全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
結局後始末には夜明けまでかかった。
マッドとゴロツキたちの引き渡しと、引き出した供述の共有。
カプセルの中の人々を容態が急変しないよう気を付けて解放。
そんなこんなで被害者をメットーに送り出した時には既に日が昇っていた。
「~~~」
誰かがあくびをした。
俺も眠いが寝る訳にもいかない。
アーザック、ポーゴ、行くぞ。
「おう」
「ああ・・・」
硬い表情のアーザック、沈んだ顔のポーゴ。
他の獣人の面々も大体そのどちらか。
それじゃあ警邏隊長殿、俺達は引き上げる。ジョンおじさんによろしく。
「はっ、ご協力に感謝します」
敬礼を受けて俺達は城を後にする。気分は晴れなかった。
行きとは違い、三時間ほどを掛けて山道を下る。
その間、ティルを含めて誰も口を利かなかった。
こちらも大捕物のあった倉庫街を迂回し、獣人街まで更に三十分。
例の牛と獅子の二人組がまた門番をやっていた。
「おう、なんだおそろい、で・・・?」
悪いな、通るぞ。
「あ、ああ」
50人近い数と異様な雰囲気に飲まれたのだろう、二人は誰何もせずに俺達を通した。
日も高く昇った獣人街。
既にあちこちの店は開いていて、道を行く男や女たちも多い。
それらが一様に俺達から目をそらし、道を譲る。
自警団本部の前で、連絡しておいたコスタ先生と合流。
先生直属の鳥獣人四人も加えて自警団本部に入っていく。
団長室の扉をノック。
いいか、入るぞ。
「あら、カエラ卿? どうぞぉン」
失礼する。
「どうしたのかしら、こんな時間に・・・あらん」
俺。アーザック。ポゴとラバーン。そしてコスタ先生。
この五人が並んでる時点で察したらしい。
「そ、気付いちゃったってわけね。それで? 何しに来たの?」
何のためにこんな事をしたのか、黒幕は誰か、聞いておきたくてな。
「そう。何のためか、はわかるんじゃなぁい?」
まあな。あんたの目的は獣人街を守ることだ。
俺の生まれる前、二十年前まで獣人街はしょっちゅう焼き討ちや暴徒の襲撃にあっていた。
それがあの幻の城の警備を始めてから、深刻な被害は出ないようになった。
そして南西部から麻薬の流入が始まったのもその頃だ。それも絡んでるのか?
「ええ。お城だけじゃなくてメットーの外から入ってくる麻薬に関しても、獣人街を通して密輸ルートを誤魔化したりしてたわ。
奴らにとって必要不可欠な場所になれば、もっと守る気になるってものでしょう?」
シュワルツからはどうだ?
「ああ。言われてみりゃあ、麻特で南西部に色々拠点を作って戦力を常駐させるようになったのもそのころだ」
「そうねぇ。暴徒の襲撃を防ぐのに本当に役に立ってくれたわン。そこんとこマジ感謝してるのよね。
にしても、幻の城って?」
うちの先祖がな。幻の結界に守られた山中の城を攻略して、魔神の手下を退治したんだと。
多分おたくが部下に守らせていたあの城がそれだ。
「へーえ。知らなかったわ。でもそう言う事なら、黒幕については察しがつくんじゃない?」
まあな。最近やけに縁があるし。
修道院のブラッド・リーもダンジョン暴走もおじさんの処刑未遂もオークションハウスもロブスターも黒雲も、あれ全部魔神教団がらみだからな。
「モテる男は大変ねえ。アテクシも若い頃は大変だったものよ」
聞きたいような聞きたくないような・・・。
で、黒幕は分かったが具体的には誰なんだ?
「まあ察しはつくでしょ? レオドア・シェイファー。麻特の部長よ」
「クソッタレがっ!」
重い音が響いた。
シュワルツが壁を殴りつけた音。
「やめてよね、うち結構安普請なんだから・・・と言っても無理か」
悪の総統然としたマスクマンが肩をすくめる。
そりゃまじめなお巡りさんにとって、自分のところが麻薬を摘発するどころか組織ぐるみで製造流通をやってたと知ったらショックなんてもんじゃないだろう。
しかもそれで左遷されて、八年を棒に振ることになったのだから尚更だ。
「さて、それで正義の使徒たるあなたたちはどうする気かしらん?」
答えたのはシュワルツだった。
「無論、法の裁きを受けて貰う。
部下たちは自分が何をやっているか知らなかったし、カエラ卿の協力者で通せるだろう。
あんたは罪を免れないだろうが・・・」
「待ってくれ!」
声を上げたのはポーゴだった。
「団長がそんな事をしたのも全ては獣人街を守るためなんだろ!?
悪いのは俺達の街に火をつける人間たちじゃねえか!
そんな奴らが麻薬の被害を食らったからって、何が悪いってんだ!」
泣いていた。
くたびれた中年のおっさんが、辺りをはばからず泣いていた。
「なあ、カエラ卿! あんただって・・・」
「悪いわよ」
ポーゴと、そうだそうだと同調しかけていた自警団員たちを黙らせる重みがその一言にはあった。
「別に人間たちだって悪い奴ばかりじゃないし、獣人がいい奴ばかりでもないでしょ。
お馬鹿な暴徒がどうなろうとそりゃ知ったこっちゃないけど、無関係な人達が麻薬でひどい目に会ってるのよ?
それとこれとは別の話。混同しちゃダメだって昔言わなかった?」
「それ、は・・・」
無表情のシュワルツが口を挟んだ。
「罪は免れないと言ったが、重罪に問われることはあるまい。
シェイファーの罪を暴くのに協力してくれれば、司法取引で大きく罪を減じられるはずだ」
「あ、それ無理」
「なんでよ団長!?」
あっけらかんと言うヴァルト・フォッツェに兎獣人のラバーンが食ってかかるが、オカマッチョ狐はまたしても軽く肩をすくめる。
「だって、ディテクの法律だと獣人の証言に証拠能力ないんだもの。
アテクシが何を喋ろうが、シェイファーを有罪にはできないわ」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
思わず全員固まった。
そ、そうなのか、シル?
「言われてみればその通りなんだよ。ディテクの法律では、人間にしか証言をする権利はないんだよ。
妖精や獣人は人間じゃないからってことで・・・ほとんど死文化した条文だし、普通ならそのまま押し通せるだろうけど、あっちは多分それ知った上で団長たちを利用してたんだよ」
・・・なんてこった。