲撃を止めるように必死で声を荒げる。
私は意識を集中して、核の内部を探る。大丈夫まだ神楽ちゃんも銀さんも生きている。
もしどちらかの鼓動が止まるようなことがあれば、私は……。
空に浮かぶ黒船の中心に設置された巨大な砲身――松ちゃん砲――の充填が始まる。
まだか……。まだか……。1秒1秒がとてつもなく長く感じられる。
「それ私の酢昆布ネェェェ!」
緑色の噴水と共に、神楽ちゃんと銀さんが飛び出てきた。
良かった……。泣きそうだ……。でも、まだ気を抜いちゃいけない。
飛び出てきた神楽ちゃんを確認すると、銀さんと星海坊主さんがえいりあんに止めを刺す。
その振動で、メガネをなくす新八君。メダパニに掛かっている神楽ちゃんに毛根根こそぎ取られる星海坊主さん。
そうやっている間にも松ちゃん砲の砲身にエネルギーが充填されていくのが分かる。
もし、松ちゃん砲に星海坊主さんが耐えれそうになかったら私が対応しないと……。
コンマ1秒の世界に神経を尖らせる。足だけじゃなくて手まで震えてくる。
発射の瞬間、震えるその手を引き寄せられ、押し倒される。
なっ!! バカッ! 心臓が凍り付く。
凄まじい光が収まり、目を開けると、白い着物に、神楽ちゃん共々抱え込まれているのが分かった。
「星海坊主さん!」
慌てて駆け寄ろうとするも、凄まじい力で腕を掴まれており抜け出すことが叶わない。
「坂田さん離して!」
ようやく抜けた力に、銀さんを押しのけ、仁王立ちになっている星海坊主さんに駆け寄る。
触れた瞬間崩れ落ちる星海坊主さん。
「ハゲッ!!」
「ボウズさん!」
銀さんと、新八君が叫ぶ。
傘は皮膚が張り付くような温度になっていた。
星海坊主さんを支えながら触診をすると、内部から凄まじい速度で怪我が治っていくのが感じられる。
命に関わるような臓器の損傷は見られない。念のため焼けた肺や呼吸器系を少しだけ治癒する。
ようやく終わった……。気が抜けた瞬間、足から力が抜け、星海坊主さん共々倒れそうになる。
それを銀さんと新八君が慌てて支えてくれた。
「大丈夫か?」
「気を失っているだけ見たい、命に別状はないよ」
「ちげーよ、お前だよ。こんなハゲ1ミリも心配しちゃいねーよ」
「大丈夫……。それより神楽ちゃんは?」
「さっきの暴れっぷりみただろう、あんだけ暴れられりゃあ大丈夫じゃねーの」
「よかった。坂田さん、星海坊主さん支えて」
支えていた星海坊主の腕を銀さんの肩に回す。
そして、そのままへたり込む。
「おいおい、全然大丈夫じゃねーだろ」
「大丈夫大丈夫。力が抜けただけだから。新八君大丈夫? 本体どっかいっちゃったみたいだけど」
「メガネは本体じゃねーよ!!」
「そっかー違うのか。でも大丈夫そうで良かった。定春とバカ皇子達も大丈夫だね。良かった良かった」
パトカーのサイレンが鳴り響く。
「おい、あんま端までいくと落ちんぞ」
「じょぶじょぶ。真選組の皆も大丈夫そうだね」
ずりずりと這いながら下を覗き込むと、顔までは分からないが先頭に立って指揮をしている黒頭はきっと土方さんだ。その後ろで棒立ちしているのが近藤さん。戦車にもたれて寝ているのがきっと沖田さん。
夕日に照らされた江戸はとても綺麗で、センチメンタルな気分になってしまい、涙が止まらなくなる。
でも一番端にいる私は誰にも顔を見られないという特権を得ているので大丈夫。