全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

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第十四話 私のサムライ

 全速力で走る俺達。

 700m級の山を五分で駆け上がったにもかかわらず、息を切らしている人間は一人もいない。

 レイ! ヒョウはどこだ!

 

「中庭の方です! 現在剣士級(第三級)から秘印級(第二級)の護衛五人とやりあってるとのこと!」

 

 ちっ! いくら囮とは言ってもその数じゃ厳しいな! 壁を越えてる余裕はない。強行突入だ!

 走りながら深く息を吸う。

 呼吸から生まれる「波」が俺の体を駆け巡り、収束する。

 その束ねた波動を右手に収束して、門脇の壁に叩き付ける。

 

 ガイア・インパクトォ!

 

 振動が俺の手の平から流れる。

 次の瞬間、石壁は自分の震動に耐えきれず、粉々に砕け散った。

 土起こしに使ってはいたが、本来は戦闘用の技だ。震動という性質上、固いがもろい鉱物質に効果が高い。水分を多く含む生体にもだ。常人が食らおうものなら、一瞬で血の染みになる。

 

 正面玄関の扉、部屋の扉、窓際の壁。

 障害物を砕き、一直線に突き進んで中庭。

 

「何っ!?」

「なんだっ!」

「若様っ!」

 

 驚きの声複数。五人の修道女が剣や術でヒョウを追い詰めている。

 3m先にいた術師らしき修道女がこちらに振り向いた瞬間、俺の足の裏に波動のバネが生み出される。

 

「だっ・・・」

 

 誰だ、と言おうとしたのだろう。

 その瞬間に、俺の抜き打ちの一刀がそいつの首をはねていた。

 

 バネ足ダッシュ。

 クーロン力(多分)を利用した反発力を踏み込みに応用した技。

 瞬時に距離を潰せるこれは地味ではあるが、接近戦では無類の威力を発揮する。

 今反応も許さずに術師の首をはねたように。

 

「バルザック!」

 

 剣を持った修道女が驚いた顔でこちらに振り向く。バルザック? いやそれは後だ。

 月明かりにも分かる怒りを滾らせてこちらに駈け寄ってくる女に、こちらも飛ぶように駆ける。

 一歩、二歩、三歩。その瞬間、再び発動するバネ足ダッシュ。

 まだ間合いまで数歩あるだろうと思っていたのが、一瞬で目の前にいる。

 そんな驚きを浮かべたまま、剣の修道女は首筋をはね斬られて死んだ。

 

「クソがっ!」

「ふんっ!」

 

 もう一人の術師修道女が雷撃を放つ。

 同時に地面を叩いたフジが《畳の加護》を発動させ、広範囲の雷撃から俺達を守ると同時に敵を分断した。

 たじろいだ瞬間に、タチバナの棒手裏剣がその眉間に突き刺さる。

 更に一人を俺が斬り、最後の一人をヒョウとレイのコンビネーションが仕留めた。

 息をついてポーションを飲むヒョウ。体中の傷がすうっと消えていく。

 よくやってくれた。シルたちは?

 

「母屋に連れて行かれました。恐らく地下ではないかと」

 

 よし、タチバナと双子はこっちに残って宿舎の女の子たちを連れ出せ。

 とは言えいきなり男が入ってきたら大騒ぎになるな・・・

 

「それは問題ないかと」

 

 タチバナが死体の一つに歩み寄り、手から指輪を取る。

 すると若い修道女だったものが、ひげ面のむさ苦しいおっさんになった。

 《幻影変装(ディスガイズ)》の指輪か! お高いもん使ってやがる。

 秘印級の女冒険者なんてそうそういないとは思ってたが、そうやって数を確保してたんだな。

 

「これがあれば問題ないでしょう。特定の姿に変身出来るタイプのようですし、そうなると彼等がお嬢様方に強圧的に接していたのも、むしろ利点になります」

 

 タチバナが指輪をはめると、先ほどの剣の修道女の姿になった。

 質問も逆らいもせずに従ってくれるのは確かにありがたいな。よし任せた。

 行くぞフジ!

 

「はい!」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 初めてカエラちゃんに会ったのは五つの時。

 当時既に異常な記憶力は発現していて、そのせいかわたしはとんでもなくこまっしゃくれた・・・いや、言ってしまえば家中の腫れ物扱いだったと思うんだよ。

 まあ大人でも読めないような本を四つ五つですらすら読んでたら不気味がるのはしょうがないよね。

 今だからそう思えるけど、当時はそんな事気づきもしなかった。

 当たり前だけど同い年の子供は動物みたいなもので、まともな会話は成立しないの。だからお付きのメイドのホルン以外は、学問の先生とばかりしゃべってた気がする。

 だから「お前と将来結婚する奴に会いに行け」と言われた時も、「ああ政略結婚だな」としか思わなかったし、まるで興味もなかった。

 「嫌われない程度に愛想良くするんですよ」ってホルンに言われたから、それくらいならいいかなと思ってたていど。

 

「遅れて済まない。ちょっと読書に夢中になっていたんでな」

 

 そんな考えは、最初に会った瞬間、こっぱみじんに吹っ飛んだんだ。

 呆れ顔のお姉さん(タチバナさんだ)に連れてこられたカエラちゃんが、未練がましく手に持っていたのは「史記列伝」。

 

「うそ! 史記なんて読めるの!?」

 

 史記はニホンから伝わった歴史書。ニホン人なら誰でも知ってるらしい。

 異世界の歴史書だからそういう意味では学んでも余り意味はないけど、とにかく登場人物が面白い。皇帝から貴族から、一介の商人やヤクザまで、出てくる人達全てが活き活きと描かれている。

 騎士・武士階級の人にはとりわけ人気があるし、それらを元にしたお話がいくつも作られていて、庶民にも結構知られている。

 冒険者族の、しかもサムライの家の嫡男であるカエラちゃんに対してそれを「読めるのか」ってある意味物凄く失礼な物言いだけど、カエラちゃんは怒る風もなく、むしろ目を丸くして聞き返してきた。

 

「え? お前字が読めるのか?」

「読めるよ! そっちこそ本当に読めるんだったら、好きなところを言ってみるんだよ!」

「そうだな・・・信陵君(しんりょうくん)も好きだが、やはり刎頸の交わりの藺相如(りんしょうじょ)廉頗(れんば)か? 荊珂(けいか)も捨てがたい」

「ほほう、いい趣味してるんだよ。わたしは刺客ならジョーセイなんだよ。

 恩義に報いたジョーセイもいいけど、死刑になるのが分かっていて、弟の名誉のために名乗り出たお姉さんが凄くかっこいいんだよ」

「確かに!」

 

 カエラちゃんが笑顔で膝を叩き――五歳児なのに妙に様になってたんだよ――そこからは怒濤の「史記」語りに突入した。

 呂后は凄いけどちょっとついてけないとか、「士は己を知るもののために死す」って確かにかっこいいけど結局忠誠が欲しいならお給料沢山上げようねって話でしょ?とか、韓信や張良じゃなくて蕭何を一番にした劉邦ってバカだけど賢いよねとか、ハンニバルとスキピオの会話が凄くイカすとか・・・最後のは違うか。

 

 ともかく話が凄く盛り上がって、応接間から書庫に突入して、当主様の許可も得て本の貸し借りもするようになって。

 その間、ホルンはこっそりうれし泣きしてタチバナさんに慰められてたそうだ。

 私の異常さは結構心配をかけてたらしい。反省。

 

 それから私の一番の楽しみは、カエラちゃんのところに遊びにいったり、カエラちゃんが遊びに来てくれることになった。

 同い年の子供なのに、カエラちゃんはまるで大人の男の人みたいな話し方をする。

 かと言って私を子供扱いしない。

 いや成長が遅いのをしょっちゅうからかわれたりはしたけど。

 そう、私はちょっと成長が遅いだけなのだ。そのうちないすばでーのぼんきゅっぼんになるんだからね? その辺忘れないように。

 

 ともかく、もう私は彼以外のことは考えられなくなっていた。

 それがある日、急に婚約変更を言い渡された。

 相手はカエラちゃんの弟・・・のヘルムちゃん。

 もちろん嫌いではないしいい子だけど、結婚相手としては論外。

 

 逃げだそうとして捕まり、修道院に送られた。

 ロウの奴、肝心なところで役に立たない男なんだよ。

 まあカエラちゃんの手伝いに行かせたのはわたしなんだけど。

 

 修道院に入ってからは高圧的に接されたけど、取りあえず大人しくしていた。

 必ずカエラちゃんが来てくれるって思ってたから。

 そして実際に来てくれたし、助けるって約束してくれた。

 

 だから、こうして夜中に起こされて、不安な顔のみんな達と一緒に地下に連れてこられても全然不安はない。

 気持ち悪い魔法装置の前で剣を突きつけられて、今から殺されるって言われて、他の子達はみんな泣き出したけどわたしはへいちゃら。

 

「やはりお嬢様育ちの娘はいいですねえ。体に不純物がなくて・・・おや、分かっているのですか? あなた、今から死んでしまうのですよ? 怖くないのですか?」

 

 こわくないよ。だって・・・

 そう言いかけた瞬間に地響きがして、天井が崩れる。

 右往左往する悪い人達の叫びをかき消して、彼の声がする。

 

「シル! 迎えに来たぞぉっ!」

 

 ほら、わたしのサムライがやってきた。

 




>列伝
ざっくり言うと「王でも皇帝でも諸侯でもない人達」の伝記を総称してこう呼びます。孔子先生が諸侯扱いだったりはしますが、老子が列伝枠なのでその辺は結構適当。
更に言うとこの世界ではオリジナル冒険者たちが持ち込んできてるので、源氏物語も孫子も論語も史記も椿説弓張月もシェイクスピアもプルタアク英雄伝も普通にあります。

>信陵君
魏の信陵君。
小国・魏において秦の侵攻を二度までも食い止めたが王に疎まれた悲運の英雄。

>荊珂
FGOにも出てる、始皇帝殺害に最も近づいた男。下の名前は本来「車可」。

>刎頸の交わり
ユウジョウ!
「キングダム」にも一世代前の「趙国三大天」として名前が出てくる藺相如と廉頗(こっちはキングダム本編にも登場)の話。

>ジョーセイ
じょう(耳が三つ)政。
恩義のために暗殺を成功させ、正体が露見しないように顔を切り刻んでから死んだが、姉が「無名のまま野ざらしでは弟が余りにもかわいそうだ」と名乗り出て、「みなさん忘れないでください、これは弟のじょう政です」と宣言してから自決し、弟の名誉を守った。

>士は己を知るもののために死す
晋の刺客予襄の話。
標的に気付かれて捕らえられ、「お前は三人の君主に仕えたが、最初の二人が殺されても仇を討とうとはしなかった。なぜ最後の智伯にだけ忠義を尽くすのか?」と問われ、「他の二人と違って重く用いてくれたから、その分の恩は返さねばならない」と答えたエピソード。

>ハンニバルとスキピオの会話
プルタアク英雄伝(対比列伝)の、ポエニ戦争から二十年後のハンニバルとスキピオのエピソード。
亡命してエフェソスにいたハンニバルをスキピオが訪ね、親しく語らった時に「天下第一の名将は誰であろうか」という話題になり、「一にアレキサンダー大王、二にエペイロスのピュロス、三に私ハンニバルだろう」と答えたところ、スキピオが「だが君は私に負けたではないか?」とからかった。
そこでハンニバルは「だから三番目なのだ。君に勝っていたらアレキサンダー大王をも越える天下第一の名将になっていたであろうよ」と答えたというエピソード。
クッソ好き。

ちなみにエペイロスのピュロス(エプルスのピルス)はローマ相手に戦術で圧倒しながら戦略で負けた人物であり、「ピュロスの勝利(得る物のない勝利)」という故事成句で知られる。
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