全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第十三話 ブドウ畑でつかまえて

「全員クロですね。名前の上がった娘たちは一人残らず行方をくらましてますし、親元にも戻ってません」

 

 二日後、調査を頼んだタチバナはそんな話を持ち帰ってきた。

 ロウには隊商の方を頼んであったが、そっちは?

 

「隊商――」

「――ですか?」

 

 双子が首をかしげる。そう言えば別件でお前らいなかったな。

 まずあそこと独占的に取引してるのはマリネスキー商会の隊商だ。

 隠匿した女の子使って何かやってるならその「成果物」をどっかに卸してるんじゃないかと思ってな。どうだった?

 

「若様のカン、大当たりですよ。定期的に修道院から荷物を受け取ってます。最後のは半年前。送り先は別ルートなんでまだわかりません」

 

 荷物というとなんだ?

 

「隊商の人間はワインだと聞かされてたみたいですね。20樽、瓶にして6000本くらいですか。

 どうも定期的に出荷してるみたいです」

 

 6000本? フジ、タチバナ、あそこにそんなでかいぶどう畑あったか?

 

「ありません」

「畑自体はそれなりですがブドウ畑は申し訳程度のもので、年に作れて一樽でしょう」

 

 つまり、少なくとも真っ当なワインではないってわけだ。

 この取引、関わってるのは誰だ? まさかシルの親父さんが?

 

「そこまではわかりません。確実に関わってると思われるのはアレン・ベグイル。

 聞き覚えがおありでしょうが、マリネスキー商会の大番頭です」

 

 これは・・・

 

「かなりがっつりと――」

「――かかわってますね」

 

 最悪本当にシルの親父さんが関わってる可能性があるか。

 さすがに知っててそんな所に実の娘を放り込まないと信じたいが。

 

「それは今考えてもしかたないでしょう。

 まずはシル様をはじめとする方々をお救いする策を考えましょう」

 

 ・・・そうだな。どういうタイミングでやるかはわからないが、前からもう半年も経っているんだ。明日にでもまた起きないとは限らない。

 全員が大きく頷いた。

 そうとなったらまず下準備だ。しかし、シルの話によれば五十人からいるわけで・・・

 ロウ、魔力結晶を今すぐ揃えて欲しいと言ったらどれだけ揃えられる?

 

「魔力結晶ですか? ブリーシン商会にツテがありますから、金さえあればそれなりに」

 

 そう言えばガーデナー氏に防腐処置やらせてたときに魔力結晶持たせてたな。

 ともかく魔力結晶とはダンジョンで怪物を倒すと落ちる、名前通りの物体である。

 ダンジョンのモンスターは基本魔力で構成されているので、倒すとその魔力が凝固して結晶になるのだ。

 名前の通り魔力の塊なので魔術や《加護》を使うさいの魔力消費を肩代わりしてくれるし、マジックアイテムのエネルギー源になったりもする。

 古代の真なる魔法文明時代の遺物が現役で動いているところは意外と多いのだ。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 三日後。

 俺達は準備を終えてフォルヴァン修道院に戻ってきていた。

 もう少し早く戻って来れれば良かったんだが。

 

「落ち着いてください、若様。息子たちによればシル様たちはまだ無事ですし」

「何だかんだ言ってシル様のこと大事にしてるんですよねえ」

 

 おいそこニマニマするんじゃない。

 ほっぺた引っ張るぞ。

 

「はいはい、申し訳ありませんでした」

 

 心がこもってない!

 ともかく前回同様、夜になってから透明化して潜入するぞ。

 

「了解です」

 

 

 

 みんなが寝静まる真夜中すぎを狙って俺達は潜入する事にした。

 「忍び入るならタイガーの時」というのは影の一族に伝わる家訓の一つ。

 日本風に言うなら「寅の刻」つまり午前二時。この時刻が人間が最も深く寝入る頃なのだそうだ。

 それに備えて俺達は交代で仮眠をとっていたのだが・・・。

 

「若様! 母様! シル様たちが連れ出されたそうです!」

 

 午後九時頃、血相を変えた双子の弟の方、レイに俺達は叩き起こされた。

 ヒョウはいない。珍しく一人でいるのにはわけがあって、こいつらの《双子の加護》は数キロ程度なら離れていても通じるのだ。

 つまり今ヒョウは火口の外輪の上から修道院を監視しており、その思念を飛ばしてレイに急報を伝えて来たわけだ。

 

「かく乱で構いません、ヒョウに囮をやらせなさい」

 

 厳しいタチバナの声。

 すまんな、ヒョウに俺からも頼むと言ってくれ。

 

「はい。必ずや時間を稼いでご覧に入れます」

 

 レイが頭を下げた。ああ、信じてる。

 フジ、タチバナ、レイ、急ぐぞ!

 

「「「はっ!」」」

 

 三人の声が揃った。

 

 

 

 夜の山道を、俺達は飛ぶように駆ける。

 時速180kmとは言わないまでも、それに近いレベルで走るフジたち。

 で、俺はどうかというと。

 

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 この三人にしっかり食らいついていたりする。

 

「若様――なんで俺達について来れてるんです!?」

 

 《波の加護》の肉体活性化に加え、足の裏から波動を放射して地面との間に斥力――いわゆる反発力を生み出しているからだ。多分クーロン力とかそう言う奴(適当)。

 つまりあれだ、足の裏にバネがついてるようなもんだ。バネ足ジャックだ。リアルの生物で言うとカンガルーもそれに近い方法でぴょんぴょん跳ねながら高速移動が出来る。 

 

「そうですよ、兄様。カエラ様はすごいんです」

 

 何故かドヤ顔のフジ。

 まあそれはどうでもいい。間に合ってくれよ――!

 五分余りで俺達は山道を踏破し、頂上の修道院に到着した。




>バネ足ジャック
実在の?都市伝説。1837年ごろにロンドンで何件かの事件を起こしている。
日本では藤田和日郎の漫画で有名。
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