全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
第二十五話 三人の怒れる男達
「けものは居ても のけものは居ない」
――「けものフレンズ」――
衝撃の事実に沈黙が降りる。その中で、アーザックが何かにはっと気付いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 姉さんが殺人事件の目撃者だから危険だって話だったろう! それはどういう事なんだ?」
「断言は出来ないけど、ティルに顔を見られてるでしょ? それ自体に証拠能力は無くても、別件で逮捕出来るんじゃないかな?」
シルの言葉にシュワルツが頷いた。
「その通りだ。相手が分かるならいくらでもやりようはあるし、そこから色々たぐることもできる。そのへんで放っておけなかったんだろうな」
「くそっ・・・!」
アーザックが悔しそうに床を踏みつける。
再び降りた沈黙の中、ぱん、ぱん、と音がした。俺が手を叩いた音だ。
取りあえずこの後どうするか決めようじゃないか。
とにかく魔神教団とそれに結びついた麻特内部の勢力を駆逐し、麻薬の流れを止めることだ。
そこの肉ダルマに関しては当座そっちに任せる。
ちょっと意外な顔(覆面だが)でマッチョ狐が首をかしげた。
「あら、いいの? アテクシ犯罪者よ?」
俺も焼き討ちなんぞする連中には相応に腹が立つんでな。
シェイファーと差し違えるならまだしも、一方的にあんたが裁かれて終わりじゃ面白くない。
まあこの辺はジョンおじさんと話してからになるがな。
「そお。じゃあコスタ、自警団はお願い出来るかしら?」
眼鏡の知的ダンディ猿獣人が頷いた。
「承りましょう。ただ、しばらくはあなたが病気と言うことで、団長代理を務めさせて頂きます」
「その辺は好きにしなさいな。カエラ卿、逃げも隠れもしないから、シェイファーの首を取れるようになったら呼んでちょうだい。余り期待はしてないけど待ってるわん」
だから野太い声のマッチョがオネエ声でウインクとかしないで欲しいなあ・・・。
ティルの身柄は継続して俺達預かり、アーザックもそのまま借りていくことにする。
捕まえた連中を尋問しなきゃならんから、正直ありがたい話である。
その足で内務省に行って直接報告すると、ジョンおじさんは深い深い溜息をついた。
「そうか・・・やりきれない話だな」
どうにかして証拠を集めてシェイファーを有罪にする、と言う方向で行きたいところですが・・・どうでしょう?
ヴァルト・フォッツェも奴の首を取れるなら牢獄行きで構わないと言っていましたが。
「彼は・・・申し訳ないのだが状況証拠にしかならんだろうなあ。
麻特も法律のプロだ。シルの言う通りシェイファーの罪に関しては証拠にならないとして流されると思っていい」
ですよねえ(溜息)。
ヴァルト・フォッツェ本人の罪については証拠にされるのに不公平な話だ。
「ともかく今は証拠固めだ。ティル嬢にはあいつらの供述を取るのに協力して貰いたい」
「酒飲ませてくれるかニャ!?」
この状況で出てくるのがそれかい。
まあ仕事終わった後でならな。
「やったニャ!」
「・・・」
そこの駄エルフ、うらやましそうな顔で見てるんじゃない。
「カエラたちも引き続き捜査協力を頼む」
もちろんですよ――ひと寝入りした後でね。
それから先は・・・まあ、地道な仕事だった。
調査。潜入。摘発。尋問。
そうやって糸をたぐり、証拠を集め、新しく見つけた糸を更にたぐる。
ひたすらそんな作業の繰り返し。
ジョンおじさんの方から正式に要請して、影の一族を大規模に動員もしている。
彼等に頼んで
「あ」
お。
「十日ぶりくらいか」
フジと一緒におじさんのところに報告に向かった帰り、内務省の廊下でティルとアーザックの姉弟にばったり会った。
アーザックは内務省の中でまでマント着込んでるのか?
「まあ色々あってな。それよりそっちの首尾はどうだ?」
ボチボチだな。この前そっちに麻薬密売の元締めを送り込んだろう。
「大した事は知らなかったニャー。
単に麻薬買って売ってただけの犯罪者だニャ」
そうか・・・中々当たりは引けないな。
「まあ世の中がちっとは綺麗になっただろ」
そうだな。
立ち話もなんだ。丁度いい時間だしメシでも食わないか。おごるぞ。
そう言うとティルが目を輝かせる。
「やったニャ! カエラんのおごりで食い放題だニャ! 当然酒もつくニャ!?」
貴様はノンアルコールだダメ猫。
内務省から出る訳にもいかないので、職員食堂に四人で入りランチを注文する。
慣れないながらも丁寧に食おうとする弟。ガツガツムシャムシャとむさぼり食う姉。
ホントダメ人間だなこいつ・・・。
メインを食べ終えてデザートが来るころ、ふっと思い出した。
そういえばティルが見かけた殺し屋と、ティルと巡査を襲ったやつはどうした?
その後何か聞いているか?
「そーいえばないニャ。アーザックは聞いてるかニャ?」
「いや、俺も知らねえ。言われてみれば確かに妙だな」
なんだよな。一回位は仕掛けてくるかとも思ったんだが。
あの事件については専従のチームを組んで、ティルの似顔絵で捜査中のはずだが、さっぱり音沙汰無しだ。
「まあカエラんたちが護衛してくれてたし、襲いたくても襲えなかったのかもしれないニャ」
「魔法で姿を変えてたしな。内務省内部ではさすがに襲うのも難しいんじゃないか。
少し前に内務省内部の魔神教団の勢力を一掃したんだろう?」
まあな。
後、単に向こうがてんてこ舞いで目撃者ひとりに関わってられないという可能性もある。
あるはあるんだが・・・何か引っかかるんだよなあ。
とは言え何か根拠がある話でも無いし、それ以上続けることもない。
俺は勘定を払うと(実際に払うのはフジだが)手を振って姉弟と別れた。
なお勘定払うときに「見るからに上位貴族とわかる格好で職員食堂に来ないで下さい。一般の職員が居心地悪くなります。御用命下さればお部屋までお運びしますので」と、コックのおじさんに小声で説教された。
何でもジョンおじさんも若い頃のクセが抜けず、えらくなってもしょっちゅうここで飯を食って説教食らった事があるらしい。
まあ叩き上げの人だしなあ。
俺も身分としては一介の騎士なんで、そこまで目立つもんでもないと思うんだが。
「お前のような(魔法の刀と鎧を装備してる)一介の騎士がいるか!」
はい、おっしゃる通りで。