全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「どうだ?」
遺跡寺院の中、調査隊を黄金に変えた魔法装置の広間。
「危険なので入ってこないで下さいね」
「範囲がどこからどこまでかもわかりませんし、直接中を覗ける位置には立たないで下さい」
というジューニャとロビンの助言に従い、広間の入口横から声をかけている。
「やはり古代王国時代のものですね」
「正直高度すぎて私にはちんぷんかんぷんです・・・」
人を黄金に変えるとか、一体何のための装置なんだ?
物質の組成を組み替えるとか?
「不明です。それに近い術式ではありますが・・・少なくとも物質変性を最終目的にした魔法装置ではないですねえ。行程の一部に組み込まれている感じです」
それで? この魔法装置が「黒の災禍」を引き起こしてるのか?
「それなんですけど・・・ここは制御板とシステムの一部であって、あれを巻き起こしているのはまた別の魔法装置みたいです。本体は多分この山の地下深くにあるのではないかと」
なんとまあ。ここから操作出来ないか?
「それには解析の時間が足りませんね・・・」
・・・取りあえずは一度戻るか。
ここまでの話を伝えないといけないし、鉢植え黄金生首軍団をミナのところに届けてやらんとあかん。
「それに狸寝入りの騎士様の事もございます」
なんだよな。
取りあえず調査はここで切り上げだ。
全速で帰還するぞ。
もう魔力を温存するとかそういう事は言ってられず、ジューニャの念動で浮遊して辺境伯の城館を一直線に目指す。
ふもとで待っていた家臣の人を拾い、徹夜で飛び続けて半日。
夜明けの光と共に、俺達は辺境伯の城館に帰還した。
「ミナァ!」
「きゃああああああああああ!?」
俺は扉を乱暴に蹴り開けてミナの寝室に突入・・・はさすがにしない。
そこまでやったら下手すると戦争になる。比喩ではなくガチの。
ので、エフティが扉を破りシルをなだれ込ませる。
シルは男爵令嬢でミナとツーカーの仲だし、エフティも最悪王女だってばらせばどうにかなる、と思う。
ともかく今は「ミナ様の目が覚めるまでお待ち下さい」なんて忠義一徹のメイド長さんに気遣いをしてられる状況じゃないのだ。
「シル!? いったい何が・・・いえ、例の騎士のことですね!?」
「分かってるなら話が早いんだよ。急いで着替えて欲しいんだよ」
「分かりました」
そんなやりとりがあって、ミナは寝間着に上を一枚羽織っただけの姿で寝室から出てきた。
ご無礼申し訳ない。
「それだけのことがあるのでしょう? とにかくお話を伺いますわ」
話が早くてありがたい。
傑物だなこのお嬢さんは。
応接間。出された香草茶に砂糖を馬鹿みたいにぶち込んで一気飲みする。
仮眠三時間の脳みそが少しは活性化した。
それじゃまずはこちらから。
お父上のお付きは全員回収した。生き残った傭兵は例の騎士に攻撃されたそうだ。ジューニャとエフティの「これは嘘をついてる匂いだぜ」センサーで確かめたから間違いない。
例の黒い災禍に関してはまだ不明な事が多いが、あの山の遺跡が関係しているのではないかと思われる。詳しい事は本格的に調査してみないとわからない。
そんなところかな。
一通り説明すると、ミナがふうと溜息をついた。
「なるほど、それは大変でしたわね」
お気になさらず。そちらも同じ位大変だったのはわかります。
「恐縮ですわ。例の騎士――トーマ・マーガセンと申しますが――はカエラ様の危惧された通り、狸寝入りでした。
どうやってか意識不明を装い、夜な夜な父の資料を漁っていたようです」
資料か。俺たちもざっとチェックはしたが、専門家でもなければ時間もなかったからなあ。
遺跡の地図以外にめぼしいものはなかったが、やっぱり何か見落としてたんだろう。
それで、そのトーマは何を?
「皆様が出発した日の深夜――丸一日とちょっと前ですわね――夜回りをしていた執事の一人に見つかり、彼を斬って逐電しました。
幸い一命は取り留めましたが・・・真夜中でしたもので行き先は不明。
馬の足跡は途中で途切れておりましたし」
その馬が使っていた馬房や寝わらはそのままですか?
魔法で匂いを追跡できるかも。
「なるほど。どうかしら、デューサー?」
「マーガセンの居室及び彼の馬の馬房は一通り調べましたが、それ以降は一切手をつけないよう命じております。
私どもに分からない事でもニシカワ卿の家臣の方々であればもしや、と思いまして」
執事さんナイス。
ミナも閉じた扇でパシン、と手の平を打って喜色を露わにする。
「最高! エクツェレント! ジージアダ! エクセレンテ! イクセロン! イクチェレンテ! エクセレント! 良くやったわデューサー!」
「お褒めにあずかり恐悦至極に存じます」
「そう言う事ですので、どうか存分にお調べ下さい」
ありがとうございます。
それで、そのトーマという騎士はどんな男でした?
思い返してみると何か後ろ暗いところがあったとか。
「そうですわね・・・」
扇を広げて口元を隠し、少し考え込むミナ。
「うーん、特にこれと言った印象がありませんわね。
思い出そうとしても何か特筆すべき事があったという記憶が・・・
デューサー、あなたはどう?」
「わたくしも同様でございます。
精勤と言うほどにはマジメではなく、怠惰と言うほどにサボりもせず、美徳の人ではございませんが犯罪者でもありませんでした。
勇猛でも臆病でも、賢明でも愚かでもなく、総じて無難で平凡な、給料の分の働きはする、そう言う男であったかと」
これ褒めてはいないがけなしてもいないな。
多分世間の人間の八割はこんなもんだろうし。
しかしそんな人間が何故?
まあどんな奴でも身を持ち崩すのは一瞬だが。
「他の家臣達にも聞き取りをしてみたのですが、心当たりのあるものは一人もおりませんでした。家族も親しい友人もおりませんで・・・」
厄介だな。
金で転ぶには最適な立場だし、逆に長年潜り込んでいたスパイが目立たないように腐心していたとも思える。
「ただ・・・」
ただ?
「領主様のお気に入りではございました。
あの方が屈託なく話す人間は少のうございますが、その一人だったのは間違いありません」
ふーむ。そうやって領主をそそのかしたのか?
まあ考えていても仕方ない。できる事からやろう。
ジューニャ、エフティ、疲れてるだろうがもう一働き頼む・・・
「!?」
「えっ?」
「なんだありゃ!」
窓ガラスがビリビリと震えた。その場の全員が目を見開く。
その視線の先、地平線の向こうで例の遺跡の方向から光の玉が天に昇っていった。