全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
エフティ達が身支度を整えて操縦室に出てきた頃には、シルエットはいくらか大きくなっていた。
一見すると巨大な岩の固まりだが、ところどころ金属の地肌が露出してる。
SFものに出てくる天然の衛星を利用した資源衛星とか宇宙要塞とかそんな感じ。
大雑把な直方体をしていて、縦に長い。
まあ長い方を直上Z軸に向けていると言うだけであって、実際どっちが上でどっちが前なのかはわからないが。
タチバナ、どこかに入れそうな部分はないか?
「そうですね・・・少々お待ちください」
そう言って両手の親指と人差し指で環を作り、望遠鏡のように覗き込む。
実際あの環は望遠鏡なのだ。
光の術の達人であるタチバナは光を屈折させたり反射させたり収束させたりすることも自由に出来る。
光の屈折と収束、つまりレンズだ。
一度覗かせて貰ったことがあるが、これの《
本人の元々の視覚の鋭さもあって、これに関してはエルフのジューニャや、野獣の感覚を持つエフティも一歩を譲る。
「・・・ありました。左側に入れそうな門があります。開けるかどうかは分かりませんが・・・」
よし。取りあえずそこに近づこう。
タチバナ、この船全体と俺に《
ジューニャ、同じくこの船全体と俺に《
ロビン、これから慣性エンジンを切って慣性航行に入る。やばいと思ったらお前の判断で再始動しろ。
「ええ!?」
「危険なんだよ!」
シルの心話をかけてもらって行く。
万が一の時はジューニャの《念動》で引き戻してくれ。
多分俺じゃないとあれは開けない。
開けなかったら、船の《
そら、急げ。時間がないぞ。
そんな事を言うとタチバナとジューニャが顔を見合わせて苦笑した。
「・・・まったくカエラ様は。子供の頃から、こうと決めたら譲りませんね」
「全くですよ。私の時なんてもう」
「あーわかるわかる。こいつめんどくさいよな」
悪いな、性分なんだ。
便乗してうんうん頷くエフティをこつんとこづくと、俺はエンジンを停止させた。
可能な限り魔力を抑え、慣性航行で遺跡に近づく。
向こうにもあるであろう探知網を逃れるためだ。
もう察知されてるかも知れないが、あちらも使い方のよくわからない遺跡を手探りで使っている状態のはず。まだ気付いてないことに賭けるしかない。
重力も切って、ふわりふわりと浮き始める艦内。
手足の短いシルなどはうっかり手を離してしまい、くるくる回って悲鳴を上げている。
「わ、わわわ! 何? 何なんだよこれ!?」
無重力という奴だ。
何かあったらジューニャの念動で抑えて貰え。鉤縄をひっかけて引っ張ったりするのも有効だな。
それとフジ。畳を投げれば反動で体が逆に移動するはずだから覚えておけ。
この高さだともう空気もないから、羽ばたきで移動することは出来ない。エフティは気を付けろ。カメレオンみたいに舌を出すのはありかもしれないな。
「いいから助けて欲しいんだよカエラちゃん!?」
しょうがないな、ほれ。
俺は手を伸ばして引き寄せてやる。
それはともかくシルとロビンは誰かにひっついてろ。出来ればジューニャだ。
フジが畳を出して、それを念動で固定、それを蹴ればある程度は自由に移動出来るかな。
そんな注意をしてると、いよいよ遺跡が近づいて来た。
フジがふと口にする。
「しかし『遺跡』だと色々紛らわしいですね。資料の中に何かそれらしい名称はなかったのですか?」
特にはなかったな。
そうだな、「魔女の山」にあったんだから「
「魔女のお菓子の家だね。いいんじゃないかなんだよ」
「あんま食ってもうまそうじゃないけどな」
「甘いものもいいですけどナッツとかのほうが好きですねえ」
女どもの会話につい頬が緩む。いつでもどこでも、女は甘いものに目がない。
地上に戻ったらメットーで「メナディ」のビスケット買い漁って、村で配ってやるか。
そんな事を考えていたら、ジューニャが俺の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか? 私もついていった方がいいと思うんですが」
その心遣いだけ貰っておくよ。
何らかの防御機構があった場合、俺だけの方が身軽でいい。
今確かめてみたが、《波の加護》で魔力を波として発すると僅かながら推進力が生じる。
ごくごく弱い波動陣のイメージだな。
あれほど大規模なものはシルの《
弱いものであれば普段でも出来るようになっていた。推進力としては心許ないが、姿勢制御には十分使えるだろう。
「分かりました。カエラ君の《加護》もくっついたりはできると思いますが、フォノン・メーザー斬りは出来ないでしょうから気を付けてくださいね」
わかってる。
あれは振動を伝える大気があってのことだからな。
大気の濃度が1/100もないこの高度じゃそもそも発動しない。
そんな話をしている間にますます「魔女の家」は近づいて来ていた。
よし、少しずつ減速だ。
近くに行ったところで俺がエアロックから出て乗り移る。
お前達はそのまま慣性航行で魔女の家から離れ、ゲート・・・門が開いたら反転して突っ込め。多少壊れても構わん。
操縦はロビン、全体指揮はエフティに任せる。
シルは心話、タチバナは透明化の維持。
ジューニャも魔法の維持と、何かあったらフォローを頼む。いいな?
全員が頷くのを確認して、俺はエアロックに身を躍らせた。
暗い宇宙の中、岩の固まりがゆっくり近づいてくる。
地上ではないからわかりづらいが、直方体の遺跡は長い方で1km近くある。
小さく見える例のゲートも多分100mかそこらはあるだろう。
ゆっくり近づいてくる様に見えるが、実際には時速百キロメートルとかそんな速度。
俺の身体能力でも飛び移れるかどうかはギリギリだが、これ以上慣性制御で魔力を使うと向こうにばれる可能性も跳ね上がるだろう。
周囲にはジューニャの《鎧》呪文の防護フィールドがあり、空気を体の周囲にとどめてくれている。十数分なら持つだろう。
いよいよ「
3,2,1・・・今だ!
一瞬の判断。
全力のバネ足ジャンプで「魔女の家」に跳躍。
・・・少し目測を誤った! ゲートの手前の岩に向かって直進。
反転して着地。
今度は両足から「くっつく」ファンデルワールス力の波動を流す。これで・・・
岩が砕けた!
俺の勢いを殺しきれず、両足で「掴んだ」岩盤が剥離したのだ。
反動で魔女の家から体が離れる。くるくる回りながらゲートの前を通過していく。
反射的に魔力を放出するが、勢いが強すぎる。
弱波動の推進力では通り過ぎてしまう・・・ええい、ままよ!
俺は弱波動でともかくも体の回転を止め、クサナギを抜き、自分の体に突き刺した。
>ヘクセンハイム
ヘンゼルとグレーテルの魔女のお菓子の家。
お菓子をモチーフにした仮面ライダー、ガヴの劇場版限定フォームの名前でもある。
「ヘクセンハウス」も同じ意味だが、こちらはヘクセンハイムを模した家形お菓子を指す事が多い。
主にジンジャーブレッド(しょうがパン)を使って作るそうな。