全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
身の危険とか罠とかとは別の意味でうさんくさいとは思ったが、とにもかくにも今のところ唯一の手掛かりである。外れ覚悟で食いつくしかない。
嘘だったら皮剥いで三味線にしてやる。
まあこいつを街から出すこと自体はそれほど難しくもなかった。
獣人街を囲む柵は頑丈ではあるが高さはせいぜい3メートルほど。
巡回が通り過ぎた隙を見計らい、抱えて飛び越せば済む。
その後俺とフジは何食わぬ顔で中に戻り、入口から堂々と出る。
レイと門番たちに伝言を頼んで、離れた場所で猫女と合流。
で、どこの酒場だ?
「『鉄男』通りの『瓶の中の悪魔』ってトコニャ。
飲んだくれ御用達のキッツい酒を安く出してくれるいい店ニャ」
なんかヤバいもの混じってないだろうな? 飲むと目が見えなくなるとか。
「失礼なこと言うんじゃないニャ!
そこの親父が作ってる、ちゃんとした密造酒ニャ!」
密造酒はダメだろ・・・アンタッチャブル出動案件だぞ。
「それでもニャー達にはそれがないと駄目なのニャ・・・命の水が無いとニャー達は生きていけないのニャ!」
じゃあ死ね。
「即答されたニャ!? 人の心が無いニャ!」
たしなむ程度ならともかく、そこまで行ったらもう後は地獄の底に転がり落ちるしかないぞ。後で死んでも今死んでも大差ない。
「いつか死ぬから今生きててもしょうがないニャんて、そんなの臆病者の言葉ニャ!
いつか終わりが来るからこそ、ニャー達は今一生懸命に飲むのニャ!
一瞬! だけど閃光のように! まぶしく燃えて飲んだくれてやるニャ!」
そうか、せいぜい他人に迷惑かけずに死んでくれ(冷徹な目)。
大体そんなだから獣人街の酒場から出禁か何か食らってるんじゃないのか?
「あはは・・・まあそうとも言えるニャ。だからしばらくは化粧品店に通ってたニャ」
「おや。それは意外ですね。まあ飲むよりはお化粧にお金を使った方が健全だとは思いますが」
これまで沈黙を貫いていたフジが、ちょっと意外そうな顔になる。
割と好意的に微笑んでいるが、多分そう言う意味じゃないと思うぞ・・・。
「そうなのニャ。香水にはアルコール使ってるから、値は張るけど度数が高くて、結構酔えるのニャ」
「 」
んなこったろうと思ったよ・・・
「しばらくは安い香水を飲んでたけど、ゲップもいい匂いがしたはずニャ」
ゲップに香水混ぜても地獄のような香りになるだけだと思うが。
「実際香りでバレて、化粧品店も出禁食らったニャ・・・けどニャーは不屈ニャ! 香水がダメならサンザシチンキに切り替えたニャ! これなら薬だから飲んでも問題ないニャ!」
いやあるだろ。
ちなみにチンキというのは薬草なんかをアルコールに漬けた一種の薬である。ハブ酒とか薬用酒に近いが、もっと濃度が高い。
当然だが直飲みするようなものではない。一滴二滴舌に垂らすとかお茶に混ぜるとかして飲むものだ。
なお19世紀にはアヘンチンキなどと言うものも堂々と売られていた。恐るべし。
「実際体調がおかしくなったのを見破られて、薬局も出禁食らったニャ。けどニャーはそれでもくじけなかったニャ!」
そこはくじけておけ。で、次は何をやらかしたんだ?
「大工に知り合いがいたから、そのツテでアルコール使ったニスを買ったニャ」
おおおおおおおおおおおおおおおおい!?
「よく生きてましたね?!」
「塩を混ぜてよく振れば、成分が沈殿してアルコールだけ飲めるニャ。でも飲んでたら顔が紫色になったからやめたニャ」
うわあ・・・
「うわあ・・・」
最早ドン引きである。
「顔が紫になったから近所のガキンチョが『ナスビ女』とか呼んでくるニャ! ヒドイと思わないかニャ?!」
全く思わん(断言)。
「こいつはやっぱり人の心が無いニャ。所詮育ちのいいお貴族様ニャ」
それを理解出来るのが人の心というなら俺は人間じゃなくていい。
「後は接着剤にもアルコール使ってる奴があるから、同じように塩混ぜて振って・・・」
・・・。
「最近はそっちまで出禁されたから、これをどうにかできないかと思ってるんニャけど」
そう言って取り出したのは、円筒形の容器だった・・・ええと、靴磨きクリーム? 革靴磨くアレか?
「これにもアルコール入ってるらしいんニャけど、これどうやったら飲めると思うニャ?」
知るかぁーっ!!!!!
鉄男通りの酒場「瓶の中の悪魔」。
やはりというか何というか、客層はアルコールで顔の赤らんだおっさん、時々若者とおばさん、しかいない。
酒を運んできた店主が「あんた若いしちゃんとした身なりしてるんだから、こんなところに来ちゃダメだよ」と真顔で忠告してくれたくらいである。良心的だか何なんだか。
メニューは密造酒のみで、卓に座ったら注文もとらずにそれらが出てきた。ジョッキに入った密造酒とナッツを煎った簡単なおつまみで銀貨一枚。
ちょっと口をつけてみたが、意外に悪くはない。そしてキツい。
これ、度数二十度くらいないか? 麦焼酎みたいな感じだな。
「そうなのニャ! ここは水で薄めたり混ぜものなんかしてない、とても良心的な店なのニャ!
しかも安い! どんな魔法使ってるのか知りたいくらいニャ!」
それは本当に良心的だな。
庶民向けの店なんて、酒に水混ぜて薄めるくらい日常茶飯事と聞くし。
まあ安くてうまい酒をバンバン販売してたらこうやってアル中も量産することになるから、そういう意味で良心的なのかどうかは悩むところだが。
「ひょっとしたら本当に魔法を使っているのかも知れませんね」
だな。食糧系の術師や
そこまで行かなくても発酵を早めたり、味を良くしたり、蒸溜したりと言った術もあるので、そうした手段でコストを削減してるというのは有り得る。
うちでも駄エルフがワインをブランデーにしたりしてるし。
三十分経った。
まだアーザックの姉のティルは来ない。
アル中猫はこのキツい酒をカパカパ空けて、俺の分も飲み干して今はフジの分のジョッキにかかっている。ザルか。
「しかし、そもそも何でティルに用があるニャ?」
実はロウのつてでな。弟さんから話が行って、護衛と事件解決を頼まれたんだ。
知ってるんだろうがお前みたいな飲んべえだからな。
狙われてるにもかかわらず酒が我慢できなくてフラッと姿を消した訳だ。
「それはしょうがないのニャ・・・人間耐えられることと耐えられないことがあるのニャ・・・」
そこは耐えろよ。自分の命と天秤に掛ける問題じゃないだろ。
「んで、兄ちゃんはそれを依頼された冒険者か何かかニャ?
それにしては身なりがいいし、メイドさんも連れてるけど」
ああまあ、冒険者みたいな事もしてるけど冒険者じゃないからな。
俺はカエラ。ロウと付き合いのあるサムライ・・・領主騎士さ。
「・・・え? カエラ? カエラ・ニシカワ? 白のサムライの子孫で『飛竜殺し』の!?」
飲んだくれ猫の大声に周囲がざわめいた。
しまったな、喋りすぎたか。
どよめく酔客たちをどうしようかと思った瞬間――殺気が走った。
>『鉄男』通りの『瓶の中の悪魔』
アイアンマンの「デーモン・イン・ア・ボトル」というエピソード。
仮にもヒーローであるアイアンマンがアル中になってトチ狂う話。
社長のダメ人間キャラを決定づけたエピソードと言っていい。
>飲むと目が見えなくなる
メチルアルコール。普通の酒はエチルアルコール。
タチの悪い密造酒とかに混ぜられたり、頭のおかしいアル中が飲んだりするが、飲むと失明したり死んだりする。
「目散る」アルコールと覚えよう。
>一瞬! だけど閃光のように! まぶしく燃えて生き抜いてやる!
ダイ大のポップの名セリフ。名言は積極的に汚していくスタイル。
>香水、チンキ、ニス(正確にはツヤ出し用の薬剤)、接着剤、靴磨きクリーム
全部ロシア人の実話。
靴磨きクリームはパンに塗って、アルコールがパンにしみ出したところでクリームをのけてパンを食べるらしい。
密造酒や工業用アルコールなんてかわいいもんだぜ!