全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「ロビン?!」
「嘘だろ、おい」
ソロとアポロが呆然と扉の方を振り向く。
視線の先には両手の手の平をこちらに向けるロビン。
ギチギチギチッ!
「うわっ!」
「とっ!?」
それでも機械カマキリの鎌をかろうじて避ける。二人とも素っ裸だが、ジューニャの《鎧》は維持されてるから防御力ゼロではない。
俺もそうだ。着ていた鎖かたびらや短剣なども地面に落ち、握っていた西川正宗すら刀身と柄とその他の部品がバラバラになって使い物にならない。
「お、俺の雷光銃がぁぁぁぁぁ!?」
ジャンゴの悲鳴が上がる。日本刀と違って柄まで一体成型のエフティとソロの剣、アポロのブラスナックル以外は全員武器も失って徒手空拳だ。
オークション会場で俺を巻き込んで放った《露出の加護》が、俺の服を布地ごと引き裂いたのではなく、縫い目を全てほどいてバラバラにしたのを見るに、これは物品を破壊するものではなく、あくまで継ぎ目や縫い目をバラして「解体」するものなのだろう。
だから継ぎ目のない一つの固まりである西洋剣やブラスナックルなどはバラせなかった。生き物も多分そうだとは思うが、筋肉や皮膚の継ぎ目を綺麗にバラされたらやばいかも知れない。
ともかく範囲内で無事なのは魔封じの盾を構えていたラダッソ9973と、自前の馬鹿魔力で耐えたジューニャのみ。
俺達を左右から囲む機械カマキリは範囲外だったらしく、全く影響がないのがむかつく。
俺は腰に差していたクサナギを床に落ちる前にキャッチ。こちらも柄まで一体成型ゆえに、《露出の加護》の影響は受けていない。
ほとんど同時にラダッソの斬り下ろしが来た。
体を開いてかわしながら後ろに目をやる。
ロビンが掲げていた手をゆっくりと下ろし、こちらを冷たい目で見ていた。
目の色が変わっているとか、髪が黒く染まっているとかそう言う事は無いが、顔付きがまるで別人だ。
ラダッソ。あいつに何をしやがった!
クサナギで斬りつけると同時に、盾に体当たり。ラダッソは体勢を崩して二歩後退。
「私にも分からない。ただ、彼女からは私と近しい匂いがするな。
何かあるのだろうよ――君達も私も知らないようなことが」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
私はロビン。ただのロビン。
マクリーン傭兵隊の娼婦の娘で、ガニア親方の徒弟。
三つの時に母が死んだ後は傭兵隊のみんなに育てて貰った。
でもそれはうそ。
かなり早い内から私は自分が拾われっ子だったのを知っていた。
私の前でそれを言うような心ない人はいなかったが、人間は子供だと思うと油断する。
そして私は並外れた聴覚と知能、そして記憶力を持っていた。
ぽろっと漏らした言葉、小声で話される会話。
それらをつなぎ合わせれば真実にたどり着くのは容易だった。
どうやら私は行軍中、森の中から這い出てきたらしい。
それも人家などない、魔獣の住む未開の森の奥から。
不気味がる人達もいたらしいが、恐らく近くの村から口減らしに捨てられたのだろうと言うことになった。
当時少なくとも100km以内に人の住む村はなかったのだが。
ともかく、私はそこで母に拾われた。
実の子供を亡くしたばかりの母にとっては、その子の生まれ変わりのように思えたのだろう。
そうして私は母の娘になった。
余り覚えてはいないが、いい母だったと思う。
生まれだけではない。自分がおかしいことには割と早い内から気付いていた。
病気一つしたこともなく、痛んだ食材を食べてみんなが腹を下したときも、一人だけピンピンしていた。
6歳くらいのときには大人でも辛い道行きを平然とこなせるようになっていた。
馬車や馬上ではなく、徒歩でだ。
大人並みの力があり、犬と同じ位早く走れた。
誰よりも目が鋭く、隊付きの僧侶様が教えてくれる色々な知識も一度聞いただけで覚えた。
ただ、字を書くのだけは苦手だった。
文字を書き取りしようとすると、何故か別の文字になってしまうのだ。
手が勝手に動くというか、教わった字とは別の字を自然に書いてしまう。
見えない溝があって、それに添って筆が動くような感じ。
いっぺん、無理に矯正しないで自然に動くように書いてみなさいと言われたが、書き上がった文章を見た僧侶様はとても怖い顔をしていた。
「いいかい、もう人前でこの文字を書いてはいけないよ。理由を聞いてはいけない。とにかく誰にも言うんじゃない。いいね」
普段優しい僧侶様のその顔に、私は何も言えずに頷くしかなかった。
僧侶様は他にも色々と教えてくれた。
お前は人並み外れた力を持っているが、必要な時が来るまではそれを隠しておくこと。
大いなる力は時として大いなる災いを招くからね・・・というのが僧侶様の言葉だった。
傭兵団の中ではもうみんな知っているから、それほど自重しなくてもいいと僧侶様は言ってくれたが、その教えを実行する機会は思いがけなく早く訪れた。
とある戦場で大規模な魔法に巻き込まれて、傭兵団の大半の人間が死んでしまったからだ。
生き残ったのはソロ達五人と私だけ。
僧侶様も娼婦のおばさんもおねえさんたちも、弟みたいに思っていた男の子も死んでしまった。
私は五人と一緒に行きたがったが、これを機に普通の生活になじむべきだ、少なくとも大人になるまでは、というのでソロの古い友達だったガニア親方に預けられた。
工房での暮らしは驚くほどに楽しかった。
最初こそ普通の女の子として育てられていたが、すぐに鍛冶の手伝いをするようになり、あっという間に兄弟子たちを抜き去った。
素材から魔力を引き出して特定の形に成形するのは、コツを掴むのに人によっては十年以上かかるらしいが、私はそれを三ヶ月で会得した。
・・・正直「やっちゃった」という感があったのは否定しない。
僧侶様に口を酸っぱくして注意されたけど、それをあっさり破ってしまった。
ただしょうがなかったのだ。何かを作るというのがとても楽しかったから。
「その『楽しい』ってのが何よりの素質なんだぜ、ロビン」
親方はそう言って頭を撫でてくれた。
やがては私も親方として独り立ちするのだろうとぼんやりと思っていたが、その日はこれまた思った以上に早く訪れた。
理由は工房の放漫経営である。
ガニア親方は職人らしく、いい仕事が出来れば採算を度外視するところがあった。
その辺は兄弟子たちも余り変わらない。
帳簿を見せて貰おうと思ったが、その帳簿すらつけていなかったのだから本気でめまいがする。
多分、ミナさまにもこの気持ちは分かって貰えるだろう。
とは言え私にとっては大切な父親で師匠だ。僧侶様には計算も習っていたから、工房を建て直すためには何でもやろうと思ったのだが・・・はっきり言って手遅れだった。
そこを救ってくれたのがロウさんで、私は最初噂の「好色伯」に身売りをしてでもと言うつもりだったが、何だかんだ領主様はいい人で、想像していたような事態にはならずに済んだ。
その後は急展開の連続。
スパイに間違われてさらわれたり、オークション会場で襲われたり、芝居を打ったり。
新しい家に向かおうとしたら黒い渦があって、隣の国まで出かけて、古代の遺跡に入ってソロさんたちと再会して。
今はこうして空の果てにまで来て、涙滴型機動艇の中でお留守番。
領主様とソロさんたち大丈夫かな。
!
通信機器が点滅している。
ええと、これは・・・こうだったかな。
多分地上の、ミナ様のところに残してきた通信端末からの・・・回線開いた!
モニターに映るのは赤紫の髪の、綺麗な女の人。
誰? 見覚えがない。
「あの、どなたですか?」
そう言うと彼女はにっこり笑って、何やら魔道具らしきものを取りだした。
これって、最初に誘拐されたときにピカってやられた・・・
ぴかっ。
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はい。ご命令のままに。
ラダッソ■■■■、任務を遂行します。