全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
第十八話 追跡
「やってやるぜ!」
――「超獣機神ダンクーガ」――
それから数日。
シルが時々裏帳簿を掘り出したり、怪しい金の流れを見つけた以外は何もなく過ぎた。
俺もやることがないので刀の手入れをしたり、カードゲームや将棋で暇を潰すくらい。
そんな中で日が暮れてそろそろ夕食という頃に向こうに配置していたヒョウからレイに連絡が来た。
「若様! 例の汚職警邏をつけていった先、郊外の倉庫に大量の荷物が運び込まれたとのこと!」
麻薬か?
「わかりません。捜査本部長は出動を要請すると」
よし、全員出るぞ!
シュワルツとシル、ティルもだ!
「姉さんもか?」
場合によってはその場で尋問の必要が出てくるかも知れない。
どのみち護衛に戦力を割かないといけないんだ。
まとめて動いた方が効率がいい。目も多いしな。
ジューニャが《鎧》呪文を掛けておけば滅多な事にはならないだろう。
「そうだな、わかった」
ジューニャ、出る前にティルに幻影をかぶせておいてくれ。
「わかりました」
いくぞ!
「はっ!」
フジたちの返事を背中に聞き、俺は勢いよく扉を開けた。
「え、殴り込みじゃねーのか?」
お前は何を言っているんだ。
走りながらきょとんとするエフティに思わず真顔で返す俺。
「重要なのは麻薬の中継地点ではなく、麻薬の供給ルートです。
中継地点を潰しただけでは、新しいルートを造って麻薬が流れ続けるだけなので。
麻薬らしき荷物を運んできた連中は既に母と兄が追跡していますので、私たちは後を追って合流、そこから更にルートを辿ります」
「理想は根っこから枝葉まで一網打尽にすることなんだよ」
「なるほど、今回は強襲じゃなくて偵察なんだな」
あーなるほど、と頷くエフティ。こいつ勉強は苦手だが地頭は悪くないのだ。
そう言う訳だからお前に期待するとしたら戦闘力以上に飛行とか暗視とかの偵察能力だ。
まあ
「どれくらいの可能性でしょう?」
わからんが・・・半々くらいな気もするな。
可能な限り隠密は維持する。全員気を付けてくれ。
「了解なのニャー」
特にお前に言ってるんだぞ、ダメ猫。
メットー郊外の倉庫街。ぽつぽつと灯る街灯の明かり以外は真っ暗闇だ。
余談だが作者は東京出身ゆえ、地方都市に出張したときに夜の街路の暗さに衝撃を覚えた記憶がある。
街灯って十メートルおきくらいに存在するものじゃなかったの!?
昔は貧民街だったところを、区画整理と雇用創出で街を取り壊して新しく倉庫を造った場所だ。
住んでた連中を倉庫番として雇ったはいいんだが、貧民街に住んでた連中だから犯罪に手を染めてるものも多くて、結果的に犯罪の温床になってしまっているところがある、とおじさんが頭を抱えていたのを覚えている。
倉庫街には入らず、その手前で捜査員と接触。
どの倉庫に入っていったか、タチバナとヒョウがどの道を追いかけていったか、情報の突き合わせをしてから二人の後を追う。
まあルート自体はヒョウからリアルタイムで伝達されてるのでさほど問題はないのだが。
よし、追うぞ。ジューニャは嗅覚強化、エフティはフクロウかなにかで暗視、俺は波動感覚で周囲をサーチして移動する。
俺は集中しているから咄嗟の時はフジが指揮を執れ。
行くぞ。
道は森に入り、やがて山道に変わる。高速移動出来ないメンツを吹き流し状態にして斜面を駆けのぼっていくと、先頭を走っていたレイが止まるよう身振りで指示した。
「ちょっと待って下さい」
道ばたにかがみ込み、無造作に転がる小石を確認する。
「若様、印がありました。この道で間違いありません」
よし。俺は頷く。
ニンジャの符丁という奴である。
小石や枯れ枝を組み合わせて、「この道を行け」「この先危険」「右に曲がれ」など特定のメッセージを伝えるのだ。
ヒョウから逐次ルートは伝わってくるので間違いないとは思うが、それでも確認は大事だ。
「うーん」
どうした、ジューニャ?
「この森、かすかですけど魔力が漂っているんです。
こう、エルフの森に掛けられてた『迷いの森』の術にちょっと似てる気が」
ふむう・・・ひょっとして今までルートが判明してなかったのはこれのせいもあるか?
まあ考察は後でいい。今はタチバナたちとの合流を優先だ。
「了解です・・・が、この先は少しまずいかも知れません。
深く長い谷があって、そこに吊り橋がかかっています。十人ほどの見張りがいるとか」
メットーの西には山があり、北西から南に向かって川が流れている。
前回誘拐されたロビンが馬車ごと落とされそうになったのと同じ川だ。
深いってどれくらいだ?
「下まで50m、向こう岸までもそのくらいだそうです」
それで見張りが十人か。すり抜けるには辛いな。フジたちでも飛び越せるかどうかギリギリだ。
タチバナたちはどうやって抜けたんだ?
「母の術で透明になって吊り橋を渡ったそうです」
・・・つくづく透明の術って反則だよなあ。
「影の一族が忍びとして優秀な理由が嫌と言うほど分かるんだよ」
溜息をつく俺とシル。
一方でフジとレイは苦笑している。
一族が持つ《光と闇の加護》を持たないこいつらとしては思う所もあるのだろう。
「それで、どうするんです?」
いい質問だ、引っ込み思案なのでその場にいるけど余りセリフのないロビンくん。
「どういう紹介ですか!?」
ともかく谷を越えるだけならジューニャの《念動》で全員運べばいいが・・・
ジューニャは闇の呪文とかは使えなかったよな?
「すいません・・・」
ショボーンとするエルフ。
まあこいつの場合生まれ持った素質がいびつなのがあるから、責めるのも酷だ。
「メイドちゃんはタタミをたくさん出せるのニャ?
タタミの壁を立てて、その影を四つん這いで通れば誰も怪しまないニャ」
タタミの壁が立ち並ぶ時点で超弩級に怪しいわ!
・・・ん? 壁、壁か。その手があったな。
「?」
「む?」
アルゴンは川の上流に目をやった。
彼の目は人間如きとは比べものにならない鋭さで闇を見通すことができる。
だがその目をもってしても、何かが変わったようには見えなかった。
川特有の冷たい風と匂い、森の匂いも何か変わったことがあるようには思えない。
「どうした?」
いぶかしんだ仲間が声をかけてくる。
アルゴンは首を振る。
「いや、何も。気のせいだろう」
・・・うまく行っているようだな。
ジューニャの《念動》でゆっくり峡谷を渡りながら、俺は胸をなで下ろしていた。
もちろん俺達の手札に透明化とかそう言うのはない。
ないのでどうしたかというと・・・《
静止画みたいな立体映像を出せるだけの、最下級の幻影呪文だが今回はそれで十分だった。
呪文自体は初歩だが、こいつの馬鹿魔力をもってすれば谷全部を幻で覆うこともできる。
そこで俺はだまし絵というか、橋のたもとから見える風景を再現した幻の壁を作り、その影を移動することで気付かれずに峡谷を渡ることに成功した訳である。
相手が匂いをかげるかも知れないので風下にまわり、念のために全員の周囲を《鎧》呪文ですっぽり覆って匂いが出ないようにする。
そうした工夫もどうやら報われたらしい。
対岸に渡って森の中に入ると、全員からほうっと安堵の溜息が漏れた。
ジューニャがドヤ顔しているが、まあ今回はそれだけの権利がある。
褒美に頭を撫でてやったら何かテレてた。
>やってやるぜ!
スパロボだと「やぁってやるぜっ!」って感じだが、オリジナルはこんな感じである。
ついでに言えば本編では2、3回しか言ってなくて、ほぼ次回予告専用セリフ。
>おまえは何を言っているんだ
格闘家のミルコ・クロコップが放った一言。
2004年のネタだからもう随分古くなったもんだ。