全てを押し流すトンチキスキル ~奴隷しか抱けない男は女を所有する~ 作:ケ・セラ・セラ
「ガキの頃に寺子屋で受けたテストでカンニングして一位を取って、そう言う事を繰り返して成績優秀の評判を得て、官庁に入って出世しようとしたら馬鹿な貴族のボンボンのせいで枠が、おぼぉっ。
親戚の男が実は魔神教団で、俺の評判を聞いてスカウトに来て、ゲロゲロッ」
もう胃液しか吐くものが残っていないというのに、強烈な吐き気と共にゲロることを強要され続ける偽シェイファー。
本物のシェイファーは魔神教団の協力者で密輸ルートを造った本人であること、獣人街の狐団長との協力関係を作ったのは偽物のほうであること、偽物は素性を隠して本物のシェイファーの秘書をやっていたが、本物の魔神教団への要求が大きくなりすぎたので始末して入れ替わったこと、ここ十数年は偽物だったこと、顔かたちを変えられる《加護》を活用して顔のない殺し屋として動いていたこと・・・そんな事実が明らかになっていた。
ちなみに偽シェイファーがゲロった内容(虹色のあれのほうではなく)は、ここまで書記官が全部書きとめている。
膝をゲロまみれにしながらも書く手は一瞬たりとも止まっていない。
プロだな・・・。
「そもそも俺の親父は貴族の私生児で・・・げええっ。
ばあさんごと捨てられて・・・うぐっぷ!
親戚の男はそれを利用して俺を焚きつけて、おろろろろ・・・。
昔から使っていた子分たちもまとめて魔神教団のために働く一団に、おえっ。
ガキの頃にはまぬけな菓子屋から店先の菓子を盗んで子分どもに、ぐえええええ・・・」
そして話はいい加減魔神教団に関係あるのかないのかわからなくなって来ていた。
誰もが呆れて弛緩した空気が流れ始めたその瞬間、うつむいた偽シェイファーの目に鋭い光が走った。
「えっ」
「あっ!?」
偽シェイファーが投げた短剣に、一瞬誰もが反応出来ない。
青くぬらぬらと光る刃を持つそれは、一直線にティルに向かって飛び。
「なっ!?」
その胸に突き刺さる寸前、大きくカーブしてティルの体をそれた。
くるくると回転するそれはブーメランのような軌道を描き、俺の手に飛び込む。
それを投げ捨てると同時に剣を抜き、俺は傍聴席から法廷に飛び降りた。
「ちっ・・・うっぷ!」
吐き気をこらえながらも身構えて、偽シェイファーが俺を睨む。
恐らくこいつは途中でゲロる内容がなくなった後、吐き気に耐えながら口から出任せを言い続けたのだ。
ティルを殺すチャンスを作るために。
未だに強烈な吐き気に襲われているだろうに、マジで大した奴である。
そしてその投げた短剣がカーブしたのは、別に形状がブーメランだからとかそう言う事では全くない。当然、俺の《加護》の力だ。
つまり磁力である。ロビンが「露出」させた鉄鉱石を、石くずの中から拾い集めるのに使っていた磁力。それを咄嗟に放ったのだ。
供述が訳のわからない内容になってからも、偽シェイファーがティルに襲いかかるか、あるいはどこかに潜ませている手下が何かやらかすかと注意していたのだが、ギリギリで間に合った。
それだけ偽シェイファーに隙が少なく、その攻撃が鋭かったと言うことだ。
こいつ相手に何だかんだ三度も生き残ったティルの悪運は半端ないな。
俺に引き続いてフジたちが次々と飛び降りてくる。
アーザックがティルの横に着地して、姉をかばいながら後退した。
タチバナ、ヒョウ、二人を。
「かしこまりました」
俺、フジ、エフティが偽シェイファーを取り囲む。
ロビンとレイはシルとジューニャのカバー。
ティルの《加護》は解除されたようだがまだ吐き気が残っているのか、口元を抑えてよろけている。
俺の顔を見ると、偽シェイファーは媚びるように笑った。
「なあ、見逃してくれよ。
お互い貴族の家には恨みがあるはずじゃねえか。
俺なんか貴族の孫なのにろくな暮らしもできないから、手段を選ばず這い上がるしかなかったんだぜ」
俺は物心ついた頃には両親が死んでて、継母とそいつの手の者に四六時中陰湿な嫌がらせを受け続けて、祖父もろくに味方してくれなくて、何度か殺され掛けたことだってあるぜ?
「っ・・・」
同情を買おうとしてるようだが、口先三寸で何とか隙を作ろうとしてるのが見え見えだぞ?
「ちっ」
いつまでも偽シェイファーじゃ呼びづらい。
お前の本名は?
「・・・」
オーケー、わかった。
やれティル。
「分かったニャ!」
わきわきと手を動かすティル。
確変モードは終わったのか、既にいつものダメ猫だ。
「わかったわかった! 話すよ! もう胃袋の中に吐くものはねえんだ!」
最初からそうしていればいいんだよ。で?
「タント。タント・ドーベルさ。以後お見知りおきを」
長い付き合いにするつもりはないね。
「ちなみに俺の祖母を捨てたのが、そこにいる内務大臣様の父親・・・ぐぼっ!」
おっとすまん。つい手がでた。
確認するがジューニャ、エフティ。今の嘘だよな?
「嘘ですね」
「ああ、嘘だ」
まあ人間気の迷いってのはあるが、少なくともカーターの先代は子供産ませて捨てるようなクソ野郎じゃない。
そんな人間がうちの爺様とツーカーの仲でいられるもんか。
そう言うとよろめきながらタントが立ち上がる。
「なるほどね・・・あんたの知らない母方の祖父とかにしときゃよかったよ」
その場合でもどうせジューニャ達の鼻には引っかかるから無駄だがな。
そう言えば顔はどうやって変えてるんだ。
《幻影変装》の呪文か?
「あれは便利だが魔法感知で一発だ。
時と場所によってはまるで使えない手段だね。
俺のはもっと確実さ」
魔道具か、それとも変身魔法でも使うのか。
「後者が近いね。
それともう一つ。あんたはブラッド・リーをただの魔力強化薬だと思っているが、あれには色々な使い道がある――たとえばこのような」
もごもごと口の中で舌を動かすタント。
! やばい!
一瞬で踏みこみ、刀で相手の顎を切り落とそうとする。
だが、それでも奴の方が早かった。
「そう言えば言ってなかったことがあった。
捨てられた祖母はカメレオンの獣人だったのさ。俺は婆さん似なんだ」
奴の顔がぐにゃりと歪む。
振り抜かれた刀は、まるで泥をかき回すかのような手応えを残し、奴の顔をすり抜けた。
同時にべちゃり、と奴の体が服ごと液体のようになって形を失い、床の隙間にしみこむ。
顔を変形させる《加護》をブラッド・リーで強化して、全身を液体に変化させた!?
余計な思考を脳の片隅に押し込め、反射的にフォノン・メーザー斬りを放つ。
手応えは・・・あったがなかった。
液体と化したタントは床にしみこみ、フォノン・メーザーに床ごと斬られたが、何事もなかったかのようにそのまま遁走する。
波動感知!
追うぞ!
「はいっ!」
裁判所の扉を蹴破り、波動感知で掴んだ奴の反応を追う。
しばらく走ったが奴はどんどんと地下にしみこみ、やがて反応を追えなくなった。
くそっ!