全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
廷内がざわめいている。
「静粛に! 静粛に!」
タルカスさんが叫んでいるが余り効果はない。
まーそりゃそうだろう。
黙っていれば超美人のティルが、ビシッと男装を決めて法廷に立っているのだ。
おっさんとむさい男ばかりの場所に、いきなり宝塚の男役スターが現れたら誰だって驚く。
しかもヅカ女優と違って超グラマー。
女の体を男の服装に押し込む事によるセックスアピールと言うのは割と無視出来ないものがあって、出雲の阿国や一部の女性マジシャンなどを考えればおわかり頂けるだろう。
一神教系では男装の麗人や男性の女装を厳しく禁じているが、逆に言えばそれだけの色気があるから禁止されたと俺は思っている。
そんなのがいきなり現れたのだ、目を引かない訳がない。
「まずは八年前の麻薬密売人連続殺人事件について!
あなたはこの件の捜査を打ち切った上で、犯人である麻特の巡査を死んだ事にして隠匿しましたね?
巡査本人とシュワルツ警邏隊長から証言は取れています!」
「それは当然だ。このような不祥事を・・・ぐっ!」
何かを言いかけて、かろうじてこらえるシェイファー。
取り調べの時は、どれだけティルが話しかけても笑って黙秘を貫いていたが、それが破れかけている。
上がっているのだ、ティルの《加護》の力が。
「では次の質問です。シュワルツ警邏隊長を配置換えしたのは・・・」
朗々と響き渡る美声。
法廷中の目が今や彼女に注がれている。
美貌と、気品と、舌鉾を備えた切れ者尋問官。それが今のティルだ。
フジが俺の耳にそっと囁く。
「カエラ様はこうなることを予想してらしたので?」
そんなわけないだろ。
ゲロの沼で泳ぐガマガエルが優雅に天を舞う白鳥になるなんて誰が思うか。
「ひどい言い方なんだよ。否定はしないけど」
「でもじゃあなんでカエラ君はあんな事をさせたんです?」
ティルを拘束して何をしたかと言えば・・・実は解毒の呪文なのである。
それも今までシルが習得していた、毒の悪影響を食い止める血清程度の奴とは違う、毒を即時完全に体内から消滅させ、悪影響も打ち消してしまう凄い奴だ。
「それって要するに・・・ティルさんからお酒を抜いたってことですか?」
Exactly(そのとおりでございます)。
いや最初はね、あいつを追い込んで《加護》の力をアップ出来ないかって発想だったんだよ。
ギリギリの極限状態でそう言うのが覚醒するのは実際この身で確かめた事実だ。
「あー・・・分かるな。オレも《百獣の加護》を使いこなせるようになったのはそう言う経験した時だったし」
「わたくしどもも随分と荒行に付き合わされましたね・・・」
「母さんがいなかったら――」
「――死んでた気がする」
遠い目になるエフティ。
目が死んでるニンジャ三兄妹。
そのおかげで《加護》の力がぐんと伸びたやろ!
「まあそれはその通りではあるんですが・・・」
「というか一番死にそうになってたのが――」
「――若様なので、文句を言う気にもならないというか・・・」
「そんなことやってたのかだよ」
「つーかあの猫女、お酒を抜くのが最大の逆境になるって、どれだけ飲んべえなんだよ」
でも実際そうやろ。飲んべえにとって、酒を断つほど苦しい事はない。
まさか苦しみの余り超野菜人ばりに覚醒するとは思ってなかったが。
それとあいつが覚醒したのはもう一つ、俺が《加護》の使い方を教えたからだ。フジやシルと同じにな。
「私と、ですか?」
この世界でも自白させることを「ゲロる」とか「吐かせる」と言う。
ただ刑事ドラマがテレビで放映してないこの世界では今一つ一般的ではない用語だ。
あいつが何かを聞き出したり白状させたりすることが得意なのは、《ゲロの加護》を無意識のうちにそうやって活用してたからだ。
そして自覚して認識することで《加護》の力は更に強力になる。
できると思えばできる。そう言うものなのだ。
「ああ、なるほど」
「そう言えばそろばんを魔術の演算器に使うってアイデアはカエラちゃんだったね。ジューニャ先生の《加護》をお酒やとりのふん製造に使ったのも凄くいいアイデアだったんだよ」
「良くないですよう!」
そんな馬鹿な事を言い合ってる間に、法廷では反対尋問が始まっていた。
「シェイファー君は十年以上麻特の局長を務め、精魂を傾けて職務に邁進して参りました!
その彼が麻薬密売組織の黒幕であるなどと、言いがかりもはなはだしい!
これは内務省による政治的陰謀であります!」
反対尋問と称して熱弁を振るっているのは大蔵省の関税局だかなんだかの局長。
麻特とは流入する麻薬の取り締まりなどで協力関係にあるはずなのだが、シェイファーとは俺の耳にも聞こえてくるほどの犬猿の仲だとか。
「そんな人が何でライバルのシェイファーのことをあんな熱心に擁護してるんです・・・?」
官僚の・・・いや、組織の論理って奴だな。
身内ではえげつない権力闘争をやるが、外部から攻撃された時には一致団結する。
その「攻撃」が正しいものだろうがそうでなかろうがな。
「・・・ひどいものですね」
まったくだよ。
「彼こそは大蔵省が誇るべき官僚の
あ、「嘘つきの卵」が点滅してる。
「尋問者を偽証罪で逮捕します。速やかに連行しなさい」
「な、何をするだぁーっ!」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「放せ、放さんか! 何をする貴様らー!」
ばたん、と扉が閉まった。何とも言えない空気になる法廷。
おほん、とタルカスさんが咳払い。
「それでは原告方、証人尋問を続けて下さい」
「はい!」
何事もなかったかのように審理は再開された。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「四ヶ月前の六月二十一日! あなたは部下のマクフィーに目撃者を消すように命令しましたね! これはマクフィーから証言が取れています! しらばっくれても無駄ですよ!」
「ぐぐぐ・・・!」
二時間後。
疲れを知らず攻め続けるティルに対して、シェイファーには既に疲労の色が濃かった。
ありゃもう限界だな。このまま行けば勝てそうだ。
「油断は禁物です、カエラ様。勝ったと思ったときほど足下をすくわれるもの」
そうだな。お前達ニンジャはそうやって足をすくうのが得意だからな。
「御意」
笑みを交わす俺とフジ。
シルが何か不満そうなので後でフォローを入れておこう。
お? 法廷の様子が・・・
「さあどうです! その時の具体的な証言を読み上げましょうか!
『六月二十日、密売人の一人が警邏にたれ込むとゆすりを掛けてきた。二十一日、シェイファー局長が・・・』」
「黙れ小娘っ!」
手かせのはまったシェイファーの拳が、座っていた尋問席の肘掛けを砕いた。
沈黙が落ちる。
「さっきから黙って聞いてりゃ、いい加減ウゼェんだよ!
麻薬の密売? 殺人? それがどうした! このクソ獣人が!」
いきなりの豹変。エリート官僚とは思えない柄の悪さに、タルカスさんですら目を白黒させている。
「麻薬で廃人になろうが死のうが、てめえには関係ねえだろうが!
メットーに人間はクソほどいるんだ! 薄汚い獣人風情が人間様のやることに・・・」
「あなたっ! その声っ!」
ティルがシェイファーの言葉を遮った。
「あなたですね! あの日、私の前で麻薬の密売人を殺したのは!」
「!?」
法廷がざわめいた。
シェイファーは一瞬沈黙したが、舌打ちして言葉を続ける。
「チッ・・・だからなんだ? お前ら獣人は黙って人間様に従ってればいいんだよ!
誰のおかげでお前らの汚い犬小屋が守られてきたと思ってる!
黙らねえと、次はてめえの親が死ぬぜ! シュワルツの母親のババァみてぇにな!」
ぴたり、とティルの動きが止まった。
脅迫に屈した・・・いや、あれは嵐の前の凪だ。
「そうそう、大人しくしてりゃいいんだ。ケダモノは人間様に・・・」
「黙れチンピラ」
「・・・あん? 聞き間違いか? 黙れとか・・・」
「
その時起こったことを書き記すのは難しい。
ティルを中心に爆発的に吹き上がる魔力。
怒濤のような、嵐のような、人間では対抗出来ない何かが体の中を駆け抜け・・・
「「「「「おえええええええええええええええええええええええ!!!!!!」」」」」
俺含めて法廷中の全員が胃の中のものを全部吐いた。
加えて、それ以外のものを吐かされた人間もいる。
《加護》の力を直接叩き付けられたシェイファーだ。
「そ、そうだ・・・俺があの時売人を殺した。うっぷ。
見られたからにはお前も念のため殺しておこうと思ったが、げぼっ。
獣人のおかげでブックを殺し損ねたし、その後はよりにもよって『飛竜殺し』が護衛について殺せなくなった。
こうなったら事件そのものを隠匿するしかないと、シュワルツの家に火を、おげぇぇぇえ!
そもそも本物のシェイファーはとうに死んでて・・・ゲロゲロゲロ・・・」
ゲロを吐きながらゲロるシェイファー、否、偽シェイファー。
盛大に嘔吐しつつもいつでも飛び出せるように準備しながら俺は思った。
この裁判、伝説になるな・・・と。