全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第六話 アル猫の正体

 波動防御!

 咄嗟に振り上げた拳が「はじく」波動を帯びる。

 甲高い音がして、恐らく毒が塗られていたであろう、ぬらぬら光るダガーがはじき飛ばされた。

 ほとんど同時にそそり立つ畳の壁。

 裏地の板に、複数の短刀が刺さる音。

 

「申し訳ありません、遅れました!」

 

 十分だ!

 

「にゃ? ニャニャニャ!?」

 

 恐らく・・・いや、間違いなく狙いはこのネコ女だ。

 

「裏口から逃がしましょう! タタミを立てます!」

 

 わかっ・・・いやダメだ! 裏口にも待ち伏せがいる!

 正面突破の方がまだしも目があるぞ!

 

「・・・わかりました!」

 

 ちらりとアル中猫の方に目をやる。身体能力は多少高いが、どう見ても戦いの心得はない。

 しかしここから裏口の様子まで事細かに分かるようになってるな。

 俺も地味に強くなってるらしい。

 

「!」

 

 畳を貫通してクロスボウの矢が顔を出す。

 ご丁寧にこっちも毒付きだ。

 表にも随分と襲撃者が集まっている。

 

「参りましたね。私とカエラ様だけなら脱出は難しくありませんが・・・」

 

 裏口の襲撃者も動き出した。こうなりゃ仕方ない。強行突破だ。

 こいつは俺が担ぐ。フジは畳でかく乱してくれ。

 

「かしこまりました」

「ま、待つニャ!? 相手が飛び道具持ってるのにそこに突っ込んでいく気かニャ!?」

 

 それが一番生存率が高そうだからな。

 当たったら運が悪かったと諦めろ。

 

「そう言う事なら相手をかく乱するいい手があるニャ!

 ちょっとまわりに迷惑かけるけど・・・」

 

 無差別型の《加護》か何か持ってるってことか。

 ざっと見た感じ、表も裏も旅人(トラベラー)級から剣士(ソード)級ばかりで秘印(ルーン)級はいない。

 俺もフジも実質秘印級以上だから、抵抗力の高さでこちらが有利になる可能性は高い。

 巻き込まれて死ぬような事は無いんだな? ならやれ!

 

「わかったニャ! 踏ん張って抵抗するニャ! んんん・・・ゲローッ!」

 

 その瞬間の事を何と表現すればいいのだろうか。

 胃が。

 いや、肛門から口元まで一切が逆流するような感覚。

 有り体に言えばメチャクチャ凄い吐き気。

 

「うぷうっ!?」

 

 酒場の客が。

 主人やウェイトレスが。

 突入してきた刺客達が。

 フジまでが一斉にゲロを吐いた。

 

「ブシャーッ!」

 

 いやお前(アル猫)も吐くんかい!

 幸いにも?アル猫は食事をほとんどとってなかったらしく、さっきまでジョッキ三杯飲んでた麦焼酎もどきがビシャビシャと滝のように土間を濡らしていく。

 ともかく表の連中も全員四つん這いになってゲロを吐いている。通行人も一緒になって一斉に吐いてるので、とても素敵な光景が繰り広げられていた。

 ええい脱出するぞ、フジ!

 

「は、はい!」

 

 若い娘にあるまじき恥辱に涙目になりながら、フジが立ち上がって走り出す。

 ぐったりしたアルコール猫を脇に抱えつつ、俺もその後に続いた。

 表の刺客は大丈夫だったのかって?

 いーや、俺が気にしてたのは、脇に抱えたこの物体がまたゲロ吐いたら嫌だなって事だけさ、おっさん!

 

 

 

 通行人や刺客が吐いた虹色の液体(比喩表現)を踏まないように気を付けつつ、俺達は疾走した。

 屋根の上にいた奴(ひょっとしたら刺客じゃなくて仕事中の職人だったかもしれない。だとしたらすまん)も嘔吐して行動不能になってたのでので、追っ手を撒くこと自体は楽だった。

 しばらく走り、獣人街にもほど近い路地裏にしけ込む。

 幸い脇に抱えたお荷物はそれ以上吐かないでいてくれた。

 

「うー・・・もう大丈夫かニャ?」

 

 取りあえずはな。

 そっちは大丈夫か?

 大体何の《加護》だ、お前さん。

 

「《ゲロの加護》ニャ」

「ストレートですね!?」

 

 他人にゲロを吐かせる《加護》か。

 神様も何を考えてこんなもんを与えたのやら。

 

「子供が変なものを飲み込んだときには使える《加護》ニャ」

 

 あ、確かにそれは便利だな。

 

「後ゲロを我慢したりさせたりすることにも使えるニャ。

 おかげでいくら飲んでも吐いたりしないし、宴会で吐く奴もなくせるニャ」

 

 役に立つんだか立たないんだか。

 いや、迷惑かけさせないという点では有益か。

 酒場なんかで雇うには便利な特性ではある。

 

「まあ、酒場で飲んでる時にうっかり暴走させて、酒場と周囲100mくらいの家の人間全員にゲロ吐かせたもんで、獣人街の酒場を永久出禁になったんだけどニャ」

「残念でもなく当然過ぎますね!?」

 

 よくリンチにあわなかったな・・・。

 

「今の状況はリンチも同然ニャ! なんで酒場一つで問題起こしただけで回状回されて、獣人街全部で出禁になるニャ!? 理不尽にもほどがあるニャ!」

「それだけのことをしたからでは?」

 

 フジがここまで冷たい目をするのも結構珍・・・いやそうでもないか。

 

「だとしても酷すぎるにゃ! このままじゃニャーは酒に乾いて死んでしまうのニャ!」

 

 おまえはそこでかわいてゆけ(冷酷)。

 というかいい加減無駄話はやめよう。

 お前、ティルだよな?

 アーザックの姉で殺人事件を目撃したという。

 

「バぁレたかニャ!」

 

 外道照身霊波光線!

 まあぶっちゃけそんな髪色なんてそうそういないしな。

 

「嘘はついてないニャ? ニャーはティルの行く場所を知ってたし、飲んでたら現れるのも嘘じゃないニャ」

 

 最も重要な事実を隠してたがな。

 

「で、ですがアーザックさんは鳥の獣人でしたよね?

 そのお姉さんが猫の獣人というのは有り得るのですか? それとも変装?」

 

 言われて思いだしたが、人間の髪色と同じで珍しいがないわけじゃないらしい。

 別種族の獣人同士が結婚とか、そう言うのの子孫が先祖返りとかもあるんだと。

 

「ニャーの父ちゃんはインコの獣人で、母ちゃんは猫の獣人ニャ。

 ニャーは母ちゃんと同じ猫の獣人で、髪色は父ちゃん似なんだニャ。

 逆にアーザックはコンドルの獣人で、髪色は母方のじいちゃん譲りニャ」

 

 なるほどね。

 しかしインコと猫か・・・捕食されたのかな・・・

 

(捕食されたんでしょうか・・・)

 

「・・・大体なに考えてるか分かるけど、多分その通りニャ。ウチの父親は典型的な草食系で母親は肉食系なんだニャ」

 

 いやまあインコは元から草食というか種子食ではあるが。

 猫も元から肉食だし。

 閑話休題(それはさておき)

 

「それじゃ悪い奴らも撒いたし、その辺の酒場で飲み直し・・・」

 

 するわけないだろ。

 脳みそにクソがつまってんのか?

 

「それはないニャ! 一杯おごってくれるっていったのに、まだおごって貰ってないニャ!」

 

 おごっただろうが、俺とフジの分も含めてジョッキ三杯。

 

「吐いたからノーカンニャ! あれでカエラんもフジちゃんも助かったんだから融通利かせるニャ!」

 

 フジ。これを獣人街まで引きずってけ。

 

「かしこまりましたご主人様」

「痛い痛い痛いニャ?!」




>外道照身霊波光線
特撮「ダイヤモンド・アイ」に登場するヒーローの必殺技。
人間に化けた怪人の正体を暴く。
正体を暴かれた怪人が歌舞伎よろしく「ばぁれたかあ!」と大見得を切るのがお約束。
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