全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
その朝、九時半くらいに俺達は麻薬特捜局を再び訪れた。
「シルヴェスター警邏隊長ですか? そう言えば見てませんね」
「珍しいわね。いつも定時三十分前には登庁してるのに」
受付やプロレスラーのおばちゃんから話を聞いて、一応資料編纂室も確認したが誰もいなかった。
少し気になるな・・・。あいつの家を教えて貰えるか?
「職員の家を軽々しく教えられる訳ないでしょう。
あなたが身分のある方としても、部外者に教えるものではありません」
うーん、正論。
少なくとも大半の麻特局員はまっとうらしい。
しかしそれじゃ困るんだよなあ。アル猫、ゴーだ。
「頼み事には代償がつきものニャ。『瓶の中の悪魔』で一杯飲ませるニャ」
この前そこで殺されかけたばかりだが、命が惜しくないのかな?
「酒は命と同じくらい大事ニャ! ・・・痛い痛い痛いニャ!?」
こめかみに梅干しぐりぐりされたアホ猫が悲鳴を上げる。
痛くしてるからな、当然だ。さあ行け。
「おーぼーニャ・・・これだから貴族はろくでもないニャ。
きっとニャーのこともいずれ奴隷にしてエロメイド服着せてご乱行するつもりなのニャ」
さっさと行け!
尻を蹴飛ばして放り出したら五分でシュワルツの家を聞き出してきた。
ホント、この性格さえなければ凄腕の女捜査官になれるだろうに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
場面は現在に戻る。
シュワルツは燃えた家の前で呆然と座り込み、近所の人達が彼の母親を探している。
ちょっとどいて貰えるか。魔法で瓦礫を取り除いてみる。
そう言うと彼等は戸惑いながらも素直に退いてくれた。
ジューニャ、やってくれ。
「はい」
短杖をついっと掲げると、瓦礫や燃えかすが宙に浮く。
「おお・・・」
「魔法だ・・・」
驚きと畏怖のささやきが広がる中、俺は波動感覚で木材でも石でもない何かを探す。
しばらくして灰と瓦礫の中から掘り出したのは、小柄な女性の焼け焦げた遺体。
それをそっとシュワルツの前に置く。
しばらくして、すすり泣きがその場に響いた。
近所の人から話を聞くと、昨夜シュワルツは珍しいことに夜通し飲み明かし、朝帰りだったそうだ。それで帰ってきたらこの有様で、まだショックから立ち直れていない。
近所の人達も気の毒がって、そっとしておいたら俺達が到着したと言うことだ。
局長との会話を考えるに、やけ酒でも飲んでいたのかもしれん。
それが彼自身の命を助けたのだと思うが・・・こうなってしまった一因が俺達にもあるかと思うとやりきれない。
しばらくすると近くの番屋から警邏たちが到着した。
指揮を執るのは横柄そうなおっさんだったが、ジョンおじさんの名前を出すと、態度が目に見えてへり下ったものになった。
麻特絡みの犯罪かも知れないと言うと、顔を思いっきりしかめる。
やはり難しいか。
「それは・・・はい、その通りです。
もちろん放火となれば我々の管轄ではあるのですが、麻特絡みだと余り踏みこんだ捜査はできず・・・一介の警邏隊長に申し上げられるのはこの程度です、はい」
油汗を拭きながら謝る隊長。
これは暗にジョンおじさんに持ち込んだ方がいいと言ってるんだな。
わかった、ありがとう。
おじさんのところにはもうレイを走らせてあるが、直接話しに行った方が良さそうだな。
シルはここに残ってシュワルツを助けてやってくれ。警邏とのやりとりとかあれこれ手続きとか必要だろう。金が必要なら俺が出す。
タチバナ(=ティル)はここで聞き込み。アーザックとエフティはタチバナ及びシュワルツの護衛。ジューニャとロビンは瓦礫の片付けの手伝い。フジはついてこい。走るぞ。
「かしこまりました」
シルたちが頷くのを確認し、俺は全力のバネ足で内務省に駆け出した。
内務省に到着すると、レイはまだおじさんと話しているところだった。
「若様」
「カエラか。今話を聞いていたところだ。また何かあったかね」
やって来た警邏と話したんですけどね、事が麻特絡みとなると現場裁量だけではどうしようもないと。
報告だけじゃなく、おじさんに詳しい事情を話して動いて貰った方がいいんじゃないかという話になりまして。
「そうなるかな・・・シュワルツ本人の身の安全は?」
エフティとジューニャをつけてます。
それに昨日連れて来たコンドル獣人のアーザックも秘印級ですから、そうそう危険はないでしょう。ロビンにしても剣士級くらいなら相手取れますし。
「そうか。
しかし彼のお母さんがなあ・・・」
溜息をついてこめかみを揉むジョンおじさん。
そう言う経験は恐らく何度もあるだろうが、慣れるものでもないんだろうな。
こちらの干渉によってこんな事になったかも知れないと考えると尚更だ。
俺も溜息をつく。
気がつくと、おじさんが正面から俺を見ていた。
「カエラ」
はい。
「何を悩んでいるのかはわかるし、難しいのも分かるつもりだが、余り気に病むな。
悪いのは犯罪を隠蔽し、そのために人命も奪うような人間のクズどもだ。
決してお前ではない」
・・・はい。
大きく息を吸った。
ばしん、と両手でほっぺたを叩く。
よし、気合が入った。
それでですね、おじさん。
「うん」
おじさんの顔がほころんでいる。
多分後ろに控えるフジとレイも同じような顔をしているのだろうなと言う確信があった。
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それじゃ全面戦争に踏み切ると?
「シルも言っていたのだろう? 法的に私たちの捜査を禁じるいかなる根拠もない。
麻特が関わっていようといまいとな。今までは紳士協定を結んでいただけだ」
おじさんが実にいい笑顔である。
・・・実は結構腹に据えかねてました?
「あの獣人の娘も言っていただろう。獣人も人間も愚かだ、アホだとな。全く同感だよ。
そしてそう思うならば行動に繋げなければ意味がない。
サムライの教えでもそう言うんだろう?」
知行合一、ですか。まあ確かに。
「それにだな、カエラ」
ん?
「私だって怒ってるんだよ。売人とは言え誰かが殺され、まじめな巡査が生死の境をさまよい、事件に関係ない友人の母親までもが殺されたことにな」
怒りを浮かべた笑顔。
俺達も真剣な顔で頷いた。
>知行合一
「知識(倫理)と行動を一致させろ」という意味の儒教の陽明学の言葉。
一言で言うなら「わかってるならやれ」ということ。
ゴブリンスレイヤー作者の「鍔鳴りの太刀」の元ネタかつ「悪死」で有名な古のゲームブック「サムライの剣」でも重要なキーワードとして登場する。