全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第十一話 同調

 むう・・・

 

「・・・」

 

 門から少し離れた城壁の近く。

 目を閉じて精神を集中する。

 世界に満ちる《波》が見える。

 《波の加護》が与えてくれる波動の感知能力。

 音波や電波に限らず、何らかの波であれば何でもだ。

 そしてそれには魔力も含まれる。魔力もまた波だからだ。

 そしてその《波》の視覚に、結界は独自の波長を持つ光の壁として感じられる。

 ・・・これならいけそうだな。

 フジ、タチバナ、俺の手を握ってくれ。

 

「? はい、わかりました」

 

 後ろ手に伸ばした手を二人が握る。もう片方の手は結界に。

 

「・・・」

「・・・」

 

 後ろの二人が緊張するのが分かった。

 失敗したらすぐ逃げるからそのつもりで。

 

「了解です」

 

 結界に軽く触れる。

 触れただけではまだ発動はしないらしい。

 触れた手から伝わる結界の魔力の波動。

 集中しろ。波動を解析し、同化しろ。

 

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 息詰まる数瞬。

 無限の鍵穴に無数の鍵を、とっかえひっかえ差し込み続ける。

 やがて唐突に感じる抵抗の消失。

 波が一致する。鍵が鍵穴にはまった。

 

 するり、と手が抜ける。

 警報は鳴らない。

 二人の手を引いて、そのまま進む。

 全員の体が結界を通り抜けると、同時に三つの溜息が漏れた。

 

 

 

 結界の中に入り、手を離す。

 

「それでは少々お待ち下さい」

 

 タチバナが鉤縄を取り出すのをよそに、俺は壁に手を当てる。

 ぺたり。

 続いて足を。

 またぺたり。

 壁にくっついた右手と左足を手掛かりに体を持ち上げ、左手と右足をまたぺたり。

 それを繰り返して、ヤモリのようにスルスルと壁を昇っていく。

 

「・・・そう言えば若様にはこう言う芸もおありでしたね」

「母様、鉤縄鉤縄」

 

 理屈はよくわからんが、手足の先から波動を流すと、物体にくっついたり弾いたり出来るのだ。

 多分ファンデルワールス力とかそう言うの。ヤモリが壁に張り付くやつ。

 タチバナの鉤縄が壁のてっぺんに引っかかり、二人が釈然としない顔で壁を昇ってきた。

 

 壁を乗り越えたところで改めて確認する。

 タチバナ、この透明化いつまでもつ?

 

「そうですね・・・このままなら二時間。もう少しくっついて下されば三十分ほどは伸ばせるかと」

 

 よし、じゃあそれで頼む。どれだけ必要になるかわからないからな。

 

「かしこまりました」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 なあ、ちょっとくっつきすぎじゃないか?

 

「あら、範囲を狭くとおっしゃられたでしょう?

 ギリギリまで狭めてますからしょうがありませんわ」

 

 いやその、体が密着して・・・抱きつかないでもいいんじゃないか?

 何と言うか体の曲線が・・・最近タチバナとはご無沙汰だったし・・・

 

「それではこの後お情けを頂けたらと。わたくしも寂しゅうございましたわ」

 

 あ、耳元にタチバナの吐息が・・・

 

「母様! それくらいにしてください!」

 

 娘が小声で怒ると、母親はクスクス笑いながら身体を離した。

 

「あらこわい。それじゃそろそろマジメにやりましょうか。

 若様?」

 

 ああ。今から集中するから二人とも周囲の警戒は頼む。

 

「お任せください」

「心得ました」

 

 二人の返事を聞きながら、俺は改めて集中する。

 先ほど結界に同化して通り抜けたときと同じ、《波》の感覚。

 世界がワイヤーフレームのようになり、そこを行き交う無数の波を感じる。

 

 先ほど魔力は波だと言った。

 同様に生命力もまた波だ。

 この二つの波は、俺にはよく似たものに感じられる。

 以前伯爵家に逗留してたエルフの術師によれば「生命もまた強力な魔法」だそうで、そういう風に感じるのはむしろ自然なことらしい。

 閑話休題(それはさておき)

 

 重要なのはこのモードに入ると他人の生命力の波動をより精細に感じられること。

 ネズミなどの小動物なら15m、通常の人間であれば30mはいける。

 しかもこれは個体識別ができる距離であって、存在自体を感知するだけならその更に倍。

 

「どうでしょう?」

 

 60m以内に動き回っている人間はいない。

 正面扉も開けて大丈夫だろう。

 

「わかりました」

 

 タチバナが大きな扉に取り付き素早く解錠すると、俺達は中に滑り込んだ。

 

 

 

 この周囲に人はいないな。応接間とか事務室か?

 

「恐らくは。奥へ向かいましょう」

 

 もう一つの視覚に集中してる俺には周囲の状況が大雑把にしか分からない。

 どのみち夜目の効くタチバナ親子に任せた方が安心だ。

 

「カエラ様、全然足音がしませんね。ひょっとして忍び足の修行を?」

 

 いや、《波の加護》で足音を消しているだけだ。音だって波だからな。

 

「よくわかりませんが、カエラ様がおかしいことだけはわかりました」

 

 失礼な奴だ。

 それはともかく元が城塞だけに敷地はかなり大きく、差し渡しが200mくらい。

 すげーな、千人、詰め込めば二千人は入るぞ。

 まあそれはさておき集中だ。

 

 さしわたし200mとはいえ、俺の波動感知の範囲は60m。

 見回りとおぼしき生命反応を避けても、捜索は難しくなかった。

 正面玄関から入って左奥。昔の兵舎とおぼしき場所に多くの反応があり、接近してその中にシルの反応を見つけた。この間15分。

 

「本当に便利な《加護》ですわね・・・」

 

 呆れたようなタチバナの声。まあスパイとしては喉から手が出るほど欲しい能力だろうな。

 探知系の術師でもここまで出来る奴はそういないらしいから尚更だ。

 

「これだけ出来て、カエラ様が追放されたのが未だに納得出来ません。

 御当主様ももう少し評価すべきだったと思います!」

 

 どうどう。

 まああのジジイは頑固一徹の古武士だからな。

 《剣の加護》じゃなかった時点でどれだけ強かろうと論外だろうよ。

 

「うー・・・」

 

 それでも不満なのか、口を尖らせるフジの頭を苦笑しながらタチバナが撫でていた。

 それより問題は見回りの連中だよ。

 今まで感知した限りでも十人、それも最低でも剣士級(第三級)秘印級(第二級)に達してる連中も何人かいる。

 多分一対一ならタチバナでも厳しい。フジや俺なら大丈夫だろうが、十対三だと普通に負けかねないぞ。

 

「そこまでですか!?」

「・・・こう申し上げては何ですが、貴族の子女を押し込めるだけの場所に、それだけの警護が必要なのでしょうか?」

 

 それな。

 預け主からいくら貰ってるか知らんが、秘印級ともなれば誇張抜きで一騎当千の戦力だ。

 今わかってるだけでも、一般兵数千に匹敵する。

 当然、給金もバカ高い。それを雇えるくらいの金が、どこから出てるんだ・・・?

 疑問を抱きつつ、俺達はシルの寝ているだろう部屋の扉を開けた。

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