全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三十五話 忘れもの

 トーマ・マーガセンは自室で目を覚ました。

 寝起きのぼんやりした頭で違和感を感じる。

 しばらくしてその理由に気付いた。

 平騎士としては珍しく、壁一面の本に囲まれた自室。

 本の配置が自分の記憶と違っている。買ったおぼえのない本がある。

 それから窓から入る日射しで、今が夕方であることに気付く。

 朝ではない? 昼寝でもしていたのか・・・?

 ノックの音。

 

「はいどうぞ」

 

 反射的に返事をしてから、まだベッドの上だったことに気付いて慌てて靴を履く。

 

「失礼。お休みだったか」

「いえ、今起きるところでしたから・・・」

 

 入ってきたのは若い男だった。成人したばかりの、少年と言ってもいい年齢だ。

 一目で業物と分かるカタナと脇差しのサムライスタイル。魔法のものらしい軽鎧。

 どれも明らかにその辺の木っ端騎士が持てるようなものではない。

 

(やばい、どこかの貴族の若様だ。それも結構上の方)

 

 思わず背筋が伸びた。

 少年が苦笑して座るように手振りで示す。

 トーマがおっかなびっくりベッドに座ると、相手も書見机の椅子を引きだして腰掛けた。

 

「俺はカエラ・ニシカワ。フルネームは長いからそれで覚えてくれ。

 トーマ・マーガセンだな?」

「は、はい」

 

 思わず声が震えてしまい、少年――カエラがまた苦笑する。

 しかしニシカワ・・・? 冒険者族っぽい名前だが・・・

 

「あ、ひょっとして『白のサムライ』の係累のお方で!?」

「分家だけどな」

 

 おお、と思わず声が漏れる。

 彼もご多分に漏れず英雄譚は好きな方で、本棚には初代と三代目の白のサムライに関する書籍もあった。

 

「それで、分家の若様が何の御用でしょう」

「かしこまらないでくれ。今は一介の平騎士だからな。

 ところで君は数年間寝ていたんだが、記憶はあるか? 体調におかしなところは?」

「・・・マジですか?」

「マジマジ」

 

 うむうむ、と頷くカエラ。

 記憶はないです、体調は異常ないと思いますと答えると、カエラはもう一度頷いた。

 

「少し長くなるが・・・」

 

 と、話し始めた内容はかなり突飛なものだった。

 かの魔神崇拝に関わる秘密組織が自分に霊を憑依させ、辺境伯をそそのかして遺跡を起動させ、辺境伯領の東半分とディテクの広い範囲を巻き込んだ魔力の渦を発生させ、範囲内のものを全て破滅させようとしたと。

 

「はあ。まるで英雄譚みたいな話ですね。・・・ええとその。

 これひょっとしてニコロデとディテクの戦争になったりしません?」

 

 その可能性に気付いたトーマが固まる。

 冷や汗を流し始めた彼に、カエラが苦笑して手を振った。

 

「その可能性はあったがな。もう遺跡は吹っ飛んで、魔力の渦も消えた。

 中の人間や家畜は無事だったし、作物も刈り取り後だったから、ダメージはまず最小限で済んだと言っていい」

「で、ですか・・・」

 

 ホッとした反面、疑問も浮かんでくる。

 本人はただの平騎士と言ってるが、マット村の領主でこんな剣や鎧を持っているのだから、どう考えても「ただの」ではない。

 そんな人間がわざわざ説明のためだけに自分の所に来るものだろうか?

 トーマの表情からそれを読み取ったらしく、カエラが笑みを浮かべた。

 

「まあ、今回はちょっと別件で用事があってな。手を出してくれ」

「?」

 

 出した手の上に置かれたのは正二十面体の綺麗なクリスタル。

 中には赤黒いモヤのようなものがたゆたっている。

 

「これは・・・?」

「お前を案じる人間から渡されたものだ。

 伝言を預かっている。

 『人生を無駄にしていたら勿体ないぞ』と」

「・・・」

 

 見覚えのないそれが何故か懐かしくて。悲しくて。

 ぽとり、と一粒涙が落ちた。

 

 

 

(やっぱりあんた、わざと俺を見逃したな?)

(ラダッソにだって心はあるのさ。与えられた命令には反してないよ?)

 

 拘束され、意識を取り戻した「彼」はそう言った。

 この体を元の持ち主に返して欲しいと。

 それについては何も言わなかったが、多分あいつはロビンを助けたかったんだろう。

 鍛冶がしたいって泣いてたロビンを。

 自分の人生がない奴には、それがとても尊くてまぶしいものに見えたのだ。

 奴が封じられたクリスタルと伝言はトーマに渡してきた。

 万が一封印から解き放たれたとしても、もうトーマに取り憑くことはないだろう。

 多少ロマンチシズムが過ぎるかもしれないがな。

 

 

 

 あの後俺達はマット村に降りて解決を伝えた後、カピラ・ダンジョンに飛んで調査隊にもこれを伝えた上で《魔力接続(パワーリンク)》の魔道具を借りだした。

 更にメットーに飛んで内務大臣(ジョンおじさん)のコネを使って魔法神(アートシム)の高位司祭を連れ出す。

 そこからドロシュの辺境伯城館にとんぼ返り。

 ジューニャの補助があるとは言え、日本列島往復するくらいの距離を半日で移動するパーフェクトMMR号パネェ。

 

 そして高位司祭の解呪魔法を《魔力接続(パワーリンク)》の魔道具とジューニャの馬鹿魔力でブーストし、ミナの父親たちは無事元に戻った。

 何だかんだ憎まれ口を叩いていたミナも、この時ばかりは泣いて父親に抱きつき、辺境伯も優しい目でミナの頭を撫でていた。

 いきさつを聞いて即「魔女の家」の跡地を調査しに行こう!と言い出して、ミナの延髄斬りを食らっていたのは見なかったことにする。

 

 なお話し合いの末、MMR号は譲渡して貰えることになった。

 まあ修理に使った魔鉄鉱と魔力結晶とその他のドロップアイテムの価格合わせると、軽く購入金額越えるからな・・・辺境伯たちを助けたお礼を兼ねてというところだ。

 

「いやでも、あれがあると調査に凄く便利なんだよミナ。どうにかこちらで使わせてほしいものだが・・・」

「何を言ってらっしゃるんですか?

 御父様たちが助かったのは一から十までカエラ卿のおかげなんですのよ!?

 それ位の誠意を見せずしてどうするんです!」

「それはまあそうなんだが・・・」

 

 というかこれあれだな、オヤジさんがまた変な所に突っ込んでいかないよう、オモチャを取り上げておきたいんだな。

 14にして中々苦労してる娘さんである。

 まあ俺も人のことは言えないが。

 

 ちなみにニコロデは大陸二大国の一角であるディテクの1/20にもならないくらいの小さな国で、当然高位の魔法を操る人材とかも少ない。

 特に黄金像になった人間を解呪できるような人材は、メットーに行かないといないそうな。

 加えてその高位司祭さんもジューニャの馬鹿魔力によるブーストがなければ恐らく解呪は無理だったと明言してらっしゃるので、まったくもってミナの言葉は正しい。

 

 結局非常時には辺境伯側も使わせて貰うこと(つまり父親の道楽には使わせない)、MMR号の内部にあった通信装置を一機辺境伯側に残すこと、月に一度ミナをこちらの夕食に招くこと・・・などの条件をつけた上で譲渡が決定した。

 と言うか最後のは・・・まああれだよな。ちなみにミナには弟がいるそうである。

 嫁に行っても安心だね!

 まあ深くは考えんとこう。なるようになる。

 溜息をついて、取りあえず俺は無事戻ってきた日常を喜ぶことにした。




>分家
現状カエラ君はニシカワ伯爵家から独立して新たに家を立てた扱いなので、正式には分家です。
とは言え別に本家に従う法的義務はありません。
普通なら義務はなくても義理があるんですけど、ほら、カエラくんと本家の関係って・・・
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