全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
第九話 内務大臣の執務室
「俺はイタリア系だからな。もうこれ以上出世できない」
――「スリー・リバーズ」――
ヴァルト・フォッツェ団長の許可を取り、コスタ先生のところに行ってから内務省へ。
ヒョウはそのまま連絡役に残しておく。ロウは商会へ。
敵方に俺達のことがばれている可能性は低くない。
フジ、エフティ、ロビン。最大限に警戒してくれ。
ジューニャも《
「かしこまりました」
俺も波動感知を維持しつつ、警戒マックスで街路を移動する。
可能な限り、人通りの多い、広い通りを選んで通る。
何事もなく内務省に入り、大臣室に通されたときはさすがにホッとした。
ソファに座ったジョンおじさんが笑いかけてくる。
「ふむ、最近よく会うな。マット村の暮らしはそんなに退屈か」
古代のアーティファクトを手に入れましてね。
こちらにも気軽に来られるようになりましたから。
「ああ、聞いているよ。メットーの人口を減らすことに余念がないそうじゃないか。
そのうち労働力が足りなくなるんじゃないかと心配する連中も居れば、治安の悪化の種が減ると喜んでる奴もおるよ」
毎日移住希望者をピストン輸送してるMMR号のことである。
ある意味お宝が空飛んでるようなもんだが、エフティの部下連中が護衛してくれてるから、まあそうそう奪われはしない。
それはともかくジューニャ。
「はい」
ジューニャが軽く念じると、俺の後ろのタチバナの姿がぐにゃりと歪む。
「!?」
「にゃはははは、はじめましてだニャ・・・」
ジューニャにタチバナの幻影をかぶせられていたのはアル猫ティルであった。
本物のタチバナは透明化して念のためロウについて商会まで護衛、その後情報収集に回って貰ったのである。
「彼女の名前はティル。そっちが弟さんで獣人街自警団のアーザック。ティルは殺人事件の目撃者なんです」
「ふむ・・・話してみなさい」
「捜査にかかろうとした瞬間に襲われて意識不明の重体か・・・
言っては何だがお姉さんもよく無事だったものだ」
「ニャハハ、ニャーもそう思うニャ。あ、敬語とか無理なんでゴメンニャ」
「おい、姉さん!」
「ははは、構わんよ。警邏の仕事をしていればそう言う人間にもよく会う」
さすがたたき上げの元警邏、鷹揚である。
秘書官のひとは結構言葉遣いに厳しいんだが、苦笑してスルーしてる。
俺は家族付き合い枠と知ってるから大目に見てくれているが、普段なら一言くらい注意が入るのに・・・まあ何か言ってもどうにかなりそうにないのがわかるんだろう。
美人だし愛嬌はあるしな。ダメ人間だが。ダメ人間だが!
そう言う訳でここに相談に来たんですけど、おじさんの権限で横車押せますか?
「大っぴらにやったら大蔵省と戦争になるな」
ですよねー。
「猫の氏族と犬の氏族が仲悪いようなもんかニャ?」
「まあ大体そのようなものだな。内務の氏族が大蔵の氏族の仕事にケチをつけたら・・・まあ、わかるだろ?」
「協力すればいいのにアホだニャ。人間も獣人も愚かだニャ」
「まったくだ」
苦笑するおじさん。
いかにもアホでタルそうな顔してる、だらしない女がこれを言うのだから、まあ苦笑するしかあるまい。ギャップ萌えってやつ?
「まあそれでも現場の方では情報のやりとりもしているし、非公式に協力もしている。
十年くらい前、私が警邏のトップだったときの話だが、麻特の警邏と組んで仕事をしたことがある。切れる男だったから、順調に出世していれば
紹介状を書いて上げよう」
ありがとうございます。
「おっちゃんありがとうだニャ。でも実はこっそり動かせるスパイとか大蔵の氏族に潜入させてたりはしないのニャ?」
「それはもちろん。麻特にはいないが省内に五人ほど・・・」
「閣下!?」
思わずぽろりとこぼしたおじさんに秘書の人が顔色を変える。
おじさんもはっとして口元を手で押さえた。古典的な反応やなあ。
「いやいや、今のは忘れてくれたまえ!」
何のことでしょう? それより早く紹介状を。
「う、うむ、そうだな。待っていてくれ」
おじさんが来客用のソファから腰を上げて、執務机の方に行く。
アーザックが後ろからこっそり耳打ちしてきた。
(姉さんは昔からこうなんだ。人の警戒を解くのがとてもうまくて、何か聞かれるとぽろっと喋っちまうんだよ)
なんと。酒場のお姉ちゃんとかカウンセラーとか尋問官になったら大成しそうだな。
・・・いや、酒場のお姉ちゃん以外はそれ以前の問題で無理か。
「ニャハハハ、どんなダメ人間にも一つくらいは取り柄があるもんニャ!」
自分で言うな自分で。
「まあ己を知っているのはえらいと思いますよ」
「分かってて直そうとしないのは長所をぶち壊して余りある欠点だと思うんだよ。ジューニャ先生の飲んだくれと同じなんだよ」
「ひどい!」
「にゃはははは」
気にして騒ぐジューニャ、全く気にせず笑っているティル。
ダメ人間としてはどっちが下なんだろうなあと思いつつ、俺はティルの評価をちょっと修正していた。
「シュワルツ・シルヴェスター捜査官? どなたでしょう?」
受付の人が首をかしげる。
あれ?
「うーん・・・」
受付の若い兄ちゃんが唸っていると、奥で書類仕事をしてたデブい女子プロレスラーみたいな人が声を上げた。
「あ、あの人じゃない? ほら、資料編纂室の」
「・・・ああ!」
ぽん、と手を打って受付の人が頷く。
「多分それで間違いないと思います。
資料編纂室はそこを右に入って突き当たりを左、奥から二つ手前のドアです」
ありがとう。
しかし・・・資料編纂室?
「紹介状? 俺に? 一体誰だい・・・」
仕事もせずに炒り豆をボリボリ食って、けだるそうにこちらを見る中年太りの男。
やる気とか精悍さとか知性とかは微塵も感じられない。
えーとその。ひょっとしてあんたが・・・
「ああ。シュワルツ・シルヴェスターだが何の用だい?」
なんてこった。
>シュワルツ・シルヴェスター
シュワルツェネッガーとシルヴェスター・スタローンの名前をくっつけた。ただし外見はどちらにも似てない。
トンデモルビの導師秋津透先生のトンチキ戦隊小説「閃光戦隊ジュエルスターズ」に出てくる敵組織戦闘員、亜乗度 須太郎(あのるど すたろう)のもじり。