全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
裁判が始まった。
俺達は傍聴席にいるジョンおじさんの護衛という形で周囲を固めている。
傍聴席には官房長官に大蔵省の次官、正式にではないが大蔵大臣までいた。
正直大蔵省の連中にはむかついていた。
ただでさえ自分のところの取り締まり組織が麻薬の取り締まりどころか密輸に手を染めてたというのに、それを非難されたら逆ギレして組織をかばい反撃に走る。
官僚の論理ここに極まれり、だ。
おじさんが溜息をつく理由もよくわかる。
問題は麻特の連中を救うために何をやってくるか、ってところだな。
最悪魔神教団の浸食を受けてることも覚悟しなきゃならない。
かぁーん、と分厚い鉄の板が鳴らされる。
空気が引き締まった。
裁判長のタルカスさんが入廷し、裁判が始まる。
(普通なら彼みたいな高位の官僚がいきなり顔を出すなんて事はあり得ないんだよ。
内乱罪の時くらいなんだよ)
シルがそっと耳打ちして教えてくれる。いきなり高検の特命捜査みたいなもんか。
おじさんたちがこの件をどれくらい重視しているかって話だな。
国王も「罪状が本当であれば絶対に捨て置けないし、逆に虚偽であれば内務省も責任は免れない」と言ったらしく、内務省も大蔵省も必死になるのは当然か。
「それではまず第一の証人、
我が国の裁判は現代日本のそれと中世のそれを折衷したようなもので、検事も裁判官も警邏の人間だ。独立した裁判所みたいなものはないが、時代劇のお奉行様みたいに両方を一人で兼ねるよりはマシかも知れない。
一方弁護士をつける事は許されているし、弁護側が反対尋問したり弁護側の証人を連れてくることも許されている。傍聴席は一般に公開されているから、余りにも杜撰な裁判をやると国民の反発が凄い事になる。強いて言うならそれが司法の暴走に対するブレーキか。
最初の証人尋問が始まった。
反麻薬キャンペーンみたいなものを推進してる人で、取引してる売人をボコボコに殴り倒したら麻特の人間がいたというのだ。
「異議あり! それについては麻薬組織に潜入していた捜査官であり、職務執行中だったに過ぎません」
「どう見ても麻薬卸す奴と売る奴を仲介してたけどなあ?」
「証人は求められない限り発言を慎むように」
そんなジャブから始まって、登場する証人もどんどん重要度を増していく。
俺達の逮捕した麻薬組織のボスと、それと取引していた麻特メンバーの面通し。
「そ、そうです! こいつです!」
「異議あり! 状況からして彼が相手の顔を正確に覚えているとは思えません!」
「異議を却下します」
麻薬を保管していた倉庫の管理人。こいつも無論逮捕済み。
「はい、時々来ていたのを覚えています。その直後に限って大量の荷物が運び込まれていました」
「異議あり! 状況からして(ry」
「異議を却下(ry」
例の幻の城で人間からブラッド・リーを作っていたマッド。
「わしは人間から生命力すなわち魔力を抽出してブラッド・リーを作っておった」
「ブラッド・リーとはなんですか」
「古代文明で開発されたものの、禁忌とされた魔法薬じゃ。一説には魔神教団が開発したとも言われておる」
「異議あり! 開発の経緯に関しては本件と関わりありません」
「異議を認めます」
「次の質問です。ブラッド・リーをそのまま出荷していたのですか?」
「そのまま出荷することもあれば、他の廉価な麻薬や触媒を混ぜて薄め、価格の割に効果の高いアッパー系麻薬として売る事もあった。
これまでのアッパー系麻薬に比べて効果は遥かに高い上に、価格も安いという驚異的な品で、それというのもわしの長年にわたる研究が・・・」
「もう結構です。原告側、質問はまだありますか」
「いえ、これで原告の証人尋問を終了します」
同じく幻の城で戦わずして降伏したゴロツキのリーダー。
取り調べではそれはもうペラペラと、ティルを使う必要もないくらい全部綺麗にゲロったそうな。
念のためにティルに任せても全く同じ事を言ってたので多分本当。
そのおかげで証人保護プログラム(みたいなもの)を適用されて裁判の後は安全な所に送られることになっている。
司法取引ってやっぱりもにょるよな・・・。
「あなたに麻薬工場の警備を任せた人間がこの法廷にいますか?」
「ああ、いるぜ」
「指さして下さい」
「ほらよ」
「・・・・・・」
指の先で顔をしかめているのは課長級の職員。
れっきとした麻薬特捜局の幹部クラスだ。
「異議あり! この男は助かりたいがために虚偽を述べています!」
「異議を却下します。『嘘つきの卵』は反応を示していません」
「嘘つきの卵」。
うずらの卵ほどの紅い宝石で、そばで誰かが嘘をつくと赤く点滅する。
古代王国のアーティファクトとかではなく、数十年前にとあるオリジナル冒険者族が開発したマジックアイテムである。
彼の一族が継続して作り続けており、結構高価なものだが法執行機関には安く卸してるので、警邏とか裁判所には良くある。
何でも初代が向こうの世界で裁判とか冤罪でえらく苦労したらしく、「法と正義を守るために献身せよ」と家訓を残していたらしい。えらい人である。
「あなたはその山中の遺跡で麻薬を製造する手伝いをしていたのですね?」
「そうだ。主に警備だが梱包や搬出の手伝いもしていた」
「何年くらい続けていましたか」
「俺は11・・・12年かな。それより随分前からやってるようではあるが良くは知らないな」
「これで原告側の尋問を終了します」
ここで休憩が入った。
大臣室で軽食をつまみながら作戦会議。
これはうまく行ってるように思えますけど・・・どうです、おじさん?
「概ね私たちの有利だな」
おじさんが頷く。タルカスも。
「ただ、ここまでは麻特の組織的な関与を証明するには十分だが、シェイファーの関与を立証するにはまだ足りない」
そのための次長なんですよね?
「そうだ。あいつの証言を引き出せれば確実に奴を追い込める、のだが」
「見た感じでは全然動じてなかったんだよ。ジューニャ先生、エフちゃん、どうかな?」
「私の鼻では何とも」
「オレの鼻にも感無しだなあ。余裕って感じだぜ」
うーむ。
二人の超嗅覚は多少距離があっても問題なく稼動する。
屋内で風もないならなおさらだ。
「わからんな・・・何を狙っているのだ? 次は例の次長だが、そこで何か仕掛けてくるだろうか?」
「わかりませんな。今出来るのはなるべくどんな状況にでも対応出来るよう備えるくらいかと」
出たとこ勝負って訳ですね。
「まあそうだな」
おじさんたちが苦笑した。
証人として連れてこられた麻薬特捜局次長が、懐から
悲鳴の上がる廷内。警備員たちが次長に飛びかかる。
取り押さえられるより一瞬早く、次長はスティレットを突き刺した。自分の耳の穴に。
びくん、と体が震えて次長は倒れる。
ごく僅かに流れる血。
呆然と立ちすくむ警備員たち。
先ほどより大きな悲鳴が上がる。
「・・・!」
シェイファーが、満面の笑みを浮かべていた。
>高検の特命捜査
普通の犯罪は裁判所と同じく地方検察庁から捜査が始まるが、重大犯罪の場合まれに最初から高等検察庁が捜査することがある。
>ローグス
>レナード・スナート
DCコミックスのヒーロー(スーパーマンバットマンのお仲間)、「ザ・フラッシュ」に登場するヴィランチームの名前とそのリーダー、キャプテンコールドの本名。
殺しはしない、ヤクもやらない、一般人に迷惑をかけない。
ただただフラッシュと追いかけっこをするためだけに銀行を襲う人たち。
銀行の人も慣れた手つきで現金を用意して、彼らが外に出た時点で通報ブザーを鳴らして追いかけっこヨーイドン。ちなみにフラッシュは光速で走れる。
ヒーローがいない間に町を守ったり恵まれない子供達にクリスマスカード送ったりもするし、死んだと思っていたフラッシュが帰ってきたときはみんな泣いて喜ぶ。
人呼んでフラッシュファンクラブ。
ヴィラン、ヴィランってなんだ。