全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第八話 ヴァルト・フォッツェ

 火山のように吹き上がった地面。

 ピクピク痙攣する30人からのチンピラ。

 通行人や見物人も呆然として言葉もない。

 

「俺は『飛竜殺し』カエラ・ニシカワ! 文句がある奴はかかってこい!」

 

 ざわり、と空気が動いた。

 

「飛竜殺し!?」

「白のサムライだと!」

「女殺しのサムライだ!」

「股間のカタナはウタマロだぞ!」

 

 おい、後半!

 言った奴をじろりと睨むと、そいつらは悲鳴を上げて逃げ出した。

 ついでにチンピラどもの仲間っぽい女たち十人くらいも悲鳴を上げて逃げていく。

 

「いやああああああああああ!」

「逃げるのよ! 孕まされるわ!」

「ちくしょう、アタシはまだ処女なんだぞ!」

 

 おい・・・おいっ!

 わなわな震えていると、今度は俺が後ろから肩ポンされた。

 振り返れば苦笑するアーザックの顔。

 

「まあなんだ・・・ありがとうよ。

 最後がちっと締まらなかったがな」

 

 うるせえよ!

 シルとエフティ、腹抱えて笑ってんじゃねえ!

 くすくす笑ってるフジやタチバナも、後ろ向いて肩震わせてるロビンもだ!

 ジューニャ、念動で穴埋めて地面固めておけ!

 このままじゃでかい水たまりになるからな!

 

「はい、わかりましたカエラくん」

 

 だから笑うなっつの!

 

 

 

 扉を開けると、そこはマッチョだった。

 

「オーッホッホッホ! アテクシの名前はヴァルト・フォッツェ!

 あンなたが噂の飛竜殺しカエラ卿ねンっ!

 お会い出来て光栄だわッ!

 さっそく大暴れしてるみたいじゃなぁーいっ!?」

 

 すいません、部屋を間違えました。失礼します。

 きびすを返す俺の肩を、がっしりとアーザックが掴む。

 

「いや、間違いじゃないから出ていかないでくれ。

 認めたくないだろうが、これが今の自警団のボスなんだ」

 

 ミトメタクナイ! ミトメタクナイ!

 いや普通回れ右するだろう、扉を開けたら上半身裸で身長2m越えのマッチョが玄○哲章みたいな野太いマッチョボイスで猫撫でオカマ声出してポージングしてたら!

 しかも割れアゴで口紅べったりつけて、子供向け番組の悪の総統みたいな真っ赤なマントとマスクしてるんだぞ?

 鼻が三角形に尖ってて、頭の上に動物の耳みたいな突起が二つ・・・え、これひょっとして狐の覆面なの?

 

「オホホホホホ、さすがカエラ・ヴィクトリアス・ヴォロディア・ヴァレンタイン・ニシカワ!

 よくぞ見破ったわ! そう、このヴァルト・フォッツェは狐の獣人なのよ!」

 

 嘘だっ! 頭より首の方が太い狐がいてたまるか!

 肉の量なら人切りローニンのダスキーニや、シルのオヤジさんとこのスカージより数段上だぞ!

 と言うか半裸にマントとマスクつけてるの悪役プロレスラーみがある。

 プロレスラーでもこれだけの肉つけてる奴はそうはいないが。

 

「そこはまあ種族の外れ値ってことよ。何百人もいたら一人くらいはこういうのがいるわ」

 

 いやー、ここまでの外れ値はそうそう出ないんじゃないかな・・・何万か、何百万に一人ってレベルだろう。

 

「なるほど、それほどアテクシが美しいってことね!」

 

 無敵かこいつ。

 

「まあなんだ、取りあえず話を聞いてくれ。

 これで凄く有能だし人望もあるんだ・・・」

 

 疲れた顔のアーザック。

 お前も苦労してんだな・・・。

 

 

 

 経緯説明(かくかくしかじか)の後。

 

「なるほど、お姉ちゃんを保護したのは聞いてたけど、ロウ商会経由で。

 よくもまあ噂の飛竜殺しを引っ張ってこられたもんだわ」

 

 まあロウには義理もあったし、俺も少々興味があったんでな。

 

「アテクシたち獣人に? それとも事件に?」

 

 両方に、かな。

 それと事が麻薬絡みらしいからな。

 潰せるもんなら潰しておきたい。

 

「アナタたち冒険者族、特にオリジナルは麻薬嫌いが多いって噂、本当なのね。

 あなたもひょっとしてオリジナルなのかしら?」

 

 さあね。

 少なくとも初代『白のサムライ』は麻薬が死ぬほど嫌いで、手を出した人間は家から永久追放するって決まりを作ったけどな。

 

「なるほどねえ」

 

 初代は明治維新の少し後から転移してきた元武士。

 下手するとアヘン戦争をリアルタイムで聞き知っていた世代だ。

 列強の圧力に抗し切れなければ外国の奴隷になり、麻薬漬けにされると言う意識があったんだろうと思う。

 初代が書き残した遺訓にもそんな事が書いてあった。まあそこまでは口に出さないが。

 そう言えばアーザック、お姉さんの事情について詳しいことは聞いてないんで、ここで改めて話して貰えるか?

 

「そうね、アテクシも聞いておきたいわ」

「わかった。まず姉さんは獣人街の外の酒場でウェイトレスとして働いていた。

 獣人なのに割のいい働き口だったみたいだから、多分《加護》込みで雇われていたんだろうな」

 

 客にゲロを吐かせないってのは、飲み屋としちゃありがたいだろうからな。

 

「暴走したときが怖いけどね・・・」

「例の事件、やっぱり有名なんだよ?」

 

 シルの言葉に、ヴァルト・フォッツェは大げさに肩をすくめる。

 

「有名も何も! アテクシも被害者の一人よ。楽しい食事中、妹夫婦と姪っ子たちの前で盛大にゲロ吐いたアテクシの気持ちが分かる? まあ妹たちも吐いてたんだけどね。 

 瘴気か何かが発生したのかと思って、自警団に緊急召集かけちゃったわよ」

「ご愁傷様です・・・」

「すまねえ。姉さんが本当にすまねえっ・・・!」

 

 心底情けなさそうな顔で頭を下げるアーザック。こっちもご愁傷様やで・・・

 

「もういいわよ。それよりつ・づ・き」

「わかったからシナを作るのはやめてくれ。

 ともかく酒場でトイレを掃除しようとしたら、びしゃびしゃっと水音がしたそうだ。

 《加護》は使っていたから嘔吐ではない、何だろうと思ってトイレに入ると床が血の海。

 男が倒れていて、ナイフを持った男が何か言いながらこちらを振り向いた。

 悲鳴を上げながら酒場を逃げ出して、獣人街まで一直線に戻ってきた。

 驚いた店の主人がトイレに入ってみたら、もう加害者の姿はなかったそうだ」

 

 んーむ。

 お姉さん、相手の顔は覚えてるんだな?

 

「そう言ってる。実際勉強は苦手だが人の顔や声を覚えるのは得意だからな。

 当てにしていいと思う。

 麻特の巡査も加害者の似顔絵を作って捜査にかかろうとしたんだが、その夜に襲撃を受けて大怪我を負い、今も医神(クーグリ)の神殿で意識不明の重体だ」

 

 麻薬特捜局、通称麻特。前に話に出た、大蔵省の対麻薬専門捜査部隊である。

 そう言えば何で麻特なんだ? それだけだと普通に警邏の仕事だと思うが。

 

「殺されたのが麻薬の売人だったらしい。

 ともかくその時俺も駆けつけたんだが既に襲撃者の姿は見あたらなくて、最後に言い残したのが『内部に裏切者がいる』って言葉だった。

 姉さんは逃げたからはっきりとは見てないんだが、どうも最初の殺人をやった奴と同じじゃないかって言ってる。それで姉さんを先生に預けたのさ」

 

 なるほどなあ。

 医神(クーグリ)の神殿に金積んで治療して貰おうかとも思ったが、この分じゃ難しいか?

 

「何でも頭に深い傷があるとかで、迂闊に触れねえらしい。

 血の管が弾けるのを止めるのが精一杯だったんだと」

 

 脳出血か。そりゃどうしようもなさそうだな。

 残念ながら医療チート系の知り合いはいない。

 こと脳の傷となったらブラックジャックやスーパードクターがいても対応出来るかどうか。

 ならまあ、まずはそう言う事に強い知り合いに力を借りるのがよさそうだ。

 

「あら、何かツテでもあるの?」

 

 ああ。麻特が当てにならないなら、別の公権力を頼る。

 毎度頼って悪いが、内務大臣(ジョンおじさん)にねじ込もう。




ちなみにヴァルト・フォッツェのイメージはガッチャマンのベルク・カッツェ。
ただし首から下は超人ハルク。
ベルクカッツェが「山の猫」という意味なので、「森の狐」をもじってヴァルト・フォッツェ。

>アヘン戦争
明治維新の25年ほど前。
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