全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第二十六話 私は告発する

 何? 酒場の主人が消えた?

 

「ああ。親戚筋から遺産が入ったとかで、店を畳んで田舎に引っ込んだそうだ」

 

 シュワルツが頷いた。

 ティルが殺人を目撃した例の店である。

 殺害されたのでなければ、金を掴ませて追い払ったと言うことか。

 

「恐らくはな。ここで死体が出たり行方不明になったりすればそこから更に足がつくだろうからな」

 

 よくあることなのか。

 

「よくはないな。この世から消えてくれた方が楽だし確実だって奴の方が間違いなく多い」

 

 短絡的だなあ。

 

「世の中の大半の人間はあんたほど頭がよくなきゃ金持ちでもないのさ」

 

 そう言われると肩をすくめるしかない俺である。

 一方で麻特のメンバー一人一人には、終日盗賊ギルドの監視の目が光っている。

 おはようからおやすみまで暮らしを見つめる盗賊ギルドの提供でお送りしております。

 いや怖いな。

 何と言っても内部の人間であるシュワルツがこっち側だから、怪しい奴は結構絞れた。

 ギルドの人間が空き巣のふりをしてそういう連中の家や隠れ家を漁り、ヤバい証拠を見つけて写しを作ってる。

 《複写(アマニュエンシス)》という呪文があり、これを使えばコピー機の如くとは行かないが一枚一分くらいで完全なコピーを作れるのだ。

 盗賊ギルドに何でそんな呪文を使える人材がいるのかは・・・うんまあ書類仕事が多いんだろう(すっとぼけ)。

 そうしてあれこれ証拠を集めつつ、半月ほどが過ぎた。

 

 

 

 晩飯がてら、内務大臣室での作戦会議。おじさんが満足そうな顔で頷く。

 

「良くやってくれた。これでシェイファーの首を取れるだろう」

 

 よほど有力な証拠でも見つかったんですか?

 

「証拠もかなり固まってきたし、麻特の次長が協力を約束してくれた。

 無罪放免と警邏での地位を条件にね」

 

 司法取引か。

 くっ、汚い大人め・・・。

 

「そう言う事だ。悪いが飲み込んでくれ」

 

 言ってみただけでそれほど怒ってはいませんよ。

 麻薬網を見逃すよりは遥かにマシではある。

 前のダスキーニにしても、おじさんはその辺割り切りが凄いとは思いますが。

 そう言うとおじさんがほろ苦い笑みを浮かべた。

 

「まあな。元々そう言う家風ではあるが、警邏や省庁内部の権力闘争などをやっているうちにすっかりこうなってしまったよ」

 

 代々官僚の家系だからなあ・・・派閥抗争は業務のうちか。

 

「そんな所だ。ここだけの話だがジローはそう言うのには全く向いてなかったからな・・・カエラが引き取ってくれて感謝してるよ」

 

 まあ嫁さんもできたし、若い女の子が多いメットーに置いとくよりはあらゆる意味でマシでしょう。

 

「それなあ」

 

 おじさんが溜息をついた。

 なおダンジョンに来る女冒険者に手当たり次第声を掛けていたのがばれて、初孫誕生に駆けつけたおじさんとタムレインの二人がかりでボコボコにされる事になるのだが、それはもうちょっと未来のお話。

 

 

 

 周囲がざわつく。

 完全武装の警邏二個中隊百四十人と、同じく完全武装の俺達一党九人。

 それが大蔵省麻薬特捜局を取り囲んでいた。

 指揮を執るのはジョンおじさんの懐刀、タルカス・ダルズ。

 頷きあうとタルカスは手を上げ、振り下ろした。

 

「第一中隊、突入っ!」

 

 第二中隊を周辺の包囲に残し、俺達は先陣を切って麻特に突入した。

 

「なっ! なんだあ!?」

「お前達! ここをどこだと・・・」

 

 『飛竜殺し』カエラ・ヴォロディア・ヴィクトリアス・ヴァレンタイン・ニシカワであるっ!

 麻薬密輸、殺人、公務執行妨害、もろもろの容疑に付き麻薬特捜局局長、レオドア・シェイファーその他を逮捕するっ!

 

「な、なっ!?」

 

 剣を取って抵抗しようとした奴らの手が止まる。

 既に王都では俺の名は広まりきっていて、大概の人間は30mの飛竜を一太刀で屠り、公開処刑に単身(ということになっている)殴り込んだ怪物として俺を知っている。

 逆らえば斬られるだけ。

 こっちだって真っ当なおまわりさんは斬りたくないから、大人しくしててくれればありがたい。

 動かなくなった連中を最後に一睨みすると、俺は二階の局長室に向かって走り出した。

 

 

 

「ふむ。思ったより早かったな」

 

 レオドア・シェイファーは落ち着き払って俺達を迎えた。

 ・・・立ち姿に隙がない。これは暴れられたらかなり苦労するだろうな。

 

「抵抗はしないとも。する必要がないし、むしろそれを後悔するのは君達だろうからね」

 

 余裕たっぷりだな。

 まあ自分の状況を理解しているならそれで結構。

 やけを起こさず拘束されて貰おうか。

 

「無論だとも。誤解があったようだが、我々は共にディテク王国に奉仕する公僕だ。

 傷つけ合うのは本意ではない」

「連れていけ!」

 

 タルカスさんの命令に従い、警邏たちがシェイファーを拘束し、連行する。

 その後ろ姿を見ながら俺は少々複雑な気持ちだった。

 あいつ、この後の展開によほど自信があるようでしたけど、何か切り札でもあるんでしょうかね。それとも根拠のない自信?

 

「さてな。我々はひとまず仕事をした。次の仕事は次の仕事だ」

 

 ですね。

 溜息をついて俺は剣を鞘に収めた。

 

 

 

 麻特局長シェイファー逮捕。

 この情報に王都は大騒ぎになり、大蔵省は激怒して臨戦態勢に入った。

 御前会議で大蔵大臣とおじさんが盛大にやりあったが、あらかじめ根回ししていたことと、大蔵省が基本的に嫌われ者なのも含めて、判定勝ちには持って行けたらしい。

 そして逮捕した後の取り調べ、これはティルがいる以上楽に進むだろうと思えたのだが・・・意外なことに進展はゼロだった。

 何とこの男、ティルの取り調べに対しても完全黙秘を貫いたのだ。

 執務室で見かけたときも腕が立つとは思っていたが、ティルのあれに抵抗するのは生半可な精神力ではない。

 本人からの自白が取れなくて大丈夫ですか?

 

「ああ。少なくともタルカスは自信たっぷりだよ。私もいけると思う。

 ただ自信たっぷりなのはシェイファーもだ。

 何か切り札を隠していると考えて間違いないだろうね」

 

 奴の切り札について何か心当たりは?

 

「さっぱりだね。恐らくは裁判に臨席する大蔵省の官僚を当てにしてるのだろうが」

 

 御前会議でやりあった結果である。

 普通裁判は内務省の警邏がやる。時代劇でお奉行様が裁きを下すようなあれだ。

 今回は大蔵省の人間を内務省が裁くというので大蔵省が猛反発して、裁判にオブザーバーと弁護士を派遣することになったのだ。

 加えて中立である官房長官が王の代理として同席することになっている。

 

「何かやるとしたらその辺で手を回しているんだろうね。

 こちらも接触はしているんだが」

 

 俺の出番が来る可能性もありそうですね。

 

「さすがにここで仕掛けてくるとは思わないが・・・用心はしておいてくれ」

 

 了解です。

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