全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
セーフハウスに戻るまで二人とも口を利かなかった。
手の中には父と母の肖像。
戻ってからも俺の空気に何かを察したのか、積極的に話しかけてくる奴はいなかった。
普段ならこう言う時こそ話しかけてくるのがフジとエフティだが、この二人は一部始終を見ていたから、何か言うはずもない。
結局その日は、眠りに就くまで溜息をつきながら肖像画を眺めて過ごしていた。
真夜中。
女たちを起こさないよう、そっとベッドから身を起こす。
もちろんフジやタチバナほどではないが、俺も隠密の初歩くらいは学んでいる。
窓から差し込む月明かりの中、足音を立てずに食堂へ。
確かここの隅の食料庫に・・・おや。
草木も眠る丑三つ時に、食堂に忍び込む影一つ。
こっちには気付いていないようだな。
そのまま見ていると影は四つん這いで食堂の隅に忍びより、床をガタガタやり始めた。
ふたが開かないのか、後ろに忍びよる俺に気づきもせず熱中している。
おい、何をやってる?
「ニャ~~ッ!? むがもごもが!」
後ろからつつくと、やはり大声で悲鳴を上げそうになったので、さっと口を塞ぐ。
波動感覚で周囲をサーチ・・・起き出した奴はいないようだな。
しばらく暴れた挙げ句、口を押さえてるのが俺だと知ってダメ猫は大人しくなった。
この夜中に何をやってるんだ・・・って、まあ愚問だな。
「にゃ、にゃんの話ニャ? ニャーはちょっと夜中の冒険を・・・」
ほう、床下に隠した酒を盗み飲みしようとするのがお前にとっての冒険な訳だな。
よーしわかった。お前のおふくろさんにその旨伝えて判断を仰ごう。
「お許し下さいカエラ様! ニャンでも言うことを聞きますのでどうか!」
ん? 今何でもするって(ry
まあこいつに何かして貰っても困るし、普段なら弟に伝えて適宜処理して貰うところだが今夜だけはそう言う気分じゃない。
「ンニャッ?」
手を伸ばして重い蓋を開け、中に入っていた酒瓶を二、三本取り出す。
飲みたいんだろう? 付き合え。
「ニャー・・・にゃ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
真夜中の食堂で、月の光だけを
最初はこいつも「何があったのかニャー?」などと聞いて来たが、すぐに黙り込んだ。
何だかんだ相手の気分を読み取る能力は高いらしい。
そのまま更に杯を重ねる。
最初の瓶が空になったあたりで、ふと口を開く。
そう言えばお前、両親とは仲が良いのか?
「フツーかニャ。とーちゃんはいつでも優しいけど、かーちゃんは怒ると鬼のように怖いニャ。あれは猫じゃなくて血に餓えた虎だニャ」
雌虎が一番恐ろしいのは我が子を守るときだそうだがな。
ただ、あのおふくろさんだと何となく想像はつく。
「だニャ? そうだニャ!? 普段はチョーシいいけど、怒るとえげつなく人の心をえぐってくるのニャ! 猫がネズミを前足で押さえていたぶるのにそっくりニャ!」
虎なのか猫なのかどっちなんだ。
「それにアーザックには滅多に怒らないのに! ニャーはしょっちゅう怒られてたニャ! ニャーは愛されてないのニャ!」
それはお前が問題を起こしてるだけだ(断言)。
「~~~っ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ猫を適当にあしらい、杯を干す。
ぶつくさ言えるのも今のうちだ。さっさといい男見つけるなりなんなりして、親孝行の一つでもしとけ。
「にゃ・・・」
そう言うと何故かダメ猫は黙り込んだ。
一杯飲み干してからじっとこっちを見てくる。
「おかーちゃんがいなくて寂しいかニャ?」
今度は俺が黙り込む番だった。
・・・そうだな、多分お前の言う通りだ。
タチバナがいてくれたものの、俺にとって「母親」って言うのはあの継母だったんだ。
その「母親」が物心ついたときから俺に敵意を向けてきた環境って言うのは・・・そうだな、辛いとか苦しいとかもあるが、やっぱり寂しかったんだと思う。
父親役はじいさんが務めてくれていたが、やっぱり両親が欲しくなかったと言えば嘘になる。
不思議なもんだ。今までこんな事、考えた事もなかった。
タチバナやフジやヒョウやレイがいれば十分だ、って思ってたはずなのにな。
「にゃはは、人間そんなもんニャ。
誰だって自分で気付いてない本音ってものがあるのニャ。
そーゆーの吐き出すと結構スッキリするニャ?」
ああ、スッキリしたよ、ありがとう。
多分、フジやタチバナ相手じゃここまで素直に口には出せなかった。
無関係な人間だからこそ吐き出せる本音ってあるんだろうな。
「なんニャ?」
なんでもない。
ご褒美に出してある酒は全部飲んでいいぞ。
「ニャッ!? 本当かニャ!」
うむ。インディアン嘘つかない。
・・・じゃなかった、武士に二言はない。
「前々からカエラんは後光というか神々しいオーラがあると思っていたニャ!
便所に飾ってある
こいつは・・・ああもういいよ、何とでも言ってくれ。
じゃあおやすみ。お前も適当なところで寝ろよ。
「これ全部飲んだらニャ!」
言うと思った。
肩をすくめつつ俺は寝床に戻る。
翌朝、フジたちに酒臭いと睨まれたのは言うまでもない。
なお食堂に向かったら、床下に残ってた十数本の酒瓶が全部カラになっているのが発見された。
確信犯で目をそらすクソ猫が「カエラんが残り全部飲んでいいって言ったニャ!」と言い張り、俺のアイアンクローで顔面を粉砕されるのだがそれはまた別の話。
その後俺も「飲んだくれに言質を与えるんじゃない」とフジやシルから説教を食らったのだが、これ俺が悪いのかなあ?
「ムーンリット」は「月明かりの下で」くらいの意味。
>
消化器官の働きを研究していた魔術師だったが、何故か便所の神様として親しまれている。