全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「あー、カーターさんの紹介かあ!
俺なんかのことを覚えていてくれたんだな、あの人」
紹介状を開いて懐かしそうな顔をするシュワルツ氏。
「処刑されそうになったり内務大臣になったり波瀾万丈だけど元気かい」
まあね。息子の結婚とかで凄い顔になってたけど。
「息子の結婚か。俺にゃ縁のない話だね」
結婚してないのか? いい年だろうに。
「万年窓際だからな。こんな奴のところに嫁に来ようなんて物好きはいないさ。
おふくろからはさっさといい人見つけろと言われてるが、中々ね。
『飛竜殺し』様の女運をちょいと分けて欲しいところだ」
肩をすくめて笑うシュワルツ氏。
「まあ世間話はこの辺にしておこう。ブックと獣人の娘さんの件だったな」
例の重態の巡査さんの事である。
ここへ来る前にちょっと立ち寄ってきたが、まだ意識不明の状態が続いていて予断を許さないとか。
「そうか・・・まじめな奴だったんだがなあ」
その後この件はどうなってるんだ? 獣人街の方には全く連絡が来てないそうだが。
「後任が任命されてない。事実上の捜査中止だな。
もみ消したいんだろうよ」
ブック巡査は内部に裏切者がいる、と言ったそうだ。
そう言う話を聞くと信憑性が増してくるな。
「だろうな。俺も知らなかったし、捜査情報は上司か親しい人間にしか話してないだろう。
それですぐに襲われたってのは、つまりそういうことだ」
部屋に溜息が満ちる。
「どーゆーことニャ?」
が、その中でアホ猫(外見はタチバナ)だけは首をかしげた。
「ああつまりだな」
シュワルツが苦笑しながら説明してやる。いい人だ。
「普通そう言う情報は外には漏れない。
なのにその日のうちに襲われたって事は、ブック巡査が報告を上げた相手か、あるいはそいつから情報を横流しされた誰かが襲撃を指示したって事さ」
「じゃあマトクの中に悪い奴がいるニャ!?」
「そういうことだ」
「ふざけるんじゃないニャ! 獣人街の自警団はみんなマジメにやってるニャ!
ニャー達から税金搾り取ってるくせにそのていたらくはなんニャ! 全員死刑にしちまえばいいニャ!」
興奮するティルに、再びシュワルツ氏の苦笑。
まあジューニャがかぶせた幻影で、今は外見タチバナだが。
妙齢の落ち着いた美人が手を振り回してぷんぷん怒ってるのだからこれは苦笑せざるを得ない。
なお、ただ幻影かぶせてるだけだと口パクもしないので注視されたらばれる。
本来幻影で姿を変える場合はその辺自動処理してくれる《
なので、これに関してはリアルタイムで動かしてるらしい。
さらっと言ってたが、中身の動きに合わせて手足はともかく表情や口の形までマニュアル操作で動かすって、やっぱりこいつ化け物なんじゃないだろうか。
「大体捜査中止ってなんニャ?! 人が殺されて、身内の巡査さんも襲われたのに・・・」
「本当にな。我が身内の事ながら恥じ入るしかないよ」
「そんな事言うならあんたも働いたらどうニャ。そもそも何でこんな窓際に左遷されたニャ?」
「ああ。麻特の巡査が見つけた麻薬を懐に入れて横流ししててな。
麻薬の売人を殺して薬を奪ってたらしいんだ。
そいつを告発しようとしたら、俺は黙らされて島流し。
事件はなあなあになって、その巡査も死んじまっ・・・」
そこまで話してシュワルツが我に返る。
「すまん、今のは聞かなかったことにしてくれるか? 互いに広めても益のない話だ」
・・・ま、いいだろう。みんなもそうしてくれ。
不承不承みんなも頷いたが、ティルだけは別だった。
「ふざけんじゃないニャ! ちゃんとキッチリ見つけ出して罰を与えるのがあんたらの仕事・・・むがむが」
まあまあその辺にしておけ。みんな気持ちは同じだから。
「うー」
「・・・」
ティルをなだめていると、ふとシュワルツの目に気付いた。
一瞬だけだがその目にいぶかしげな表情が浮かび、すぐ消える。
これは、幻影の中身に気付かれたかな。
ティルだと言う証拠はないが、この状況で正体隠す必要のある人間なんて一人しかいるまい。おじさんが切れ者と称したのは嘘じゃなかったし、まんざら錆び付いてるわけでもなさそうだ。
「それで話は戻るが、『飛竜殺し』さんはこのしがない窓際に何をさせようっていうんだい? 自慢じゃないが、今の俺にはろくな権限も情報もないぜ」
権限はともかく情報はどうかな?
今までの話によどみなくついてきた以上、それなりのコネはまだ持ってるだろう。
「買いかぶりってもんだよ。暇なもんでね、世間話しかすることがない」
おとぼけも堂に入ったもんだな。
「韜晦してるって? まさかだね」
韜晦(とうかい):つつみくらますこと。詳しくは究極超人あ●る第一巻166ページ参照。
「なんだって?」
いやなんでも。
取りあえず捜査中止ってのは間違いないんだな?
「ああ。後任が任命されてないんだから、事実上中止って事に・・・」
なら、内務省の警邏が改めて捜査しても問題ないな?
「っ!?」
シュワルツの顔がこわばった。
例の公開処刑未遂のあれこれで、俺が内務大臣と近しい関係なのはよく知られている。
そうでなくとも、命の恩人に頼まれたら無下にはしないだろうってのは子供でも分かる理屈だ。
窓際刑事のこめかみには、今や油汗が浮き出ていた。
「いやいやいやいや、知らないだろうが省庁間には色々ナワバリってものがあってな・・・」
殺人事件なら警邏の担当だし、そもそも麻薬関係の事件を警邏が追ってはいけないって法もない。
麻特はあくまで警邏とは別枠で麻薬事件を追う部署であって、警邏の捜査を妨害する権限はない。シル、違うか?
「その認識で問題ないんだよ。
更に言えば警邏と麻特が同じ事件を捜査することも禁止されてはいないんだよ。
50年ほど前にそれについて麻特が正式に抗議したこともあるんだけど、当時の国王陛下が直々に問題ないと裁定を下しているから、これに文句をつけたかったら今の陛下に直接御裁定を仰ぐしかないんだよ」
「ぐっ・・・!?」
絶句するシュワルツ。にっこり笑うシル。判例にまで通暁しているとは、さすが法律方面では無敵の女である。弁護士にでもなったらさぞかし大成したろう。
実際我が村の行政書士や司法書士相当の業務に関しては完璧にこいつのワンオペで、ケイトーですら口を挟めない。
まあ
まあそういう事だから考えておいてくれ。
あんたにも立場があるだろうし、すぐには返事出来ないだろう。
また明日来るからその時に返事をしてくれ。いいな。
そう言って俺は立ち上がる。
「わ・・・わかった」
シュワルツにできたのは、力なく頷くことだけだった。
>韜晦(とうかい)
究極超人あ~る及び機動警察パトレイバー参照。