全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
MMR号が上昇する。
あの遺跡や地球のロケットと違い、慣性制御だけで浮遊するMMR号は光の筋も残さなければ白炎を後に引くこともない。
ただ空気を切り裂いて上昇していく。
魔力炉の中では火炎武器百個以上に相当する魔鉄鉱が炎と魔力を吹き出し、半永久的に魔力を供給する。
経年劣化と過度の使用で半ば機能停止していた慣性制御システムはパーツの一つ一つが完全に鍛え直され、まっさらの新品。
加えて今は魔力炉から解放されたジューニャが全力でこの船を支えている。
重力から解放されたMMR号はその出力を全て推力に回し、一直線に天へ駆けのぼっていく。
操縦は俺、ナビゲーターはタチバナに代わってジューニャ。
彼女だけに見える白い魔力リンクを辿り、空へ、空へ。
青い空が黒く染まっても更に高く、高く。
ジューニャ、どれくらいで到着すると思う?
「わかりません。線をたぐってはいますが距離となると・・・」
そうだな。ただ、リンクがあるって事はまだ「黒い災禍」が継続してると言うことだ。
「はい」
であるなら、潰さなくちゃならん。
あれが何のためのものかはまだわからないが、ろくなものじゃないのは確実だ。
しかし・・・
「なんです?」
ジューニャが首をかしげる。
半日ほどぶっ続けで改修作業をしていたのだ。
実際ロビンやエフティは船室で仮眠している。
出来ればジューニャにも休んで欲しいところだが・・・
「あ、私は平気ですよ。魔力出してるだけでしたし・・・え、ちょっと?」
ジューニャのおでこに手を当て、軽く波動を流して戻ってくる波でこいつの体調を計る。
こいつマジで疲労も消耗もしてやがらねえ。
「ですから、道案内くらいは問題ありませんよ。ワインかウィスキーがあればもっといいんですが」
溜息をついてから苦笑する。
これが終わったらウィスキー一瓶くれてやるからそれまで頑張れ。
「本当ですか?! 不詳ジューニャがんばっちゃいます!」
安い奴だが頼もしい。安い奴だが。
すっかり暗くなった空、いや宇宙空間をMMR号は行く。
恐らく厳密にはまだ大気圏内なのだろうが、周囲はもう星の海。
感覚としては宇宙空間と変わりない。
そして眼下には壮大な景色が広がっていた。
「うわあ・・・」
「凄いんだよ・・・」
「サイモックって青いんですねえ・・・」
上からフジ、シル、ジューニャ。
地球は青かった、だな。
この世界、サイモックと言う名の惑星が眼下にある。
茶色と緑の大地、青い海、白い雲。
地平線と水平線がゆったりしたカーブを描いている。
思わず溜息が出た。
「昔読んだ本で地面は丸いとありましたし、一族の口伝でもそうありましたが・・・実際に見てみると凄いですね」
タチバナでさえ驚きを隠せていない。
だろうな。俺もこの目で見たのは初めてだ。
物の本によると、最初の創造の八神が作った世界は平べったく、巨龍の体から生み出した八つの島しかなかった。
彼等が旅だった時に世界を作り直し、この巨大なマルガム大陸が生まれたのだとか。
とは言え感嘆ばかりしてる訳にも行かない。
そもそもこれ、宇宙に出て大丈夫なんだろうな・・・?
ロビンとジューニャからは「空気のないところでも大丈夫そうです」と頼りないお墨付きを頂いてはいるが。
まあそこは考えるまい。
メーターに古代文字で「酸素濃度」みたいなのが書いてあるのもあるし、多分大丈夫だと思う、思いたい、うん。
「それにしても凄いですね」
「・・・あ、あれ! あそこメットーじゃないかなんだよ?」
「あ、確かに。多分そうですね!」
まあ、盛上がってるあいつらはそっとしておこう。
気がつくと、いつの間にかロビンが起き出してきていた。
どうだ、凄い景色だろう。
「・・・」
どうした、ロビン?
「いえ、あれこれありすぎて何が何やら・・・辺境伯様のところから工房に手紙を書いておけば良かったなって・・・」
なに、帰ったらいくらでも書けるさ。紙とペンくらいは融通してやる。帳簿もつけて貰わないといけないしな。
そんな事を言うと、ロビンがうかない顔でうつむいた。どうした?
「その・・・私、字を書くのは苦手なんです・・・」
あー・・・。
この世界、日本人の影響で寺子屋なんかもそれなりにあるが、それでも識字率100%とは中々いかない。
自分の名前しか書けないって人もそれなりにいる。
そう言う事ならうちの村の寺子屋に通えばいいさ。教師は若い女ばかりだから気軽に学べる。
何なら俺が教えてやってもいいぞ。
「・・・」
そう言うとまたロビンが沈黙した。
なんだ?
「その・・・教師は若い女性ばかりなんですか?」
まあ色々あってな。
「じゃあ、全部領主様のお手つきなんですか?」
思わずお茶吹いた。いや飲んでないけど。
ねーよ! ジローじゃあるまいし50人も口説いてられるか!
「だ、だって実際まわりに綺麗な人達ばかりいるし!」
事情があるの! 軽々しく口に出来ないようなのが!
「でも貴族の人は個人授業って言って女性にそういうことしてくるって・・・」
そりゃ市井に出回ってる
ともかく俺はそう言う事はしない!
「まあ・・・」
「大体・・・」
「自業自得ですね」
うるせーよお前ら!
タチバナも意味ありげにニコニコするな! 心に来る!
「まあその辺は冗談として、大丈夫ですよロビンさま。カエラ様はおもてにはなりますが、実際に手は出せないタチですから」
「そうそう。ロビンちゃんはカエラちゃんの射程外なんだよ」
「そうですよ。カエラ君は趣味が特殊ですから」
間違っちゃいないが、言い方ぁ!
しばらくしてそんなあれこれも落ち着いた頃。
メーターが前方に巨大な魔力反応を感知した。
ジューニャ!
「・・・はい! 多分アレです!」
フジ! エフティを起こしてこい!
「はい!」
視界の遥か先、僅かに魔力光をきらめかせるシルエットが確かに見えた。