全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第三話 ディアスポラ

 大陸双璧の一つ、ディテクの都メットーは四十万もの人口を有する超巨大都市である。

 かつて大陸一を謳われた東西2km、南北3kmの城壁からは既に人が溢れ、城壁内部と同じくらいの人口が城壁外に住んでいる。

 その城壁外の街区でも有数の広さを持つのが獣人たちの住む、通称「獣人街」。

 市街の南西の端に位置し、周囲は1km×1kmほど。粗末な木造の家が建ち並ぶ町並みは高い木の柵に囲まれ、獣人の戦士達が周辺をパトロールしていた。

 王都の人間たちからどういう扱いを受けているのか、薄々察せられるなあ。

 ちなみに縦横1km、人口一万人って、普通ならそれだけで大都市クラスだ、この世界では。

 

「こんにちはー」

「あ、ロウの旦那」

「お疲れッス」

 

 ロウが門番の獣人たちと気さくに挨拶を交わしている。

 シルよりでかい大斧をかついだ牛獣人(顔は人間で牛の角が生えている)と、ライオンの頭に鉤爪をむき出しにした獅子獣人。

 良く見ると顔立ちはギリギリ人間の範疇で、いわゆる獅子鼻とたてがみのような髪ヒゲがそう見えるだけなのだが、ぱっと見はライオンにしか見えん。

 獣人にも色々あるってことだな。

 

「ここでアーザックさんと待ち合わせしてるんですが見ませんでしたか?」

「アーザック? いや、見てないっスね」

「あいつ割と時間にゃうるせーんだけどな。また姉貴のアレコレに巻き込まれたかね」

「あいつが遅れるならそれしかねーだろ」

 

 ハハハ、と笑う獣人二人。

 派閥があるって聞いてたが、種類が違っても仲いい奴はいいんだな。

 その言葉が聞こえたらしく、二人が肩をすくめた。

 

「まあ角突き合わせてる奴らもいるけどな。文字通り」

「むしろそっちの方が多いんじゃねえか?」

 

 周囲を見回っていた連中もそうだが、こいつらは獣人の自警団。

 自警団は各氏族から一定数の人員拠出が義務づけられていて当然氏族混成になるのだが、当代の団長が傑物で自警団内部は割と一枚岩とのこと。

 

「ではあるんだけどなあ」

「俺の氏族とこいつの氏族がもめ事を起こして、さあどっちに味方するんだ、なんて事言われると辛いんだよなあ」

「だよなー」

 

 溜息をつく獅子獣人とうんうん頷く牛獣人。

 

「と言うかそっちの姉ちゃんもひょっとして獣人か?」

「あ、それ飾りじゃなくて自前か!」

「なんだけどな。正直自分でもわかんねえんだよ。何せガキの頃に傭兵団に拾われて育ったからな」

「へー」

「そりゃ災難だったな」

 

 なあ、お二人さん。エフティが獣人だとしたら、何の獣人かわかるか?

 

「そうだな・・・俺達草食の氏族、牛や山羊っぽくはあるかな」

「でも何の動物だ? ぱっと見でわかんねえぞ。顔も草食っぽくないし、むしろ鱗の氏族じゃねえか?」

「ツノトカゲの角はもっと太くて短いだろ。顔も蜥蜴や蛇っぽくねえし」

「レイヨウだっけ、こんな長くてそりのある角の奴がいるけど、姉ちゃんの角は節がないんだよな・・・」

 

 そう言えば二人は尻尾があるが、エフティにはないな。

 

「あ、それ獣人でもある奴とない奴がいるぜ」

「あっても邪魔なだけなんだよなあ。子供をあやすときには使えるけど」

 

 侃々諤々。

 エフティの角は結構長く、つるんとしていて僅かに湾曲している。

 誤解を恐れずに言えば日本の般若面のそれに近い。

 確かにカモシカとかの角に近いと言えば近いが、俺も似たような角を持つ動物には心当たりがないんだよな。

 

「お」

「あ」

 

 そんなことを話して時間を潰していたら、向こうから若い男が走ってきた。

 

「来ましたよ」

 

 じゃあ、あいつがアーザックか。

 走るのが速い。獣人というのを考えても身体能力は随分高いな。秘印(ルーン)級には届いてるか?

 

「ッスよ。若いけど翼の氏族では一、二を争うツワモノですぜ」

「一、二を争う残念なヤローでもありますがね」

 

 くっくっく、と含み笑いをする獣人二人。

 なんだかなあ。どうして俺の回りにはクセの強いのばかり集まってくるんだか。

 

「カエラ様のご人徳と言うものでございましょう」

「そうだな、だからこんな素直じゃないメイドしかついて来ない」

 

 涼しい顔で毒を吐くメイドにつむじぐりぐり刑を執行していると、アーザック氏が到着した。

 身長は180、俺よりちょっと高いくらいでマントを羽織っている。

 ラテン系ハーフのワイルドイケメンって感じの兄ちゃんで、髪の生え際に僅かに羽毛が見える。

 俺達の前で止まると頭を下げた。

 

「すまねえロウさん、遅れた」

「ああ、若様。こちらがアーザックさんで、翼の氏族、コンドルの獣人です」

 

 よろしく。

 挨拶すると改めてこっちにも頭を下げてきた。

 

「そっちがカエラ卿だな。来てくれて感謝する。育ちが悪いんで言葉遣いがなってないのは勘弁してくれ」

 

 構わないよ。どうせ家から追い出された身だ。大したもんじゃない。

 

「そう言ってくれるとありがてえ」

 

 男臭い笑みを見せるアーザックの後ろで、門番二人がかくーんとアゴを落としていた。

 

「カエラ卿!?」

「おいマジか、あの『飛竜殺し』かよ!?」

 

 そうそう。武名があるとこう言う時にありがたい。

 

「迷宮暴走を一人で食い止めた!」

「内務大臣の処刑に殴り込んだっていう!」

 

 そうそう。迷宮暴走の件も伝わってるのか。確かに隠してはいないけど。

 

「老若男女問わず百人以上を囲っているらしいじゃないか!」

「未亡人の母親と年端もいかない娘を同時に食っちまったっていうぜ!」

 

 そこでちらっとこちらを見る二人。

 

「獣人やエルフ、幼女どころか男も見境無しかよ。噂は本当だったのか」

「少年趣味ってあるんだな・・・」

 

 そうそう・・・じゃねえよ! 

 どこから流れたそんな噂! いや魔神教団の連中だな! わかるが!

 

「人数はともかく大体本当の事では?」

 

 うるさいフジ。後さすがにヒョウとレイには手をつけてないぞ。

 

「誰が幼女なんだよ! 私は花の16歳なんだよ!」

「その胸で? ないないそれはない」

「むきーっ!?」

 

 真顔で否定する獅子獣人にぽかぽか殴りかかるシル。まあ事実だからしょうがない。

 

「ダブルスタンダードですね」

 

 心に棚を作れと熱血神(アミーズ)も言っている。

 

「しかしアーザックさん。何かありましたか?」

「それがその・・・」

 

 言いにくそうに表情を歪めるアーザック。

 ニヤニヤする門番たちに、振り向いて指を突きつける。

 

「おい、何か一言でも言ってみろ。ブッ飛ばすぞ」

「へへっ、わかってるさ」

「おー怖い怖い」

 

 大げさに怖がる門番たち。仲がいいなあ(棒)。

 察するに殺人現場の目撃者がオタクの姉さんなんだろうが。

 

「ああ、その通りだ。安全なところに匿って貰ってたんだが」

 

 まさか、さらわれたか?

 その場の全員が一斉に険しい顔になる・・・うん? 門番の二人だけ苦笑してるな?

 

「それがその・・・自分で隠れ家を抜け出してな」

「お姉さんも自分が狙われていることはわかってるんですよね? どういう事です?」

「多分・・・その、だ。そこの主人は酒を飲まなくてな。家には一滴も置いてないんだ」

 

 あ、やな予感。

 

「ええと、それが何か?」

「我慢できなくて、どこか飲みに行ったんだと思う・・・」

 

 心底情けなそうな顔でアーザックが肩を落とす。

 その後ろで門番二人が爆笑していた。




>ディアスポラ
異邦人。移民や難民、外国人。もしくはその住処。
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