全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

127 / 128
第十四話 死んだはずだよ、お富さん

 売人を殺して麻薬を奪い、それを横流ししていた麻特の巡査。

 それが生きていて外を歩いていたとなると・・・間違いはないんだな?

 

「何度も尋問したからな。忘れろったって忘れられないよ。

 最初護衛に言伝を頼んで自分で尾行しようとしたんだが止められてな。

 幸い尾行は護衛の一人が代わってくれたから、もう一人に護衛して貰って、こうして直接閣下に話しに来た訳だ」

 

 尾行の方はまだ?

 

「うむ、まだだ。本来なら連絡のために尾行は二人で行うのが鉄則だが」

 

 この状況じゃ仕方ないですね。

 シルの使う心話の術や、双子の《加護》がどれほど便利であることか。

 そう言えばその事件って何年前の話だ?

 

「八年前だ。ついでに言えば俺が島流しにあったのもな」

 

 ふーむ。その間そいつはどこで何してたんだろうな。

 

「さあなあ。さっき見たときは貧民街にいても違和感の無いような格好をしていたが」

 

 内務省のセーフハウスだったな。目撃されたのはどのへんだ?

 

「ゴッサム通りの南端の辺りだ。南に向かって歩いて行ったよ」

 

 城壁外街区の南西の方、獣人街からも遠くない辺り。

 貧民街とは言わないが、それほど治安の良くない場所である。

 

「セーフハウスは表通りに面していないんだが、裏通りをキョロキョロしながら歩いて行ったから、正直死んだ男でなくても怪しいと思っただろうな」

 

 なるほど、さすが切れ者警邏。目の付け所が違う。

 

「・・・実はあいつは新人時代俺が面倒見たんだ。

 周囲を警戒するときは首をキョロキョロ動かすな、目線だけ動かせって口酸っぱくして教えたのにな」

 

 シュワルツのむすっとした顔に笑いが漏れる。

 まあプロフェッショナルってのはそういうもんか。

 ひとしきり頬をゆるめた後、おじさんがまじめな顔に戻る。

 

「実はな、警邏でも南西の方の街区が麻薬の流入ルートじゃないか?って話は前々から囁かれてた。麻特の方でも力を入れてるようだが・・・どうだ?」

 

 シュワルツも真剣な顔になって頷く。

 

「ご推察の通りですよ。明らかに南西の街区を中心に麻薬が流れ込んできてます。

 麻特も拠点をいくつも作ってますが、いっこうに成果は上がってない。

 どこからか運び込んできてるのは確かですが、その元がわからない。

 むしろ獣人街に対する焼き討ちを防ぐために人員が駆り出される始末だ」

「あったなあ」

 

 おじさんが顔をしかめた。

 ちょくちょくあることなんですか?

 

「私が警邏に入ってからだと五回ほどかな。

 ここ二十年は最悪でも柵が燃えるだけで済んでいるが」

 

 獣人たちが人間を毛嫌いする訳だ。

 アーザックがいたらもう少し詳しい話を聞けたんだろうが。

 ティル? あいつがこんな事に興味を持つ訳ないだろ。

 閑話休題(それはさておき)。

 

 しばらく待たせて貰って、さすがにそろそろ帰ろうかと言う時に続報が飛び込んできた。

 ただし予想外の方向から。

 

「申し訳ありません、若様! ティルさんを見失いました!」

 

 あの馬鹿猫ぉぉぉぉっ!?

 

 

 

 レイと共に俺とフジは内務大臣の執務室を飛び出す。

 おじさんとシュワルツがかくーんとアゴを落としていたが、対応してる暇はない。

 見失ったのはどこだ!

 

「南西の方です! 『瓶の中の悪魔』亭からもそう遠くない所で!」

 

 俺は番屋に走る!

 フジはジューニャ達のところに! レイはニシカワの屋敷に走って、影の一族を動かせるだけ動かせ! あの女(ゲルタ)が何か言ったら内務大臣からの要請と言っておけ!

 

「「はっ!」」

 

 そのまま内務省の門前で俺達は三方に別れた。

 

 

 

 南西の城壁外街区。

 そこの警邏の駐在所が今のシルの仕事場だった。

 あちこちから押収した書類やら裏帳簿やらを精査し、そこから情報を読み取る。

 この手の仕事はシルの独壇場で、一緒に詰めてる内務省の財務関係の人たちもただの助手扱いである。

 だがそれもちょっと中断してもらわなきゃならん。

 シル!

 

「あ、カエラちゃん!」

「カーヴェ! すまねえ!」

 

 顔を合わせるなり謝ってくるエフティ。

 護衛の必要のあるシルとティルをまとめて、俺以外では一番腕の立つエフティと連絡係にレイをつけたのだがこのザマである。

 アーザックはあれで聞き込みにも適性があるので、魔法使いで嗅覚強化出来るジューニャ、魔道具に強いロビンとまとめて現場調査だ。

 ともかく謝ることはない。どうせトイレに行くとか言って窓から逃げ出したんだろう!

 

「よくわかるんだよ」

 

 あのアルカスがやりそうなことだからな!

 ともかくあれだ、シル! 《明晰(クリア・マインド)》を!

 そう言う訳だ、番屋に詰めてる警邏の諸君! しばらく外に出ててくれ!

 決して中を覗こうとするんじゃないぞ!

 

「わ、わかりました」

 

 警邏の連中があたふたと外に出る。昔話だと絶対覗かれて鶴が飛んでいくパターンやな。

 なのでエフティは外で覗かれないよう見張っててもらう。

 追加で来てた内務官僚たちも追い出すと、中空に無数のそろばんが出現。

 それなりに広い番屋内部にぎっしりと詰まったそろばんが、一斉にバチバチと玉を鳴らし始めた。

 シルの《そろばんの加護》の奥義の一つ、無限珠算。この能力を用いれば、普通数時間かかる《明晰(クリア・マインド)》の演算が数分で済む。

 

「《明晰(クリア・マインド)》!」

 

 よし! 来たぞ!

 

「言われるままに掛けちゃったけど、何するつもりなんだよ?!

 こんな街中で波動陣なんか使ったら・・・」

 

 いや使わんて。

 最大限に解放された能力を使って発動するのは・・・

 

「そうか、波動感知! それがあればあのダメ猫の場所を超広範囲で探せるんだよ!」

 

 その通り! でも俺の決めセリフを取らないで欲しかったかな!

 全力波動感知!

 

 その瞬間、今までとは比較にならないレベルで広範囲がモノトーンのワイヤーフレームになる。

 外にいるエフティや警邏たち、その周辺の通行人、家の中の人々までが明確に感知され、それらの情報をよどみなく脳が処理する。

 これなら・・・見つけた!

 範囲ギリギリ、西南西に一キロほど! 赤い塗料が禿げた集合住宅!

 やっぱり敵方に捕まってやがる!

 

 お、北東の方からアーザックたちが走ってきてるな。

 エフティ、連中山猫(ワイルドキャット)通りを通ってるから合流して案内してくれ。

 シルはここで待機、エフティ達と合流して現場に!

 

「気を付けてなんだよ!」

 

 わかってるさ。常在戦場だ。




タイトルは昭和前期の名曲。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。