全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
白い煙を吹き出し、轟音と共に天に昇る光の玉。
唖然とする一同の中で、俺だけが別の事を考えていた。
甦る前世の記憶。
ジューニャ! エフティ!
「はっ、はいっ!」
大声で名前を呼ぶと、全員が我に返る。
急いで馬房の匂いを嗅いで、奴の痕跡を探してくれ! どっちへ行ったかだけでいい!
「わかった!」
それだけを言ってエフティが飛び出していく。ジューニャも後に続いた。
二人の鋭敏な嗅覚がすぐにトーマの逃走方向を割り出す。
「北西だ」
「私もそう思います」
つまり、遺跡の方だな。
「と言うことはまさか・・・」
入れ違いになったって事だろう。
奴がここを出たのは一昨日から昨日に日付が変わった辺り。
魔女の山の魔力がないなら、一昼夜馬を飛ばせばたどり着けない距離じゃない。
俺達のほうはここまで飛んで帰ってきたし、その頃には奴は山の中。
木々に紛れて上空からじゃ気がつかなかったとすればつじつまは合う。
ジューニャ、例の魔力リンクはまだ遺跡の方に向かっているか?
「いえ・・・あの、光の玉の方を向いています」
確定だな。
そう言うとフジが俺を見上げた。顔が僅かに青ざめている。
「どうするのですか? これでは村や辺境伯領を解放することはもう・・・」
諦めるな。まだ終わった訳じゃない。
「何か考えがあるんだよ?」
すがりつくようなシルの視線。
あるさ。まあ、出たとこ勝負だがな。
ミナ。MMR号をまたお借りしてよろしいか。
「存分に」
ミナが力強く頷いた。
山盛り砂糖とホットミルクを一晩の睡眠の代わりにして、再び俺達は飛び立った。
約一名ここぞとばかりにウイスキー一瓶をラッパ飲みする奴もいたが、この際は見逃しておく。
乗っているのは俺、フジ、シル、
それにロビンの昔馴染みの冒険者/傭兵パーティ「嵐」の五人。
給料はあちら持ちでミナが俺達につけてくれたのだ。
あったけぇ・・・最後じゃないけどあったけぇ・・・。
もっとも情だけではない。あちらも領地の半分と叔父一家が行方不明なのだ。
一緒に助けてやらないとな。
「それでどうするんです・・・まあ言われなくてもわかりますけど」
だろうな。
ニヤリと笑うとフジが肩をすくめる。
「まあ、カエラ様の無茶には慣れておりますので」
言うじゃないか。
頭をわしゃわしゃしてやると、迷惑そうな顔はするが何も言わない。
これがツンデレという奴か。
「断じて違います」
「まあフジちゃんじゃなくても分かるんだよ」
そりゃな。
「『黒の災禍』の中心目指して飛んでいれば、誰だってわからぁな」
エフティが肩をすくめた。
「いったい何を考えていらっしゃるのですか? ダンジョン・コアでなにかしようと?」
まあ当然の疑問だな、タチバナ。
それもありえるが、取りあえずは違う。
ともかくもロビン。
「は、はい」
マット村まで一時間ほど。操縦は俺がするからお前は休んでろ。命令だ。
「はぁ・・・わかりました」
高度2500m。
黒い渦の上を飛行する。
上から見るとやはり凄いな。
どこまでも続くように見える黒い巨大な渦。
真っ黒いことを除けば、前世のテレビで見た台風そのものだ。
窓から外を眺めるフジや傭兵たちも、ひたすら圧倒されている。
そしてもうすぐ渦の中心か。タチバナ?
「はい、カエラ様」
隣の席で地図と方位計とにらめっこしていた彼女が頭を上げる。
大体この辺か?
「かと思います。これまでの飛行が東南東やや北、真東から南に19度。
飛行速度と時間から考えますと、このあたりがカエラ様のお屋敷でしょう」
オーケー。
んじゃ降りるぞ。
衝撃が来るかも知れない、全員何かにつかまってろ。
「俺のチ●コに掴まってもいいぞ。何せでかいから頼りがいがあるぜ」
「黙れよポー○ビッツのくせに!」
HAHAHAHA!とアメリカンな感じで下品なジョークを飛ばす傭兵たち。
いやこの世界アメリカないけどね。
「このアホども!」
「「ぐええええ」」
なお下品ジョークを飛ばしたジュカルとジャンゴはエフティにシメられていた。
ソロとアポロが肩をすくめてたが、止めろよ。
想像していた衝撃のようなものもなく、フランケンシュタインにひん曲げられたハッチもジューニャが応急処置していてくれたこともあり、何事もなく俺達は黒雲を突き抜けて懐かしきマット村に降下した。
タチバナの地図読みはさすがの精度で、数百メートルほど前方に領主館がある。
雲の中は夜明け前程度に薄暗く、村のシルエットがうすぼんやりと浮かんで見えた。
「な、なんだ!? ・・・領主様! 領主様だ!」
領主館の前に降りると、門番をしていた兵士たちが兜を振って歓声を上げた。
済まないがひとっ走り村長とケイトーを呼んできてくれ。
「わかりました! ケイトー様は領主館に詰められております。村長については只今」
ああ、頼む。
「おお、カエラ様! ご無事でしたか!」
中に入るとケイトーが目に涙を浮かべて抱きついてきた。
十五年間俺の「じいや」として付き従ってくれてたが、こんなに感情を露わにした彼を見るのは初めてだった。
ともかくも感動の再会は後だ。状況を説明してくれ。
「はっ。ナイ殿とも相談して周囲に傭兵のみなさんを斥候として放ち、状況を調べて頂いております。
戻ってきた方々によると、マット村がほぼ黒い壁の中心と言うことで、更に周囲の村々にもう一度出かけてもらい、ここに周囲の村の主立った者を集めて対策会議を練る予定でした。
何人かは既に到着し、本日全員が揃うことになっております」
さすがだな。仕事が早い。使者はドロシュ辺境伯領にも出したのか?
「無論のことでございます。最初に接触したときはあちらからも協力的な反応が得られたとのことで」
よし。間に合うかどうかは分からないが、取りあえずは今いる代表たちと話しておこう。
うまく行けば、もしくはロビンの作業が長引けば、他の代表とも話をする時間があるかも知れない。
「そちらがお話にあった魔剣鍛冶の方ですか。随分とお若い・・・しかし、この状況で魔剣鍛冶に何をやらせるおつもりで?」
仕事をして貰う。
魔剣鍛冶の仕事は魔道具を作ったり直したりすることだろう?
山のように溜まってる火の魔鉄鉱を使って、MMR号の魔力炉を作り直して貰うのさ。
ちなみに今回のタイムライン。
黒の災禍発生三日前 ミナの父、探索に出発
前日 カエラ一行メットーを出発
一日目 黒の災禍発生 調査隊黄金像化 カエラ一行メットーにとんぼ返り
二日目 夕方、カエラ一行メットー到着 夕方、トーマがミナの父を連れて城館に帰還
三日目 対策会議 カエラ、テーブルを叩き割る
四日目 調査隊出動 テレポートで現地へ
五日目 クサナギで一瞬雲を割る
六日目 ジューニャが魔力リンクを観測
七日目 辺境伯城館でミナと会談 魔女の山麓に到着 深夜、辺境伯城館からトーマが逐電
八日目 遺跡に到着 ソロ達と交戦 帰路につく 深夜、入れ替わりにトーマが遺跡に到着
九日目 早朝、辺境伯城館に帰還 朝八時頃、マット村に到着
>あったけぇ・・・
福本伸行の「最強伝説黒沢」の主人公、黒沢の最後のセリフ。
不幸にまみれた人生の最後の最後で人の情けに包まれた大往生のシーン。
なおここまで綺麗に終わっておいて、続編で全身麻痺(意識はある)のまま隣のベッドのホモセックスを逐一聞かされるハメになった彼の心境やいかに。