全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~   作:ケ・セラ・セラ

141 / 147
第二十八話 推定無罪

「静粛に! 静粛に!」

 

 悲鳴のようなタルカスさんの声が上がる。

 それでも法廷に渦巻く怒号と悲鳴、混乱は収まらなかった。

 倒れた次長。その周囲を取り囲んで呆然とする警備たち。

 顔を押さえて悲鳴を上げる女性、シェイファーに対して怒声を浴びせる男。

 我先に法廷から逃げ出そうとする傍聴人たち、呆然とする官房長官と大蔵大臣、次長。

 混乱を収めようとするが群衆に押し流される警邏たち。

 その中でシェイファーだけが笑っている。

 ついに混乱は収まらず、その日の審理は終了となった。

 

 

 

 例によって大臣室。

 

「どう考えてもシェイファーの仕業なんだよ」

 

 官房長官もそうだが、大蔵大臣と次長も呆然としてたからなあ。

 あれが演技なら大した役者だ。

 ジューニャ、死体から何か分かったか?

 

「魔力感知では何ともですねぇ・・・とは言え、強力な魔法なら多少は痕跡が残るものですが、そう言うのもありませんでした」

「ジューニャ師が感知出来ないとなると魔法的手段は除外して良さそうだな。

 タルカス、うちの検死のほうは?」

「成果なしです。薬の類は検出されませんでしたが」

 

 お手上げとばかりに肩をすくめるタルカス氏。

 まあ魔法や薬を使わなくても、人を操る手段なんていくらでもありますからね。

 

「そう言う事だ。次長の家族は保護していたが、その辺りで何かあったのかもしれないな」

 

 後の話になるが、この想像が正しかった事が明らかになる。

 家族を守るために次長は自殺したのだ。

 もっともその時の俺達にそんな事を考える余裕はなく、今後の裁判の展開に頭をひねるのが精一杯だった。

 

「しかし・・・痛いな」

「痛いですなあ・・・」

 

 やっぱり次長の証言抜きでは厳しいですか。

 

「厳しいな」

「麻特が組織ぐるみで麻薬密輸に関与していたのは立証出来るだろう。

 シェイファーも左遷くらいには追い込めるかも知れないが、奴の、もっと言えばその奥に隠れているだろう魔神教団の関与を問うのはほぼ不可能になるね」

 

 シェイファーは魔神教団なんでしょうか?

 

「こっちで調べた限りでは代々大蔵省に勤めるごく普通の下級貴族で、順当に能力を示して出世してきたようだが・・・まあ何ともな」

 

 そもそもどういう組織かすらもわかってませんからね・・・

 

「かつての魔神教団の情報など、ニシカワ家には残っていませんか?」

 

 書庫の本は全部読んだが、いつどこでこんな事をした、みたいな話はあっても魔神教団それ自体についての話はなかったな。

 ご先祖様が魔神を倒したのも、連中が全面侵攻してきたときに遭遇戦で討ち取ったみたいだし。

 

「つまり、手掛かり無しと」

「厄介だな」

 

 武力はともかく捜査力じゃ到底おじさんたちにはかないませんからね。

 当てにさせてもらっていいですか。

 

「無論だ。実際私たちも内部から浸蝕されてたわけだしな。ひとごとじゃあない」

 

 こっちも爺さんに話をしてみて、隠し書庫とか口伝とかないか聞いてみますよ。

 

「よろしくお願いします。それはそれとして、裁判の件ですが」

「審理再開は三日後だ。それまでにどうにか・・・」

 

 できるかも知れません。

 シル。

 

「ほわっ?」

 

 ほれ、あったろう。この前医神(クーグリ)の司祭様に教えて貰った術。

 

「え? シルは愛の神(アルリカ)の司祭だろう? 医神(クーグリ)の司祭様に術を教えて貰うなんてできるのか?」

 

 驚くおじさんだが実はできるのである。

 この世界の術は、魔術師魔法も神官魔法も妖精魔法も、全部魔術の始祖神たる〈祭壇〉の作った〈真なる魔術〉を元にしている。

 習得方法が異なるだけでぶっちゃけ全部同じなのだ。

 魔術師から司祭が術を教えてもらう事も可能だし、逆もまた然り。

 神殿によって教える術が違うのも、空手の道場と柔道の道場程度の違いであって、その気があるなら(そして金を積めば)両方学ぶことは可能だ。

 もちろん術師や神殿によっては金を積んでも教えてくれないこともあるが、医神(クーグリ)の神殿は人を救う事を重んじるから、治癒の手段が広まることはむしろ推奨している。

 ので、ここのところメットーの神殿に寄進をして、いくつかの高度な治療術をシルに習得して貰っていたのだ。

 

「でも・・・あれでどうするんだよ?」

 

 何、馬鹿とハサミは使いよう、ってな。

 魔法も同じだ。

 

 

 

 ティルが拘束台に縛り付けられている。

 さすがに警邏、この手の道具がすぐに揃ってありがたい。

 

「ヤメロー! ヤメロー! カエラコウズケノスケー! ブッ飛ばすニャー!」

 

 人を極悪人みたいに言うんじゃない。

 いや、「貴様は脳改造されショッカーの一員となるのだ!」とか言いたくなるシチュエーションではあるけど。

 ちなみにこの世界でも赤穂浪士は有名人で、当然吉良上野介は極悪人の代名詞として広く認知されている。

 色々バリエーションがあるが、江戸町人の命を喰らって巨大魔神と化した吉良の前に四十七士は次々と倒れ、大石内蔵助が命と引き替えに放った「飛ぶ斬撃」で倒される、というのが一番メジャーな結末だ・・・もうちょっと! 原作リスペクト! しろよ!

 荒木又右衛門の三十六人斬りなんか、これに比べれば誇張でも何でもないというか。

 他にも宮本武蔵が一条寺下り松で千人切り倒してたり、柳生十兵衛が眼帯の下からビーム出す魔法剣士だったり、改変無法地帯だなこの世界!

 閑話休題(それはさておき)。

 

「・・・準備は出来てるけど、本当にいいのかなんだよ? 意味がわからないんだよ」

 

 かまわん。やれ。

 

「まあいいけどね、なんだよ。あいあいさー! なんだよ!」

「ヤメロー! やめるニャー! 人の情けがあるのならー!」

 

 ねえなそんなものわ!

 ・・・と冗談はさておき、実の弟(アーザック)が肩をすくめてる時点で察しろ。

 お前に味方はいないのだ。

 

「ぎゃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ・・・・・・・・・・・・」

 

 悲鳴が上がり、そして消えた。

 

 

 

 三日後。再開された法廷で。

 

「お前は・・・?」

 

 逮捕から取り調べ、この法廷に至るまで終始余裕しゃくしゃくだったシェイファーが初めて困惑の顔を見せた。

 証人席に座った奴の前に立つのは、パンツスーツをビシッと決めた内務省の尋問官。

 眼鏡、緑の髪、猫の耳。

 凛々しさという、ごく一部の女性のみが許された形質を持つ男装の麗人。

 

「初めまして、レオドア・シェイファー。私の名前はティリアン・フェリス。猫の氏族(フェリス)のティリアン。

 この裁判におけるあなたの尋問官です」

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 いや、誰だよこれ。




>脳改造が済み、指令のままに動くようになれば、君は完璧なショッカーの改造人間の一員になれる!
初代仮面ライダーで本郷猛が改造される時のセリフ。

>荒木又右衛門の三十六人斬り
赤穂浪士、曾我兄弟と並んで日本三大仇討ちの一つ。
相手方の死者は四人(それも又右衛門が斬ったのは二人だけ)なのに、講談でどんどん数が増えてついには三十六人になったという、「講釈師 見て来たような 嘘をつき」の代表例。

>〈祭壇〉
〈百神〉の師である、〈創造の八神〉の長兄。

>やめてー! 人の情けがあるのならー!
>ねえなそんなものわ!
「BASTARD! 暗黒の破壊神」で主人公ダーク・シュナイダーが倒した吸血鬼に超えげつない古代の呪いを掛ける時のセリフ。
最高。

>ティリアン・フェリス
ティルの本名。獣人で猫の氏族はみんなフェリスを名乗る。
なので実は父やアーザックとは名字が違うという設定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。